73. 《 推す日 》 2023/5/17

文字数 1,545文字




携帯電話に電話してくる職場の先輩がお二人いた。
お一人はSNSを活用するようになったので、今電話でお話しするのはW先輩だけになった。
かように電話を介するお付き合いが極端に少なくなったのは、ぼくが働き止めしたから、そしてデジタル通信進化のせいだろう。
毎日SNSで自分の近況や独り言を勝手に発信しているのだが返答がくるわけでもない、まして電話で反応してくる友達もいない。
W先輩もご自分のペースで電話してくる、 
「特に用事があるわけではないんだけどさ~」というのがまくら言葉になっている。
昨年スマホキャリアをdocomoから変更した際、特典で一年間電話かけ放題無料サービスがついてきた、高齢者限定だとのことだ。先輩との電話が長引くほどに、なるほどと納得している、

先日 先輩からの電話で難しい質問を頂戴した。
と言っても 僕の好きなシネマに関してのこと、いつも会話には気配りしてくれる優しい先輩なのだ。「好きな映画を10作挙げるとすればどれかい?」 という、答えようのない質問だったので素直にその通り返答した。
70年間近くシネマを見ていて膨大な作品をすべて覚えてもいない、何をキーにするか、単純なお好み作か・・などと正論を述べてしまった。
先輩のお好みが古風な西部劇でありジャズ系統であることを知っている、素直に僕の嗜好ベスト10を答えればよかったのかもしれない。
それでもベスト10シネマはきっと選べないだろう、こんな不満が心の中でずっと燻っていた。

翻って 海外の人に観てもらいたい日本シネマを選ぶとすれば何になるか?
しばらく悩み考えた結果、こんなところに行きついた。
いま日本の存在感が薄れ始めているような気がする、得意の経済力の低下に伴い過去数十年間の綻びが一気に顕在化してきた。富の格差、ジェンダー問題、多様性対応、デジタル化、難民受け入れ、民主主義・平和主義の疲弊、数え挙げればきりがない。
他国の人々にどう思われようといいではないか・・・という意見もごもっとも、日本人の悪癖の一つかもしれない。
しかし、最近ミニシアターでハリウッドシネマでない外国シネマに触れその国の現在を学習する秘かな楽しみを覚えたところだ。
お返しとして、日本の実像をシネマで発信し理解を深める意義はありそうな気がする。
その基準として :
■高品質であること、演出・脚本・映像・音響・美術・俳優等々が整っていること。
■時代を超えて世界に役立つテーマを扱っていること。
■日本の本質に触れるものであること。
ある程度鑑賞に堪える質劣化のないものとすると、大過去の名作(黒沢初期、小津、溝口など)は名作だけど選考から外した。テーマがあまりに古い物、誤解される日本観の作品も除いた。
こうして僕が選んだ「世界に発信する名作シネマ10作」、以下 製作年度の古い順に紹介する、その理由と一緒に。

「八甲田山(1977)」 : ひたすらに戦争を憎み平和を願う。
「太陽を盗んだ男(1979)」 :身近に迫る核テロの危険。
「影武者(1980)」 :日本の様式美、侍の悲劇。
「復活の日(1980)」 :そこにあるウィルスの危機。
「単騎、千里を走る(2005)」 :中国とのかかわり方。
「硫黄島からの手紙(2006)」 :戦争の無意味さ。
「クライマーズ・ハイ(2008)」 :ジャーナリズムのあり方。
「湯を沸かすほどの熱い愛(2016)」 :日本人庶民パワー。
「万引き家族(2018)」 :富の格差と孤独。
「ドライブ・マイ・カー(2021)」 :芽生えつつある多様性。

少し古臭い作品も含まれているが、10作が発するメッセージが世界に届いて、アニメとラーメンとトイレだけが日本ではないことを世界に知ってもらえるといいな。

独り勝手にベストシネマを推す 今日である。
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