47.《 耳を澄ませる日 》 2022/11/16

文字数 2,190文字



45話で設置したのが年齢別のマイルストーン、
そこでは72歳のマイルストーンを「補聴器を装着する」にしている。
・・・・その訳はというと・・・
耳の中でピーンという音が消えず、頭を振ると反響したり、今まで以上に聞こえづらくなった今年の夏の日、意を決して耳鼻科に診察をお願いした。
そこは大きな規模の最新のクリニック、ドクターも若くてしっかりしていて信頼できる方だった。症状を告げると、「耳垢かな?」と言って一緒に内視鏡で観てみる、自慢ではないが耳掃除は僕も大好きでしっかり清掃済みだった。
「う~ん、ではひととおり検査をしましょう」 ということで2時間聴力に関していろんな検査を受けて過ごした。
その結果はというと・・・「年相応の聴力です、まだ補聴器はいいかな」、「見た目がお若いのでちょっと心配したのですが、こんなお年とは・・・」
褒められたのか貶されたのか複雑な気持ちになる、それともこれが最近のドクター・セール・トークなのか? 
結局、効けばラッキー(という効能)な噴霧薬をいただいて帰宅した。
やはりラッキーは呼び込むこと叶わず、その後も耳鳴りや、会話が聞き取れない日が続いていた。

自分で難聴だと自覚しだしたのはここ2年くらい、その前から「左の耳は聞こえません」などと自虐冗談めいて訴えていたように、聞きづらいな という実感をずっと抱いてはいた。
最近(1年前くらい)大河ドラマを字幕付きで観るようになった、その方が楽でよく理解できた。
人との会話の中で何回も聞き返すことに気づき、最近は適度に聞き流しするようになった、つまり正確に聞いていないことが多くなった。
買い物に手間取る、クリニックの受付から呼ばれても気づかない、無理して会話するとトンチンカンな答えをする。
見ず知らずの人と会話する機会はまれなので、家族間の会話であればそれで済むと思っていたがそれもどうやら間違いだとわかってきた、家族が僕にまともに話しかけなくなってきた。
「難聴から認知症になりやすい」・・・先日診察してくれた耳鼻科ドクターの言葉を想いだし,
ちょっと戦慄が走った。

何とかする頃合いだと覚悟した、何を…と言ってもわからない、結局思いついたのは補聴器にすがること。
そうすると日常生活のいたるところに「補聴器」の案内広告が目につく。
近年流行りの眼鏡専門チェーン店には必ず「補聴器あります」の看板、コストコはじめスーパーには聴力検査コーナーが設けられている。
団塊世代が73~75歳になり大量の難聴・老眼・腰痛の高齢者が街を漂流している・・・と推理するのは容易いことだった。
折も折 SNSに世代別マーケティングによる(と思われる)ピンポイント販促であろう補聴器モニター案内が頻繁に届くようになった。
だからと言ってむやみに反応するのもしゃくだし、そもそも補聴器に関する風評はどちらかというと芳しくない。
雑音が多い、慣れることが難しい、デザインが良くない(じじくさい)など・・・一番の難点が高価格(らしい)という点だ。
高齢者御用達の腰痛、白内障の治療には保険が適用されるが、補聴器への援助金などは聞いたこともない。
これから何年使うのか?(何年生きられるのか?) という重要な疑問に自分自身で答えることができないのも悔しいところだ。
最悪のケースとしては、あれこれ考え悩んでいるうちに認知症になってしまい難聴などどうでもよくなるかもしれない。

ことは急を要する予感がした。
大手補聴器機メーカーが 「モニター募集」と称する販促企画をSNSに投入したのを目ざとく見つけて、即刻申し込みした。人生初の補聴器購入を決めることなどできないのが実態だとすれば、モニター制度は渡りに船だ。
1週間たっても、そのメーカーから連絡がない、きっと大勢の団塊世代が申し込んでいるのだろう・・・落選したと思い本件は忘れ去った。

次に飛び込んできたSNS記事は「初月100円でサブスクできる会話補助器」というコンセプト、今まであった補聴器へのハードルを心理的に取り払った心憎いアプローチに僕の迷える心が捕まった。申し込み3日後に商品が届いた。
到着までの3日間メールで、購入のお礼から始まって、使用への心構え、アプリダウンロードの連絡案内がフォローされる。
この機器はスマホ内にアプリをダウンロードし、アプリに連動して様々な状況音設定ができ、耳鼻科で受けたような聴力判定も随時でき、その結果を再び音設定に反映することができる。
補聴器は設定が面倒だという噂も聞く、そのたびにお店で調整する手間がかかるとも聞く、だから高額なのかもしれない。
そのボトルネックを専用アプリで改善した発想はいかにもデジタル21世紀らしい。
ダメ押しのように、「最低三か月間は慣れるため我慢してください」と、ユーザーメンタルをフォローする説明とその根拠である脳と耳の機能をこれまたわかりやすく教えてくれる。
その後も継続して定期的に使用状況の確認と、よりよく使いこなすためのアドバイスがメールで届く。
補聴器機を必要とする世代に狙い定めた至れり尽くせりのマーケティングアプローチだ、ただしスマホを持っていることが条件ではあるが。

さてさて、高齢者でなければ体験できないスリリングな毎日をこれから3か月間過ごすことになった。
その昔、初めて転職し未知の仕事に就いたころを思い出す、緊張と期待に満ちた 今日である。
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