72. 《 バラが散った日 》 2023/5/10

文字数 1,265文字




小枝を移植しただけの薔薇に小さな蕾がついて・・・そして小さな花が咲いた。

♫バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが ♫ ・・・思わず涙ぐんでしまった。

COCOと一緒に散歩するのが、今の僕にとって大切な日課であり、健康面からも貴重なエクササイズになっている。
COCOは2才になるビーグル、生後3ヶ月の時家族になって以来、僕ら夫婦にとっては最後の愛犬になると思って溺愛している。
散歩していると、出逢う方からお声をかけられることが多い・・
「ビーグル可愛いですね」、「いくつなの?」、
そして、意外と多いコメントが「うちにも 昔ビーグルがいたんですよ」。
そうなんだね、昔一時期ビーグルブームがあった、おそらくその時の思い出なのに違いない。
そのころ、我が家も初代のビーグル「ゴルビー」と過ごした、初めての犬との付き合いに戸惑うばかりだったが、ゴルビーは15歳の長寿を全うした。
ゴルビーの遺骨は彼が君臨していた庭の片隅に、お墓代わりにと赤いバラを植えた、それからは毎年真っ赤な花が咲くようになった。
二代目ビーグル「小夏」は最初から内犬(家の中で育てる)」としておとなしい女の子を選んだ。小夏はもともと頑強な体質ではなかったこともあって3年前 10歳で旅立った。
小夏の遺骨は天国で一緒に遊んで欲しいと思ってゴルビーのすぐそばに埋め、ゴルビーのバラの小枝を直接土中に差しておいた。

小枝が根付いて小さな赤い花を咲かせたのは去年の春のことだった・・・♪バラが咲いた♪ と感動したのは前述の通りだ。大きなバラと小さなバラ、まるでゴルビーと小夏が天国で仲良く遊び回っているように楽しそうに咲いていた。

2歳になったCOCOは元気で運動能力に優れてはいるが、自己主張の強い激しい性格のヤンチャ娘だ。ゼロから育て上げるという決意で臨んだだけに、COCOの我儘についつい声を荒げ叱り飛ばしてしまう。
そして・・・「小夏は賢かったんだよ~」 とか 「ゴルビーは一人きりで寒さ暑さに頑張ったんだよ」とか先代犬を引き合いにし愚痴ることが多くなった。
近頃 2歳になったCOCOとの関係が一層親密になった。
毎日散歩する、日曜日にはお風呂に入る、常にスキンシップを心掛けるうちに、目と目でまた少しの言葉で心が通い合うようになったような気がしたのが今春のこと、ちょうどゴルビー・小夏のバラが咲くころだった。

でも 庭の片隅に可憐なバラの花が見つからない。
小夏のバラが消えている、その元になるゴルビーのバラも枯れてしまっている。

・・・小夏の声が聞こえてきた・・・
「COCOちゃんを叱らないで大切にしてあげてね、
ビーグルにもいろいろ個性があるの、多様性って知ってる? 
それからもうバラの花は散ったけれどいつもそばにいるから心配しないでね 
大好きだよ ありがとう」
・・・優しい想いが伝ってきた。

♫バラが散った バラが散った いつの間にか、 僕の庭のバラは散ってしまったけれど 僕の心にバラが咲いた いつまでも散らないバラが ♫

COCOとの時間を楽しく過ごす決意を新たにする 今日である。
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