第24話 辟易
文字数 1,088文字
月龍と蓮が結ばれた。
仮に同意の上でも、亮としては腹が立つ。まして、想い人が無理強いで体を奪われたと聞いて、平気なはずがなかった。それこそ月龍を殴ってやりたく思う。
もっとも、月龍の頑丈な体を殴ったところで、痛手を受けるのは亮の拳の方だろう。また、暴走するきっかけが亮のせいだったこともある。
怒気を抑えるために、一つ深呼吸をした。
「それで?」
「それで、とは」
「だから。今回はおれにも責任があるから、相談に乗ってやると言っている。蓮はお前に何と言った? こんなことするなんて酷い、とでも泣かれたか」
だとすると望みは薄いな、諦めろ。
皮肉の一つくらいは許されるはずだ。意地悪く言い放つ。
月龍の眉間に刻まれた皺が、さらに深くなった。亮もつられて渋面になる。
「なんだ。本当にそう言われたのか」
「否――今日はまだ、会っていない」
「昨夜はお前の所に泊まったのだろうが。当然、送り届けてきたのだろう?」
「それが、その――逃げてきた」
「逃げた?」
決まり悪げな呟きに、亮は目を吊り上げる。憤りに気づいたのか、月龍は慌てたように目の前で両手を振った。
「無論、車は手配した。邸へお連れするように命じてあるから、無事に帰られるはずだ」
「莫迦が、そのような問題ではない」
もはや、溜め息も出ない。怒気も隠さず、まくし立てる。
「考えてもみろ。自分を抱いた男が、一言もなく姿を消している。一人でぽつんと寝かされていたなどと、心細い以上に惨めにもなろうが」
はっと息を飲んだ月龍の顔が、見る見る蒼白に染まって行く。指摘されて初めて気がついたのか。
亮は、がしがしと自らの頭をかきむしる。
「ああもう、これだから無骨者は嫌いだ!」
「どうしたらいい、亮」
「どうもこうもない! 今すぐ――は仕事だから無理か。ともかくすぐに、できるだけ早く蓮に会いに行け。夜のことも、置き去りにしたことも謝るのだな。蓮のことだ、率直に気持ちを伝えれば、許してくれる」
「率直になど――亮、お前とは違う。おれには無理だ」
「無理ならば仕方がない。何、大丈夫だ。できなければ蓮に嫌われて、別れることになるだけだ」
亮が発した突き放す物言いに、月龍の顔が歪む。怒っているように見えるが、そうではない。これが月龍の、泣きそうな顔なのだ。
つくづく情けない男だと、亮は辟易する。
「今ならばまだ間に合う。だからそのような顔をするな」
慰めながら、情けないのは自分かと思い直す。なにが悲しくて、惚れた女を奪って行った男からの、恋愛相談に付き合ってやらなければならないのか。
このような立ち位置を続けざるを得ない自らの身上に、亮はふと同情した。