第20話 レッテル貼られてなんぼ

文字数 1,170文字

「ジャンル小説に顕著だけど、いわゆるお約束の『構造』ってあるじゃん。ミステリだったら『孤島物』とか『洋館物』とか。SFだったらファーストコンタクト物とかサイバーパンクとかさー、なんかそういうやつ? 部長、どう思いますか」


「えーっと、青島。だからなんだ? なにを質問しているかわからん」


「萌木部長、困った顔しないでくださいよー。おれも自分でなに言ってるかわからないんで。なんかこういうの、ぶっ壊した方がいいのか、おもねるのがいいのか」


「次に書く小説の話なのかしら。この悩み。でも、チャレンジャーじゃない、ぶっ壊すなんて。でも、ぶっ壊すってそれ、『メタフィクション』ていう『ジャンル』になってしまうのよ」


「マジすか」


「佐々山の補足をすると、ジャンルから逃げるのは難しいということだ。むしろレッテル貼られてなんぼだからな。ジャンルから逃げたつもりが回収されてしまう」


「うーむ。そうなのか」


「あー、なんだ、そのな、青島。〈様式美〉も、良いものだぞ。サブジャンルは書く方も『これだ!』って決めて書ける。読者も『あ、これね!』って了解して読める。安心して手に取れる。荒唐無稽なのは考え物だろうな、どちらかというと。逆にな、ジャンルのお約束に従って、それさえ守っておけば、お約束以外は自由に書いても読んでもらえる確率は増すぞ」


「青島くん。萌木部長が言ってるのはね、〈手にとってもらえるか〉や、〈最後まで読んでくれるか〉の、方法論としての〈お約束の構造〉の話なのよ」


「そっすね」

「でも青島くんが言いたいのって、オリジナリティを突き詰めたい、って話なんじゃないかしら」

「そうそう、そーなんすよね。佐々山先輩、わかってるー」

「はぁ……。みんな一度は通る道だから」

「え、そうなんですかー!」


「なに大声出してるの。青島くん、もしかして『この発想、おれにしかできないだろう』的に考えてのことじゃないでしょうね。それ、中二病を発症してるだけよ」

「うっ、胸に刺さる」

「うふふ。黒歴史に決定のその〈ぶっ壊した〉作品を書きなさいな!」

「佐々山。後輩をいじめちゃダメだぞ。それに、〈ジャンルは常に更新される〉んだ。その〈ぶっ壊した〉、ミュータントな物語が同時多発して新ジャンルを築くのは、この世界の常識と言える」

「同時多発?」

「そうなのよ。部長の言う通り。なぜか知らないけど、同じ類いの小説が違う場所、互いに干渉する場所にいないのに各地でほぼ同時期に生まれ、それが新ジャンルになる。〈時代が要請していた〉としか形容できない、そんなことが多々あるわ」

「それ、なんだか、格好いいっすね」



「はぁ……。そこが中二病だって言ってるのよ、青島くん」

「うぐぅ……」



〈了〉
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