第172話 予測
文字数 1,003文字
何故、このような事態になってしまったのか。あの日から蒼龍はずっと、同じことばかり繰り返し考えていた。
あの日――月龍をこの部屋に招き入れた日のことを。
市場で月龍と蓮を見かけたのは、あの日の数日前のことだ。
まったくの偶然だった。
それまで蒼龍は、無気力な日々を送っていた。蓮を奪おうと躍起になっていたのがウソのように、気力がわいてこない。
無邪気な笑顔は消え、輝きの失せた瞳の蓮は痛々しいだけだった。あのような姿など、もう見たくはなかった。
違う。違うはずだ。
月龍は蓮を殴っていたという。目前で蓮を抱いてみろなどと言うのは、関心を抱いていないからだ。月龍が蓮に興味を失ったのならば、奪ったところで意味はない。
否、意味はあるのか。「公主」を娶れば、たとえ
朝廷に留まるのではなく、商へ赴くにしても「公主」は人質になる。
だが蓮は、決して蒼龍を選ばない。
体を奪うことはできるだろう。力ずくで連れ去ることも、容易だ。
それでも、心は手に入らない。二人の判別がつかなくなるほど絶望を味わわされていてもなお、月龍を求めて泣いていた。
もし腕力にものを言わせて従わせたとしたら、蓮はきっと怯えるだろう。そうして、月龍だと思いこんでやったように、蒼龍の前で膝を折る。
――あのときの光景が、ずっと続くことになる。
嫌だと思った。蒼龍に対し、怯え、震える蓮の姿など、堪えられる気がしない。
ならば心ごと手に入れるしかない。だがそれが、難しい。
完全に手詰まりになっていた。いい案を思いつかぬまま無為に過ごしていたあの日、市場で偶然に二人を見つけたのだ。
月龍と蓮の間にあった、冷え切った空気感が消えていた。どこか和んだような雰囲気と、互いを見つめる笑みを含んだ眼差しとが、やけに癇に障る。
なにか、劇的な変化があたとしか思えない。
その変化とは?
二人の様子や、足を止める店を見れば、答えは自ずと導き出された。
子供だ。蓮が月龍の子を身籠ったのだ。
まだ想像の域は出ていない。即座に調査に入った。もし蓮が本当に妊娠したならば、立場を考えれば醜聞を恐れ、すぐにも結婚するだろう。いくら内密に進めていたとしても、完全に隠しきることは難しい。
そして、宦官である
まず間違いない。だからこそ直接、月龍に揺さぶりをかけたのだ。