第5話 自分を見るのが嫌になる
文字数 996文字
いつも読み返さない、自分の小説。自己分析もしたい気がするけど、散々「このナルシストめ!」と言われ迫害を受けてきたから、疲れ果てて「自分を見る」のが嫌になった。
正直、鏡で自分の顔を見るのも辛い。
とにかく否定されてしまうこの世界が嫌だった。誰もがおれの顔を見るたびに不愉快な表情になる。
そんな自分が書いた小説を、「自分で愛したい自分」や「そこから成長したい自分」と、「醜い自分が書いた小説を読むと気が狂いそうになる自分」とが心の中で常に戦っていて、それを知ったら「結局おまえは自分自分で、自分のことしか考えてない」と殴られ、笑われるのだ。
別に他人なんかどうでもいいと思いながら、しかしもう、そんなことを言う奴は近くにいなくなったというのに、思いだし、吐き気をもよおしてしまう。
他人の視線やひとつひとつの言動が、恐怖と結びつく。すでにそれは、「特定の誰か」ではなく、漠然とした「他人」というあやふやなものから見られる、「他人」の視線だ。
他人だ、というだけで怖い。
自分は、気持ち悪い。
他人も自分も、嫌いだ。
この世はグロテスクなオブジェクトで満ちている……。
「……ぱい。……先輩。萌木先輩……、部長!」
その声で、目覚めていく……。
「ん? ああ」
どうやら眠っていたらしい。思い出したくない、昔考えてたことをフラッシュバックのように夢の中でリプレイしちゃったな。
「先輩。いえ、萌木部長。部室を勝手に昼寝の場所にしないでください」
「うん? ああ。そうだね。昼飯食べに部室に来るのもどうかと思うけど。……大丈夫。佐々山さんは気持ち悪くない」
「はぁ? 言われる筋合いないんですけど」
「そうだね」
「気持ち?」
「悪くない」
佐々山いづきさんの平手打ちが頬にあたる。痛い。
「女の子に対する言葉じゃありません」
「なにもひっぱたかなくても」
「言葉は重要ですから! 文芸部ですよ!」
「あぁ。文芸部ですから、……か」
「なにニヤけながら遠い目をしてるんです? キモいですよ!」
「とか言いつつまたひっぱたかないで! 痛い!」
「今度、甘味処につれてってくれたらひっぱたきませんけど」
そうだった。過去はしまっておくに限る。
今はこうやってニヤけてられるんだから、いいじゃないか。
〈了〉
正直、鏡で自分の顔を見るのも辛い。
とにかく否定されてしまうこの世界が嫌だった。誰もがおれの顔を見るたびに不愉快な表情になる。
そんな自分が書いた小説を、「自分で愛したい自分」や「そこから成長したい自分」と、「醜い自分が書いた小説を読むと気が狂いそうになる自分」とが心の中で常に戦っていて、それを知ったら「結局おまえは自分自分で、自分のことしか考えてない」と殴られ、笑われるのだ。
別に他人なんかどうでもいいと思いながら、しかしもう、そんなことを言う奴は近くにいなくなったというのに、思いだし、吐き気をもよおしてしまう。
他人の視線やひとつひとつの言動が、恐怖と結びつく。すでにそれは、「特定の誰か」ではなく、漠然とした「他人」というあやふやなものから見られる、「他人」の視線だ。
他人だ、というだけで怖い。
自分は、気持ち悪い。
他人も自分も、嫌いだ。
この世はグロテスクなオブジェクトで満ちている……。
「……ぱい。……先輩。萌木先輩……、部長!」
その声で、目覚めていく……。
「ん? ああ」
どうやら眠っていたらしい。思い出したくない、昔考えてたことをフラッシュバックのように夢の中でリプレイしちゃったな。
「先輩。いえ、萌木部長。部室を勝手に昼寝の場所にしないでください」
「うん? ああ。そうだね。昼飯食べに部室に来るのもどうかと思うけど。……大丈夫。佐々山さんは気持ち悪くない」
「はぁ? 言われる筋合いないんですけど」
「そうだね」
「気持ち?」
「悪くない」
佐々山いづきさんの平手打ちが頬にあたる。痛い。
「女の子に対する言葉じゃありません」
「なにもひっぱたかなくても」
「言葉は重要ですから! 文芸部ですよ!」
「あぁ。文芸部ですから、……か」
「なにニヤけながら遠い目をしてるんです? キモいですよ!」
「とか言いつつまたひっぱたかないで! 痛い!」
「今度、甘味処につれてってくれたらひっぱたきませんけど」
そうだった。過去はしまっておくに限る。
今はこうやってニヤけてられるんだから、いいじゃないか。
〈了〉