99. 《 おせちの日 》 2023/11/15

文字数 1,420文字


  

2018



♫ も~いくつ寝ると お正月 お正月には・・・・ ♫
小さい頃、本気であと何日寝るとお正月になるか数えていた、そんな原体験がしっかり心に焼き付いて、いまでもお正月が好きだ。

お正月が正しく成立するには正しい大晦日が欠かせない。
物心ついた時から大晦日には紅白歌合戦があった、テレビではなくラジオで聞いたことが今ではどこか別の惑星のお話のように思える。
その日は親子三人が住む狭い借家に、父方の祖父母が泊まりに来ていた。
夕餉の席で「今年も大変お世話になりました」という会話が行き来する、他人行儀な挨拶が可笑しく奇妙に感じたものだ。
それは翌朝に続く。
お正月の朝、おせち料理とお雑煮を前にして、また他人行儀になる、「今年もよろしくお願いします」と宣言し合う。
一瞬、家族が家族でなくなり対等な人間同士になった気がした、小さかったぼくもその時は一人前に扱われた。

お正月が好きだったのは、このようなリセットの儀式のせいだったような気がしている。
去年までは色々あったけど、それは置いておいて今日から気持ちを新たに過ごしましょう…かなりポジティブな切り替えだった。
歳を重ねて、家庭を持ち子供が生まれ孫が誕生しても、お正月のこの効能にずっと頼ってきた、「今年も、今年こそ」が励みになった。

65歳で働き止めした後も14名がお正月に集いあいさつを交わした・・・今年もよろしくお願いいたします。父が特養施設に入りそこで看取られ13名の集まりになっても、集まりは途切れることはなく続いている。

お正月のコアであり象徴ともいえるのが妻お手製のおせち料理だ。
師走12月になると、おせちの準備が始め、1ヶ月かけてすべてのおせちアイテムを一人で手作りしていく。仕上げは、鰤の照り焼きと讃岐風お雑煮、おせち料理は家族五十年の伝統になっていた。
大晦日にテレビで紅白を見ながら大騒ぎし、翌元旦にあいさつし合う・・・
「おめでとうございます、今年もどうぞよろしくお願いします」
何も変わることはない、と思っていた。

孫たちがどんどん大きくなってきた一方、ぼくたち夫婦はあっけなく小さくなってきた。
小さくなっただけでなく体力も減ってきた、年を寄せたわけである。
昨年 ぼくから妻に提案した 「もうおせちを作るのはやめないか?」
代わりに おせち料理を注文することにした。

おせち料理の原点はお正月三が日、主だった商店が休業になるのでその間の食糧確保が第一だったと理解している。
つまり、3日間 同じ料理を食べ続けるわけであるが、その時はそれ以外の選択肢がなかったから疑問に思うこともなかった。
今現在、スーパーはお正月でも開いている、ファミリーレストランもファストフッドも利用できる。
なにより おせち料理は保存食だけに三日間食べ続けるのが決まりだ、だから飽きてくる。
ぼくらの結論は おせち料理を元旦の食卓を彩るだけの形式として取り寄せにして、その代わり 鰤焼きと讃岐風お雑煮は死守した。

幸いにも讃岐風お雑煮はスーパーユニークな一品(餡丸餅入り白みそ仕立て)なので、このインパクトでお正月が充分際立つ。
讃岐風お雑煮をいただきながら、「今年もみんな元気で過ごせるように、今年もよろしく」と訓する。
来る2024年お正月にも同じ挨拶ができることをいまから楽しみにしている。

♫ も~ いくつ寝ると 予約特価おせち料理セットの締め切り日? ♫
おせちのことが頭から離れない秋深い 今日である。
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