36.《 食堂の日 》 2022/9/14

文字数 1,470文字



65歳で働き止めして以来習い事にいろいろ手を出した、
それもお金のかからない習い事をであるが。
退職前から楽しみにしていたトライアスロンは63歳ですでに諦めていたので、何か新しいもの、それも役に立つものを模索した。
ちょうどその時、父を自宅で介護することになる、絶妙のタイミングで介護(真似事ではあるが)を一から学んだ。
もちろん、高齢者介護は一人でできるものでもなく妻の多大なサポートをもらったわけだが、その分妻の家事を負担することにした。
まず最初は「食器洗い」を担当する、いきなり妻のメイン領域を脅かす家事に手を出すのは諍いのもとになる。プロの調理人修行も最初は洗い場だと聞いていたが、やってみると僕の性格に合っていて実に面白い。
使った食器の汚れをざっとふき取り、洗剤で洗い水洗いする。
ラックで乾燥する間に、シンクの料理クズを取り除き石鹸・スポンジでシンクを磨く。
拭き取りした食器、鍋、フライヤーを所定の位置に戻しキッチン回り、食器棚をきれいにする。
ただ、夕食後の洗い物は酔った状態での作業のため頻繁にガラス物を中心に破損させてしまった。お気に入りだったバカラのワイングラス、ビアカップ、オールドファッショングラスを次々と割ってしまった、何事もパーフェクトとはいかない。

働き止め前から調理しているのが「休日パスタ」と呼んでいるパスタ料理だ、一品しか作らないので夕食ではなく朝食として、気の向いた時作っていた。
洗い場下働きの貢献が認められたのか、パスタだけではなく朝食を一括して任されることになったのが2019年3月のことだった。
とはいえ毎日パスタというわけにもいかないので、少しづつレパートリーを増やしてきた、和食(白米)、洋食(パン)、中華(チャーハン)、パンケーキ(卵ベーコンセット)、丼(のり弁風)、最近ではピザにまで手を広げている。
前の夜、妻にリクエストをうかがうこともあるが原則は自分が食べたいものを作ることにしている。
同居の娘の分も入れて3点、週2~3回調理するパスタは「ナルシストのボーノボーノ」としてNOBELDAYS にアップしている。その他の朝食は月間報告として、月初めに一挙FBにアップしている。

友人たちからは、「商売にしたら」とか「お店を出せば」などと起業を促す暖かい激励をいただいたが、父が定年後最後の飲食店として選定したパスタショップに敵うわけもなく、それも実際は父の道楽のような商売だったことも認識しているし、ましてこの年齢で創業の気概もなかった。
朝食作りは極めて日常であるから、毎日毎日だんだんと惰性のようにメニューを変えながら作り、食べる、片付ける状態になっていた。

そしてこの夏から家族が7人に復活した。
僕ら夫婦以外は当然皆社会活動に忙しい身だ、特に高校生二人、小学生一人は伸び盛り、朝食が大切だ。
僕の使命は一気に重要になってきた。
ウィークデイは毎朝6人(1人は早朝出勤)の朝食を用意している、お弁当は妻の豊富な経験に頼ることにした。
早朝のキッチンは夫婦共同使用で大混雑である、6:00お弁当2個完成、6:30 朝食セット。
今は孫たちの嗜好と量を確かめながら、それでも栄養と見栄えを大切に調理できるのはこれまで3年半の修行の賜物である。

朝食堂を緊張して迎える毎日になった。
孫たちを送り出し朝食の後片付けをすべて終えコーヒーを淹れる時、心からほっとする、
朝食堂の報酬はというと・・・家族にちょっとでも役に立っているという満足感だ。
あれだけ否定し続けていた食堂を毎朝開くことになった、
予想もしない 「今日である」。
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