第37話 同人ゲーム

文字数 1,113文字

「伝統と革新の二項のせめぎあい。政治よりも、〈戦略的な芸術〉でこそ、今はそれが立ち現れるのかもしれないな」

「なるほど。すると部長、もちろん、〈文学〉でも、立ち現れるということですよね」

「文系の想像力自体が、政治的文脈と不可分になっているからなぁ。ナンセンス詩を書いたとしても、それは政治的に読まれることを回避することは不可能だろう」

「なにかを表明してしまうんですよね、文学は。文字がプリントされたTシャツですらそこから逃れられない」

「小説を書くと、それだけでなく、性的嗜好なども〈読まれてしまう〉からな。大変だな、山田」

「部長。なぜ僕だけ名指しでそう言われなくてはならないのか、さっぱりです」

「青島も山田も、美少女ゲームを嗜んでいるじゃないか」

「青島くんの場合、つくっているんですけどね、テキストゲームを。あと、嗜んでるのはレーティングが大丈夫な奴ですからね!」

「わかったって。そう怒るなよ。それにしても、同人ゲームって思ったより面白いな」

「え? 部長が同人ゲームをプレイした?」

「ああ。青島から勧められてな。買ってプレイした。テキストゲームを何本か」

「どうでしたか。面白い、とは?」

「ゲーム会社の、大勢で一年くらいかけてつくるビジュアルノベルより、すっきりした印象だな」

「最少人数でやってるサークルがほとんどだからなぁ……」

「でも、さすが同人。流行の物語の作り方は外さないで展開されていたな」

「うーん。それは大手サークルを選んだ……のかな。大手さんは、やっぱり作り方上手いし、それにゲーム会社と、フットワークの軽さが違いますよね」

「なかには少数に理解されればいい世界もあるのだろうが。理解されづらい性癖を扱ったような」

「どちらかというと、それをプレイするために同人をプレイするんですけどね」

「いや。だが、一人きりでつくる小説と違って、ゲームは最少人数と言っても普通は一人ではないので、ユーザーのことをちゃんと考えているのが多かったな」

「それは言えますね。小説って一人きりでつくるから、独りよがりがマックスになっても許されるんですよね、特にウェブでやるなら」

「そこなんだよ。そこになにか、自分でつくる小説の勉強になる部分が潜んでいる」

「それ言ったら『月姫』も同人ゲームなんですけどね。これでもか、と練られて作られているけど」

「同人のサウンドノベルにも挑戦してみたくなったよ」

「部長……いきなりどうしたっていうんですか? ゲームに目覚めちゃったんですか?」

「同人は面白い世界だよな、と思っているだけさ」

「へぇ……」



〈了〉
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