98. 《 名を継ぐ日 》 2023/11/8

文字数 1,148文字



小さい頃には、「男前ヨシタミ」と両親から呼ばれていた、褒めて育てるというよりは過保護だっただけのことだろう。
小学、中学、高校、大学ではシンプルに名字で呼ばれていた「カガワ」と、少数の友人からは「ヨシタミ」と呼び捨てられたが、愛称はなかった。

勤め人として働き始めた最初から広告関連の仕事が続いた、勤め先は6回変わったがそのたびにクリエイティブな連中との付き合いが絶えることがなかった、そこではお決まりのちゃん付け、「カガワチャン」、実際には「カガチャン」と聞こえたが、今でも彼らに会うとそう呼ばれる、でもこれは愛称ではない。

誰も愛称をつけてくれることなく、だから愛称で呼ばれることもない日々を経て54歳、孫が生まれたとき自分で自分に愛称を付けた。世間一般的に言えば「オジイチャン」と呼ばれるには54歳はまだ早い、という以前に「オジイチャン」と呼ばれたくなかった。
目の前の問題は速やかに取り除いておくに越したことはないとビジネスで学んだ、人生においても然り。
早速孫にはこう呼ばせることにした 「スージイ」。

スージイの元の意味は「スーパー爺(ジジイ)」、正式には(二代目)が付くのだが普段は省略している。
初代スージイがいるのである。
長年所属していて今でも名誉会員だと自称しているトライアスロンクラブチーム・サブ3、そこに初代スージイがいた。 Iさん、お年はぼくより上、トライアスロンレースでは一つ上のエイジカテゴリーになる先輩だ。
Iさんはそのカテゴリーでいつもトップ争いをする年代別チャンピオンだった、まず女性会員から自然と Iさんを「スージイ(スーパージジイ)」と呼ぶ習慣が広まった。
本人は頑なにその愛称を拒んでいた、「爺」は嫌だとも言っていた、当時まだ50歳前後だったから当然の拒否だったに違いない。ぼくはといえばひとつ上のカテゴリーのIさんに全く歯が立たなかった、練習会でも置いてけぼりを喰らった、そして穏やかな性格のIさんを秘かに尊敬していた。

「スージイ」はだから「スージー」ではなく女性の名前でもない。
小さな子供にも発音しやすいだろうと思い愛称にした、もちろん(二代目)の部分はややこしくなるから今もって教えていない。
現在に至り、孫たち6人(19歳~11歳)が揃ってぼくを「スージイ」と呼んでくれる、げに幼児教育は重要かつ強力なのである。

ひとつだけ気懸かりなことがある。
先代スージイに、正式に二代目襲名を伝えていないまま、お許しを得ていないことだ。
でもきっと静かに笑って許してくれることだろう。

伝統あるトライアスリート称号 「スージイ」を、次は誰に継承していくか、勝手な悩みを愉しんでいる 今日である。

《注》写真「1997年佐渡トライアスロン遠征のチームサブ3」には初代と二代目が写っている》
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