90. 《 飼育の日 》 2023/9/13

文字数 2,194文字



面接官から「趣味は何ですか?」と訊かれて
「爬虫類の飼育です」と応えるのもユニークで、もしかして採用につながるかもしれないが、
「趣味は読書」と応えるのがリクルーティング面接の際の無難な対応だ。
「最近何を読みましたか?」 と続けられて慌てないように、近刊書を読んでおくことも必須だろう。

ぼくの場合は趣味というより「本中毒」だろう、小学生の時から定年退職を経て今に至るまで本が常に手元にある、無いと落ち着かない。

昭和30年代(1960年前後)通った亀阜小学校中庭にひっそりあった離屋のような小さな図書館に通ってそこにあった本はほとんど読んだ。ぼくが読み切れるほどの数しかなかった図書館(のようなもの)、歴史書、科学書を片っ端から読んだ記憶があるのは、小説の類が置いていなかったからなのか? 心もとない記憶だが、それでも小学校の時に読んだであろう小説(フィクション)として今でも覚えているのが「ロビンソン・クルーソー」、「巌窟王」、「王子と乞食」、「家なき子」だった、これら小説はフィクション(虚構)にしか存在しない真実、それは幻想であり夢であることを小さかった僕に教えてくれた。

紫雲中学時代(1963~1965)は団塊世代の受験ブームが始まっていたので、部活もせず勉学に励んだのを心配した母が推薦してくれた「ファーブル昆虫記」を読んだ記憶しかない。

高松高校に入学し反動のように小説に手を付けた、「風と共に去りぬ」を3日で読み切り結膜炎になり近視になった。アカデミックな読書スタイルが崩壊しエンターテイメント読書にのめり込むことになった、すでに当時シリーズ全作が出揃っていた「ジェームス・ボンド007)」シリーズ、大藪春彦ハードボイルド小説などを少ない小遣いのなかから工面して読み漁った、アマゾンなどなかった時代 地元宮脇書店に通い詰めた。

70年安保闘争と学園紛争真っ只中だった早稲田大学時代は、読書の記憶がほぼない、知識砂漠のような4年間だった。 

濃密な読書が復活したのはずっと時を隔て海老名に移り住んだ1980年以降になる、30歳になっていた。
都心の勤務地への通勤時間が往復で3~4時間、この時間が読書に当てられた。混雑している電車内で吊革につかまりながらの読書は、思いがけず遠隔地通勤の苦労を忘れさせてくれた。
海老名から都心に通勤した三十数年間の読書量は従って膨大になる。
ブックレビューを意識して書き残し始めた2013年以前は、読書記録はメモ程度しか残っていないが残念なことだとも思っていない、読書は繰り返しになるが虚構に真実を見つけ出す行為、所詮受け身でしかかない。物を書く快楽に今は目覚めている。

前述のとおり小さいときに読んだ本を加齢にもかかわらず覚えている一方で、コンテンツが妙に記憶の隅に引っかかって気になって仕方がないのにタイトル・著者がどうしても思い出せない本がある。
本というよりSFショートショート集の中の一編だから今になって探し出すのは至難である。
そこで ダメモトで話題の生成AIに次のような質問してみた:

『こんなストーリーのショートショートのタイトルを教えてください:
宇宙人に拉致監禁された人間が監禁室で虫を発見し、食糧・水を分け与えて飼育する、その様子を見た宇宙人が謝罪して、彼を解放する、何故なら飼育する生物は高度な知能と愛情を持っていると判断されたから 』

AIの回答は なんと・・・
【 面白いストーリーのアイデアですね! タイトルは難しいですが、以下のようなものはいかがでしょうか?
虫と人間の友情
宇宙人に救われた虫
監禁室の小さな奇跡
虫の愛情が解放の鍵
宇宙人に見つめられた虫と人間
どれも気に入っていただけましたか? 他にもタイトルを考えてみたい場合は、お気軽にお申し付けください 】

ぼくのAIへの質問が不完全だったので、求めていたものと違った回答だったが、タイトルを忖度して考案するAIの能力に驚いた、いま一つナイスなタイトルは残念ながらなかったけど。

なんとなく記憶していた(間違っているかもしれない)タイトルは「飼育」、このショートショートがず~と気になっている理由がある。ぼくがビーグル犬を三代飼って二匹の死を乗り越えて今も犬と生活しているなかで、人間のエゴで犬と過ごしてはいけない、預かった命を大切にすることを犬たちから教わったからだった。
宇宙人に文明人と認めてもらいたいと思った小さなエゴはなかった、念のため。
結局、謎のショートショートのタイトル・著者はいまだに不明のままである。
思い出さないことがある方が人間らしい、これも人生だと思えばなおさらに味わい深い。

先月、小学生の孫がトカゲの飼育を始めた、「ニシアフリカトカゲモドキ」という名のペット用トカゲだ。
それに先立ち神社の草むらから野生トカゲを捕獲して飼育しようとしたが餌・水を取らなかったので解放した、でもトカゲ愛は一層燃え上がったようだ。
爬虫類ショップを巡り、蓄えたお年玉を使ってトカゲと飼育備品を揃えた。
毎朝、トカゲシェルターと食器を洗い、餌・水を規則正しく与え、エアコンもトカゲ温度に設定している。
これをして「飼育」が知性の証というには早計かもしれないが、少なくとも一つの命にかかわることになったことは意味深い。

トカゲ以上に生きないと孫の成長を確認できない、トカゲの寿命10年を肝に銘じる今日である。

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