1.《 仔犬が来た日 》  2022/1/19

文字数 1,881文字




ちょっと古いお話になる、2021年6月23日のこと。
ここで言う「仔犬」とは我が家の三代目ビーグルファミリーであるCOCOのことだ。
「来た」と言っても、COCOが玄関の扉をコンコンとノックして、初めまして・・・と挨拶したわけではない。
また、ブリーダーさんがご指名の仔犬を届けてくれたわけでもないし、ましてクール宅急便で送られてきたのでもない。
世間一般の方法で仔犬を購入した、ペットショップで。

問題になるのは「日」である。
二代目ビーグル小夏が亡くなったのが2020年2月29日、一年間の喪に服した間も二代目を思い出してはひとり涙していた。
2021年3月になり、めそめそするのもいい加減にやめて前向きに考えることにした、もう一度仔犬を迎えるか・・・と。
下世話な話になるが、その頃空前のペットブームになっていて仔犬の価格が高騰し、なおかつビーグルにも巡り逢うこともなかった。
原因は新型コロナウィルスによる家時間の増加、「テレワークにもなったし、給付金も入ったし・・・」も加わって、初めてペットを飼ってみようという家庭が増えたことだと言う、さもありなんである。
生体販売(仔犬の販売)に対しては、販売店の過剰な商業主義や購入後の飼育放置・虐待などが指摘され社会的問題になってきていたが、購入希望者がいる限り、それも増加している限り「需要と供給」の経済原則が作用するのは仕方がない、自由経済主義社会の日本なのだから。
それでは保護犬里親制度を活用してみようといろいろ調査したが、ネット上での情報には限りがあり、と言って施設等に訪問するにはまだまだコロナパンデミックではハードルが高かった。

というわけで、定期的にご近所のペットショップ3軒に顔を出してはビーグルを探し、毎回スゴスゴと帰る日々が続いていた。
ビーグル犬にこだわった特別な理由はなかった、初代ゴルビー、二代目小夏の流れに逆らうことなく従っただけだった。さすがにビーグルに巡り逢えないので、他の犬種でもいいかな・・・と思い始めていた、例えばジャック・ラッセルとか。

2021年6月23日、朝御飯の用意をしていると妻がそっと耳打ちする、「Mさんのお宅、新しいワンちゃんが来たみたい」。
小夏病死のすぐ後に姿を見なくなっていたMさんちのワンちゃん、高齢だったこともあって亡くなったのだろうと思っていた。
窓からそっと覗いてみる、「仔犬みたいだね、前の犬と同じ種類だね い~な~」、なんとなく羨ましくなっていた。
妻が日用品調達のためショッピングセンターに出掛けるという、彼女は彼女でこのショッピングセンター内のペットショップに毎回顔を出してリサーチしていた。
僕は「そのあと訪問したいところがあるから、一緒に乗ってくよ、買い物のあと送ってね」、
急いで用意して家を後にする。
妻が買い求めたかったのは「ざる」、毎年の梅干しづくりの消耗品補充だった。
入り口をまっすぐ入ってすぐ左に季節物雑貨コーナーがある。
その目線の先にあるのがペットショップ、ざるを目指して先を歩く妻がざるを通り越してそのまま進んでいく。
妻の肩越しに僕もはっきりと確認した・・・ビーグルがいる。
ショップに来て4日目だというビーグル、こまめにリサーチしてきた成果だった。
売買契約書(生体ですから)、医療保険、血統書の手続きを終えて1時間後には仔犬は二人の腕の中にあった。
「ざるは?」・・・「また別の日」、そのあとで ざるを買う気持ちには到底なれなかった。

仔犬を車の後部座席に乗せたまま次に訪問したのは、特別養護老人ホーム「なごみ」。
入所している父に夏のパジャマや化粧水を届けるためだった。
2021年の6月と言えばTOKYO2020オリンピック開催を繕うかのようにコロナ感染者増加にもかかわらず緊急事態宣言を終了したのが20日。
緊急事態宣言終了にもかかわらず、面会は依然禁止になっていたがどうしてもここにきたかった6月23日だった。
この日は前年 父が入所した日、ちょうど一年が経過していた。
実はパジャマや化粧水は単なる付け足しだった、僕自身の気持ちを満たすためだけの訪問になった6月23日。
特別老人養護施設ではコロナ感染拡大に対応して5月以来面会禁止が継続されていた。

本当は父に面会してこんな会話をしたかった・・・
《今日仔犬がやってきたんだよ、それも一時間前に急に》
でも《親父の代わりに一年後仔犬がやってきた》とは言ってはいけない。
父は大の犬嫌いだから。
そんな空想に浸りながら、施設の担当者に品物を渡した。

【今日である】 あることの意義ある 今日だった。

記:2022年1月19日
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