鏡の中問い掛けろ
文字数 1,295文字
何の地位に付いていない底辺身分の遺体は、ろくな捜査もされずに事故死扱いになった。この国の警察は、地位のある人以外にはとても塩対応だった。例え人の命を奪った者であっても、地位のある相手には弱い警察。三権分立などは机上の空論。治安を維持する為の機関は、地位のある者相手に弱い。そして、弱者には権力を容赦なく振るう。それが、その遺体を遺棄した者にとっては有利に働いた。否、無能な警察の管轄する地域を狙って遺体を遺棄していた。
有能な警官の集まる管轄もあれば、その真逆もある。場所によっては、県境を越えるだけで、一気に警察の質が下がるエリアもある。管轄エリアの格差をも狙い、遺体を遺棄した者は「発見されやすいが、真っ当な捜査が行われることすらしない場所」に遺体を遺棄したのだ。その犯人は、そのエリアで勤務する警官の誰よりも賢く人目を欺くことにも長けていた。そう、この犯人が命を奪ったのはこれが初めてでは無い。
そして、時間が経過する程に遺体からは死因を特定出来なくなる。これにより、遺体を放置していた罪には問えても、殺意は証明出来ずに終わる。河原の遺体も、死因を特定出来ぬ様に細工がされていた。そもそも、司法解剖は全ての遺体になされる訳ではない。そんな時間の余裕も人手も無いからだ。この為、余程の要人でない限り、現場に向かった警官の心に事件であることの疑いは生じても、事故として処理することの方が多い。その方が、手間も時間も掛からないのだから。例え真実を暴いたとしても、何の地位もない遺体相手では、感謝する人も居ないのだから。