第163話 看病
文字数 1,059文字
一月ほど、月日が流れた。
蓮の流産以降、月龍は軍に顔を出していない。いつ蓮と引き離されるかわからない状況にあると自覚しているから、少しでも長く傍に居たかった。
范喬を通じて休職願いは出してある。理由としては、体調不良を上げた。
実際、月龍の体には無数の傷もあり、荒行のせいで体力も著しく落ちているのだから完全な嘘ではない。
もっとも、傷自体は半月ほどで完治していた。元々傷の直りは早い方であるのに加えて、蓮の看病をしなければならないと思う精神力が治癒力を高めたのかもしれない。
逆に蓮の回復は芳しくなかった。目に見える傷はもうほとんど治り、痣が残るくらいだが、問題は心の傷だった。
子供を失ったことは、計り知れない衝撃だっただろう。さらに、もう子を成せないかもしれないことが追い打ちをかけたのは疑いない。
身体的な回復具合だけならば、そろそろ身の回りのことなどを自分で初めてもいい頃だった。自分にできる限りのことはやった、あとは頼みますと、范喬が出て行ったことからも窺える。
それでも蓮は、臥牀の上からほぼ動かない。すべて月龍の手に任せたままになっているのは、深く傷ついた心が癒えていないからだ。
否、蓮には蓮の思惑があるのかもしれない。
蓮は、月龍が彼女のことを疎んでいると思いこんでいた。世話をするのは、亮や趙靖の目を気にしているからなのだと。
その上で面倒を任せているのは、嫌がらせのつもりだろうか。
可哀想なことだ。それが月龍の、ささやかな幸せとなっていることも知らずに。
打ち明けるつもりはない。蓮を騙しているようで気は引けるけれど、彼女と関わることをやめたくはなかった。
臥牀の端に座らせる。まだ湯に浸かることはできないけれど、体を清潔に保つために汗などを拭ってやらなければならなった。
肩から衣服を滑り落とさせる。抵抗はない。裸身を晒すのは月龍を信頼しているからではなく、慣れと復讐心の故だろう。
こうして見るとやはり、肌の上に傷はほとんど見当たらない。真なる回復が体よりも心に委ねられていることを思えば、難しさに閉口する。
手を止め、ため息を吐く様子に気づいたのか。ちらりと目を上げ、月龍の視線が自分の肌に向いていることを知ったか、蓮の眉がしなる。
「――私を抱きたいの?」
冷徹な半眼から発せられた冷たい声に、背筋が凍る。愕然と目を瞠る月龍から顔を背け、蓮の目はすでに宙を見つめていた。
「でしたらどうぞ、お好きなように。抵抗などしませんから」
すっと目を閉じ、あお向けた顔にはやはり、表情はなかった。
蓮の流産以降、月龍は軍に顔を出していない。いつ蓮と引き離されるかわからない状況にあると自覚しているから、少しでも長く傍に居たかった。
范喬を通じて休職願いは出してある。理由としては、体調不良を上げた。
実際、月龍の体には無数の傷もあり、荒行のせいで体力も著しく落ちているのだから完全な嘘ではない。
もっとも、傷自体は半月ほどで完治していた。元々傷の直りは早い方であるのに加えて、蓮の看病をしなければならないと思う精神力が治癒力を高めたのかもしれない。
逆に蓮の回復は芳しくなかった。目に見える傷はもうほとんど治り、痣が残るくらいだが、問題は心の傷だった。
子供を失ったことは、計り知れない衝撃だっただろう。さらに、もう子を成せないかもしれないことが追い打ちをかけたのは疑いない。
身体的な回復具合だけならば、そろそろ身の回りのことなどを自分で初めてもいい頃だった。自分にできる限りのことはやった、あとは頼みますと、范喬が出て行ったことからも窺える。
それでも蓮は、臥牀の上からほぼ動かない。すべて月龍の手に任せたままになっているのは、深く傷ついた心が癒えていないからだ。
否、蓮には蓮の思惑があるのかもしれない。
蓮は、月龍が彼女のことを疎んでいると思いこんでいた。世話をするのは、亮や趙靖の目を気にしているからなのだと。
その上で面倒を任せているのは、嫌がらせのつもりだろうか。
可哀想なことだ。それが月龍の、ささやかな幸せとなっていることも知らずに。
打ち明けるつもりはない。蓮を騙しているようで気は引けるけれど、彼女と関わることをやめたくはなかった。
臥牀の端に座らせる。まだ湯に浸かることはできないけれど、体を清潔に保つために汗などを拭ってやらなければならなった。
肩から衣服を滑り落とさせる。抵抗はない。裸身を晒すのは月龍を信頼しているからではなく、慣れと復讐心の故だろう。
こうして見るとやはり、肌の上に傷はほとんど見当たらない。真なる回復が体よりも心に委ねられていることを思えば、難しさに閉口する。
手を止め、ため息を吐く様子に気づいたのか。ちらりと目を上げ、月龍の視線が自分の肌に向いていることを知ったか、蓮の眉がしなる。
「――私を抱きたいの?」
冷徹な半眼から発せられた冷たい声に、背筋が凍る。愕然と目を瞠る月龍から顔を背け、蓮の目はすでに宙を見つめていた。
「でしたらどうぞ、お好きなように。抵抗などしませんから」
すっと目を閉じ、あお向けた顔にはやはり、表情はなかった。