第47話 理想論

文字数 1,276文字

「ふーん。『創作することを楽しめ』ねぇ……。飛んだ理想主義になったものね、萌木部長も」

「理想主義って……。そうなのかなぁ。いいこと言ってるなぁ、と思ったけど」

「理想論を吐いてるだけよ。今はもう卒業している先輩たちに叩かれてきたひとだから、創作が〈つくって楽しかったね、はい、終わり〉って論法じゃ済まないってこと、一番よく知ってるはずなのよ、あのひとは」

「萌木部長の……下積み時代、か」

「ぷぷ、山田くん。萌木部長だって、今も下積みには変わらないわ。ただ、部長をやってるってだけだし、わたしと山田くんとは、一歳しか違わないわよ」

「でも、今の佐々山さんの喋った話じゃないけど、苦労は人一倍してきたはずだよ、萌木部長は」

「それは肯定しましょう。家庭が複雑だし、そのうえ、この文芸部は厳しかったらしいし。それを証明するように、今の三年生で残っているのは、萌木先輩……部長だけなのよ」

「この文芸部からたくさんのプロフェッショナルが生まれたっていうのは本当の話だし……。一体どういう環境だったんだろうね」

「さぁ、知らないわ」

「名作って、そんなに生まれるはずないと思うんだけどなぁ。でも、本屋にもここの先輩たちの書いた本が並んでいる」

「前に、同時多発的に同じような作風のものが生まれて、それがムーブメントやシーンを形成していくって話、したわよね」

「ああ、したね、そういえば。数学者や科学者のノンフィクションや群像劇を読んでいると、科学の分野でも同じだってのがわかったよ。同じ大発見をした論文が同じ日に、違う国に多発的に生まれるっていう」

「そうね。そして、歴史っていうのはそれだけでなく、なぜか〈才能が一か所に集まることがある〉ものよ」

「多くの才能がある時期、一か所に偶然集まってしまうの、あるよね。別にそれは〈集めたから集まった〉んじゃなくて、〈偶然その場所に集まってしまっていた〉っていうのが圧倒的に多い」

「そこが、歴史の面白いところでもあるわよね」

「漫画の『ジョジョの奇妙な冒険』のなかで言及される、『スタンド使いは互いに引き合う』っていうの、本当なんだよね。いつもそればかりか、というと、そうでもないんだけど、確率的にはおかしいくらい、人材が一か所に集まることがある」

「それが数年前までのうちの文芸部だったのよ」

「そういうことも、あるんだなぁ。僕には関係のない世界だと思ってた。身近に、そういうことがあるなんて!」

「それが、〈シーン〉てことなんだけどね」

「引き寄せあうのか」

「三國志や梁山泊。ギリシャ哲学。維新志士。タイプはまちまちだけど、才能が引き寄せあってるのがわかるわよね。分析して、その集まりは〈つくられたものだ〉って言うひともいるだろうけど」

「文学にしても、文壇バーに集まってるとかじゃなくて、本当になぜか近場にみんな集まってしまっていた、っていうの、あるの本当なんだよね」

「わたしたちもそう言われるように、頑張りたいところね」

「そうだね……」




〈了〉
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