第12話 ディストピア小説のテーゼ

文字数 846文字

「さて。山田くん。この世の楽園はどこにあるのかしら」

「知らないよ、そんなの。……いきなりどうしたの、佐々山さん」

「楽園だと思えばどこだって楽園でしょ。ユートピアは、逆に外から見たらディストピアだったっていうのが、ディストピア小説のテーゼかと思ったまでよ。文芸部的な考察をしていたの」

「うーん。佐々山さんはミステリマニアだからロジカルに言うんだなぁ。内部にいる人間は情報操作されててユートピアだと思うっていう、あれだよね」

「わたしはSFだって好きよ」

「ああ、そう」

「自分が楽園だと感じたものに対しては、黙ったまま墓場まで持っていくけどね。楽園気分になれるものなんて、絶対他人には教えないわ」

「女のひとって、なんだかみんな、そういうとこあるよね。独占欲っていうか」
「わたしを他の女と一緒くたにしないでいただけないかしら!」

「佐々山さん、すっげウザキャラになってるな……」

「いいわ。山田くん。学食の激辛麻婆飯で手を打つわ」

「えー。手を打つわ、じゃないよ。話をふっかけてきたの、佐々山さんじゃん」

「それはともかく。いつの時代も冒険者に限らず『この世の楽園』を追い求める者が絶えないわよね。世界地図が埋め尽くされても、尚」

「特に男は、だな。楽園を想像しがちなんだよな。だからハーレム物のラノベは売れる。逆に女のひとって『今、この場所』を『自分に都合の良い楽園に改良させたがる』ことを指向する傾向にあるね」

「また知りもしないくせに女というものを語りたがる……。いいわ、激辛麻婆で」

「いや、だからさ、そういうところが、この場所の最適化、なんじゃないの?」

「……この話、平行線を辿るわね」

「ひととひとはわかり合えない。だからひとは不満のないユートピアを目指すのかもね」

「だとしたら、人間が人間である限り、ユートピアなんてあり得ないわね」



「このディストピア、外のひと、つまり宇宙人かなんかが見たらユートピアなのかも」



〈了〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み