121. 《 ジョニ青の日 》 2024/4/17

文字数 2,060文字



ジョニー・ウォーカーはスコッチウィスキーを代表する名門ブランドとして日本でもその名前は古くから広く定着していた。
ぼくがお酒を飲み始めた頃、ジョニー・ウォーカー黒ラベルはその最高級品として、一度は喉に染み込ませたいもの・・・と思ったものだ。

その下位ブランドとしてジョニー・ウォーカー赤ラベルというのもある。
社会人一年目のとき、先輩にジョニ赤をご馳走になった・・・
「これがかの有名なジョニクロのアカだぜ、味わって飲みな」と言われ、畏まってグラスを傾けた記憶がある。
今思えば、「ジョニ黒の赤」とは良く出来たギャグなのだがご本人はいたって真面目、当時のジョニー・ウォーカーのステイタスが想像できる。
そのくらいジョニー・ウォーカーは貴重なウィスキーだった、1973年のお話だけど。

当時は紛い物と言われながらも研鑽を重ねたジャパニーズ・ウィスキーはいまや広く世界で愛飲されるようになり、供給が追い付かなくなったらしく価格が高騰し身近なものではなくなった。「山崎」などはプレミアム価格のネットものしか入手出来ないというおかしな状況になり、片やスコッチ・ウィスキーも長期円安のおかげ様で軒並みに価格が上昇している。
ウィスキー大好き人間としては、旨安のコストコPBスコッチを友としているが、そのカークランドもじりじり値上げが続いていて、心が安らぐことがない。

ところがである、
ウィスキー愛好家受難の時代になったこの10年近く毎年ジョニー・ウォーカー青ラベルを飲む機会があるのだ。
ジョニー・ウォーカーの中でも最高級品として位置づけられた「ジュニ青」を毎年味わうことができるのには、もちろん特別な理由がある。

高校時代からの古い友人「I」がいる、彼も酒好きとあって飲み友としての歴史も随分と長い。
ジョニ青は「I」の厚意、もう少し詳しく言えば「I」の友人「C」から「I」にプレゼントされたジョニ青を僕が御相伴に預かっているのである。
「I」の友人「C」は「I」が香港支社勤務時の中国人同僚だと聞いていたが、律義にジョニ青をプレゼントする不思議な関係に何やらミステリーを感じていた、
曰く「ジョニ青に秘められた絆。いったい何が起こったのか香港で?」って感じで。

でも余計なことを詮索して、ジョニ青が飲めなくなっても困るので一切質問は封印し、ひたすら年に一度のゴージャスな機会を愛でていた。
コロナパンデミックで「C」が香港から来日できなくなった4年間においても、香港から発送されてきたジョニ青を、ありがたくご相伴した。

昨年「C」が亡くなったと聞いた時は、長い間のジョニ青の御礼を込めて黙祷したものだった。
先日、「I」から、ジョニ青を一緒に飲もうという連絡が入った???
「C」の息子さんからジョニ青が送られてきたのだという。
その不思議なジョニ青を賞味する折に今まで疑問に思っていたことを友人に訊いてみた、
「いったい君たち二人はどんな関係だったのかい?」と。

「いやいや、たんなる職場の同僚だっただけだけど、よく一緒に飲んでいたな」・・・なるほどそれは容易に想像できる。
それだけで息子さんがプレゼントを引き継ぐものなのか? 「I」にもそこは疑問だという。
もう少し深く問いただしてみた。

「I」が赴任した香港支社は香港企業との合弁会社になっていて、「C」は50%の資本を有する提携先代表者であり営業責任者だった。
残りの資本は日本(「I」の勤務する企業)と台湾企業が等分に分担していた。
台湾企業は「C」の父親が設立し、香港に進出し、日本企業と提携した。
「C」の父親は上海生まれ、文化大革命の時に数多くの中国人が決意したように中国から脱出した、財産を金延棒に換えて。
台湾に避難し、そこから再度香港でビジネスを展開した、これが中国・台湾にまたがる複層的感傷のひとつというものなのか?
まるで小説のような話にぼくは唖然とし、しばしジョニ青の琥珀色に上海、台湾、香港の景色を思い浮かべるのだった。

「C」、その父親、その息子、これが中国人本来の逞しくて義理堅い姿なのだろう
政治や思想が国がどう変貌しようと商売を継続し、そのためには同胞、仲間の力を借り生き残る。そして恩義を忘れることはない、決して。

ジョニ青の謎がすこし解けてきた。
中国人は友人を大切にし広い世界観で生きている、もちろん15億の国民がすべてそうだとは思わない、日本人がすべてが同質でないように。
一方で、非論理的かつ無節操な親米保守という名のもとに対中国包囲の一翼を担おうとする日本政府、メディアも加担した中国封じ込め世論に違和感を感じる。
人と人が信頼し合えば、争いはいつか消えてなくなる、たとえ酒を酌み交わすだけの信頼であったとしても。

世界ではロシア、北朝鮮はじめ強権国家が武力解決を前面にちらつかせている、だからと言って日本はその包囲戦略枠に組み込まれてはならない。

紛争による信頼の断絶があるのならば、その間をつなぐ日本にはなれないのか? 
日本が生き残る正しい道は自らで決める・・・そんな当たり前を祈る 今日である。
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