第91話 ぶんぶんがくがく:4(上)

文字数 1,123文字

 月天と喫茶店に来ている。
 今後の作戦会議、と思って、だ。


 本当に自分たちが都市伝説になってしまったかの判断はできなかったが、俺自身にも不思議な力が宿ったのは事実だった。

 おれは自分の手のひらを見やる。
「〈ブルース・ドライバー〉……か」
 手のひらを握りこぶしにする。

「『脱呪術化』された世界が『再呪術化』していくその過程のようだな、まるで」
 月天がシニカルに言葉を発した。

「モリス・バーマン、か?」
 おれが月天に聞いてみると、
「ああ。ちょっと囓っただけだけどよ。面白い概念だと思うわけよ」
 と、答える。
 考えていることは同じだったようだ。

 おれは珈琲にクリームを入れてスプーンで混ぜた。白が黒に吸い込まれて茶色になっていくのを見ながら、月天におれは説明をする。

「〈笑止教師協会(しょうしきょうしきょうかい)〉と、その予備軍の〈県下怨霊〉。奴らは武闘派だ、という。人間は争えば血を流す。だが、無理矢理争わせて血液を強制的に流させて学ばせるイカレた連中だってことはわかっている。そういう〈都市伝説〉が流布しているのもまた事実だ」

「彼岸と此岸の行き来を、おれたちはしていると思うんだよな。それこそ、ちゃんとした現実に、此岸に戻るためには、県下怨霊のトポスをすべて潰す必要がある」

「おかしいと思っていたんだ。撃破した奴らは身体ごと消えてしまう。月天。おれたちは、なにか幻覚でも見ているのか。それとも、これはオーギュメンテッドリアリティかなんかか?」


 たらこスパゲッティをずるずると飲み込む月天。
「わかんねぇ。でも、巻き込まれていて、現実と、〈奴らの世界〉を行き来してるのは事実だ。気に病むことじゃねぇ」

「ひとは機械ではない。血を流す動物だ。だが、〈わざと〉血を流させるための教育を施そうとしていているあいつらは、機械のように人間を捉えている。血が流れてからじゃ遅いこともあるんだ。みんながみんな、おれたちみたいな不良になって血液まみれにするのは教育としてはおかしい。それこそ、軍事教練とだって折り合いがつかない思想だ。ひとは〈殺されるために生まれてくる〉わけじゃないんだ」



「そこで繋がるのか、再呪術化に。つまり、機械論的意識から呪術……言い換えれば、ミメーシスによる〈参加する意識〉へ、と。ありもしない客観的現実を想定し、のーみそを分裂させて引き裂くような機械的意識からの解放を、青島は考えているんだな」


 スパゲッティをまた口に運ぶ月天。



「まずは、脱呪術化の話をプレイバックしようか、月天」

「ああ。まあ、今日は暇だしよぉ、話には付き合うぜ」




〈92話へ続く〉
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