第30話 見聞を広げろ

文字数 904文字

「小説を書く、って言ったって、題材はどうしろっていうんですかね、部長」

「根本的な問題だな、山田」

「ここ、文芸部だから〈小説の話〉をしているけれども、必要なのは〈題材〉じゃないですか」

「そうだな」

「僕、小説読みますけど、趣味がないんですよ、無趣味」

「ああ。執筆の衝動だけあるけど、具体的になにかを表現したい、という欲望とはまた違う、という話だな」

「そうなんですよー」

「贅沢な悩みだな」

「いや、死活問題ですよ! ここ文芸部では『書き方』は教わるけど、『なにを書くか』は、教えてくれませんからね」

「そりゃそうだ。自分で見つけろ」

「えー?」

「見聞を広げろ」

「そんなこと言っても、どーしていーやら」

「自分だけのテーマを見つけた奴は、やっぱり強いよな。強くなるためには、自分で動かなくちゃな」

「そうなんですけどぉ」

「山田、この前、即売会でマゾッホみたいな小説同人誌出してたじゃないか」

「妄想をかたちにするしかなかったんですよ! えっちぃ妄想を」

「青島も佐々山もうわぁ、って言ってちょっと引いてたが、おれとしては、かなり良かったと思うぞ」

「……返答に困るなぁ、それ」

「妄想をかたちに出来るならそれでいいじゃないか。妄想から、それを組み立てるための材料を漁って見つけ出せばいい」

「うひー。時間かかりそう」

「一日にして成らずなのは、文学も一緒だ」

「文豪ってみんな若い頃から活躍してる天才がほとんどですけどねー」

「逆のことを言うようだが、書くためのスキルを学ぶのも必須だぞ。題材あるのにかたちにできないなんて、悔しいじゃないか」

「そうですね、確かに」

「ゆっくりしか、成長できない奴もたくさんいるさ。それでも、成長はするものだよ」

「そんなもんですかね」

「最後はやっぱり運を含めた才能がモノを言う」

「ですよね」

「才能の塊と自分を比べても意味ないぞ。才能がないのは、努力でカバーだ。カバーできるものでもないが、努力しないより、はるかにマシだ」

「努力での成長に賭ける、か。……肝に銘じますよ、萌木部長」



〈了〉
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