第13話 業が深いな!

文字数 1,122文字

「春だー」

「山田、なに言ってんだ、もう梅雨だぞ」

「マジか……」

「マジか、じゃない。先輩に対する敬意が足りないな」

「いや、僕、昨日、長編を書き上げたのでウキウキなんですよ」

「ほら。雨期雨期って、やっぱり梅雨だろ」

「萌木部長、オッサンギャグキツいっすよぉ」


 僕は萌木部長の肩に手を置く。


「な……なん……だと? オッサンギャグ……ッ」



 そこに佐々山さんが入ってくる。

「キャッ! 二人きりの密室で見つめ合ってナニしてるの!」

「変な妄想はやめろ、佐々山」

 僕の手を払い、部長が怒る。

 しかし、佐々山さんの妄想は止まらない。

「いえ、愛はいずれ憎しみに変わる。見つめ合う二人にも、別れが訪れるでしょう。ならば憎しみに変わるその前に、そう、この恋が美しいうちに萌木部長を殺さないといけないと山田くんは思ったの。そして部室にある果物ナイフを手に取り……」

「そっちか、佐々山。業が深いな!」

「部長、佐々山さん、最近暴走気味なの、どーにかならないんすか」

「なぜおれに訊く?」

「えっ? だって二人、付き合ってるんでしょ?」

「はぁ?」

「山田くん。あのね、ゴリラと人間は種族が違うの。異種族間では愛なんて起こりようがないわ」

 むっと、眉間にしわを寄せる萌木部長。

「おい佐々山。もちろんゴリラってのはおまえのほ……げはっ! ぐはっ! うぐぉげら!」


 萌木部長。佐々山さんに盛大にぶん殴られるの巻。


「いてててててて。……それはいいとしてだ、山田。長編小説完成おめでとう」

 立ち直りの早い部長だった。



「うーん。でも僕、見えない分岐点を通って、困った世界線へ来てしまったような。この部活、最近みんな暴走してません?」

「気のせいだ。小説書いてる奴らなんてみんな、ある意味ビョーキみたいなもんだからな! 普通はエンカウントしないイベントにぶち当たる。今日のホモサー疑惑も、小説書きならではだ。今日も変なイベントにぶち当たっただろうが、物書きしてたら日常茶飯事だ」

「は、はぁ……。ところで、イベントにエンカウントするのはいいんですが、イベントCGが見れるイベントはないんですか」

 部長が首を傾げる。

「イベントCG?」



「なんでもないです……」



 佐々山さんがため息。

「えろげ脳は治らない病よね」

 僕、山田春樹、高校二年生。イベントCGは0枚で、CGギャラリーはモード開放されてない。

 ん?

 言ってる意味がわからないって?

 ああ、わからないものだ。


 ひとがどんな欲望を抱えているかなんてものは、特に。



〈了〉
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