96. 《 形振り構う日 》 2023/10/25

文字数 1,531文字



第5話「仮面覚醒の日」(2022/2/16)で高齢者の身だしなみに関して偉そうなことを述べた。
数少ない外出の際しては、備蓄洋服をコーディネイトしてしっかり仮面をつけることも宣言した。
今年、4年居座ったコロナが去って代わりにやってきたのが猛暑の夏であり、根源的には地球温暖化に伴う日本列島亜熱帯化だった。

3月13日 ウィルス対策のマスク着用義務解除によってファッションは以前のようにフリースタイルに戻ったと思っていた。
しかしこの夏、外出時に着用するアイテムが限られるほどの猛暑が続いた、Tシャツ一枚でも暑苦しい。海老名市防災部署からは「熱中症アラート」が毎日送られてくる・・・年寄りは外出を控えろと執拗に諫める。
コロナパンデミックに代わって熱中症の壁が立ちはだかる。
外出する気持ちになれない夏となった。

6月~9月までの4か月間、人と会うための外出、敢えて言えばハレの日が何回あったか振り返り調べてみた。
恐るべし・・・・たったの一度だけだった、初めて社会人となったオリベッティでの仕事仲間との4年ぶり同窓会に出かけた一度だけだった。
ところで、高齢になると夜の集まりを避けたくなる、その心はと言うと帰宅が不安なことに集約される、なによりお酒に弱くなった。ランチ飲み会が今や高齢者集まりの主流になっている。
同窓会当日、定例会場となっている横浜中華街のお店に駅から向かうお昼時、たった数百メートルだが灼熱地獄だった。
それを予想して、ぼくはTシャツ一枚だけで会に参加した、ハレの意識は欠片もなかった。

もちろん他にも外出自体はしている、同じ期間中に病院(治療・検査)に15回、シネコンに33回、他に食料品買い物などもあった。
通院の服装は機能優先になる、膝の注射には短パンが似合う、内視鏡検査には着替えやすいものを選んだ。
シネマ鑑賞は暗闇で過ごすだけのアンチハレ、夏場は冷房が利きすぎるのでサマ―セーターを持参する、ブランケット代わりに。
スーパでの買い物も含めてこれらの外出は、念押すまでもなく定例の日常行動、着るものを選ばない。形振り(なりふり)構わないのが原則だ。

へそ曲がり根性がここでむっくりと頭をもたげる。
最後のマラソンレース以来 FREE JOG と称して「好きな時に 好きなところを 好きなだけ」ジョギングしている。
脚部の複数故障個所を少しでも悪化させないための措置であり、走る喜びへの未練でもある。
この夏、FREEの条件のひとつである「好きな時」を取り下げ、暑さを避ける「早朝」に限った。
日中の猛暑のなかは絶対に走れないし、せっかくの「防災海老名勧告」も無視できない。
朝(6~7時)でもすでに暑い、30℃近くになるのが今年の夏だ。
3時半に起き、4時半スタートのFREE JOGがこの夏のFREE ではないFREE JOGになった。
「好きな時」を撤回せざるを得なかったので、腹いせのように「好きなウエア」を新たに採用した。
この場合の「好きな」の意味は勝手な気儘ではなく、I LIKE BESTの意味の好きである。
マラソンレース用に用意していたハレのウエアで朝まだ暗い道をジョグすることにした。
レース用ウエアとしてパンツ2点とシャツが4点残っている、その組み合わせは8通り、悔やまれることに最後のレースまでにそのすべてを試すことはできなかった。
明日走りたいと思った夜、八分の一から選んだウエアセットを枕元に大切に置いて眠る。

まだ薄暗いなか、形振り構ったハレのレースウエアに身を包みゆっくりと走り出す。
ふと 小林旭ヒット歌謡曲が聞こえてくる、むろん空耳であるが。
♫ あなたが探してくれるの待つわ~  昔のウェアで走しいりいまああす ♪。 
一生 ナルシストの 今日である。
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