57. 《 いやな予感のする日 》 2023/1/25

文字数 2,100文字



 
勤め人時代、今から10年以上さかのぼった東日本大震災前ごろ、最初に「いやな予感」を覚えた、というと、僕が地震予知能力を隠し持っているかのようになるがそっち方向にはこのお話は進まない。

ISO(国際標準化機構)の認証をいただくという当時ブームとなったプロジェクトを一任されたのは、60歳の定年を迎える直前だった。
勤務先はグループ企業全体でも従業員数100名に満たない中小企業、ニッチマーケット開発創業のおかげもあり業界ではユニークな存在だったが、オンリーワンビジネスは御多分に漏れずコピーされ競合社乱立し、決して安閑としていられるビジネス環境ではなかった。
転職6社目、最後の働き先として受け入れてくれたこの組織に感謝していた、いろいろトラブルがあったことはすべて水に流し定年後も後輩指導を念頭に入れた最後のご奉公の嘱託勤務五年間だと割り切っていた。

その中で上記ISO14001(環境)取得は定年をまたいでの担当となったのには理由がある。
当時(今は不明だが)このISO 取得をコンサルティングするビジネスが繁盛していた、小さな企業にも当然各社からの売り込みが多数来る、
しかしコンサルティング料金が法外で取得メリットに引き合うものか悩んでいたのも当然のことだった。
無駄な経費は抑えたいが、周りの競合各社はすでに取得完了し、ひしひしと同調圧力を感じていたころ決定的要因となったのが大手取引先からのISO取得強要だった。
無論前述のとおり高額の経費が生じるわけだからISO取得をあからさまに強要するわけではなく、ISO取得していないと取引が困難になるかもしれないよというグリーン調達という名の威喝である、世はまさに環境問題にピリピリ緊張していた。
ここに至りISO取得はマスト事項になった。

数百万円かけて外部に委託する代わりに、数十万円で独自に取得する方法を探し出した、が外部委託より数倍時間がかかることになった。
申請・取得に向けての準備作業は同じだが、マンパワーと経験値が大きく違っていた。
右往左往しながら、プロジェクトの進行は遅かったが経費が少ないというだけが取り柄の情けない「一人プロジェクト」でなんとかISO取得した、
もののついでとばかり東京都のISO取得補助金にも応募し獲得したので経費はもっと抑えられた。

ここでいやな予感がした(ようやくテーマに入る)。
全くの素人である僕が色々な資料や、経験者に教わりながらも、時間がかかったとはいえISO取得ができた。
正直な感想としては、こんなものでいいのかい? というところだった。
裏を返せば、こんなことをコンサルティングと称して営業する輩はいったい何者なのかという不信感が芽生えた。
原点に戻って、ISOそのものは本当に重要で有効なものなのか?
もしかしてISOをネタにした便乗商売なのか?
大手企業との取引条件という風評もISOビジネスのキャッチコピーなのか?

ISOを 取得すると認定マークを印刷物に使用し自慢できる、実はこれが企業にとって一番わかりやすい成果物になる、
経営者にとってはこれでやっと周りの会社と同じになったという安心の証のようなものである。
ところが認証には期限があり、定期的に見直し作業をし再度申請・承認の作業が必要になる、当然経費も生じる。
果たして固定経費となる認証更新費用にはその価値があるのか、中小零細企業の宿命である資金不足との兼ね合いになる。

そんな折も折、東日本大震災を経験した。
原子力発電炉がメルトダウンし甚大な環境汚染を引き起こした。
所有者である電力会社、原子炉の機材を製作した電気メーカー、建設会社、錚々たる大手企業がもう一歩で関東地域を全滅させるところだった。
核(放射性物質)を取り扱う大手企業は当然ISOは取得している、しかしこの災害を防ぐことはできなかった。
ISO取得を取引の条件とするグリーン調達・入札を大手企業が今後胸を張って弱小企業に主張できるものか! と怒りすら覚えた。
地球環境改善は重要であり企業内ルール整備も必要だが、そこにISOなるものは不要だと確信した、いやな予感がここに着地した。

近年「いやな予感」をまたまた経験した。
オリンピックを仕切っているIOC、アスリートのための組織だとは思えない。 あけすけに言ってしまえば、オリンピックで巨額の報酬をもらうアスリートはいないが、怪しげな組織内に使途不明資金(税金)が蠢いている。

「いやな予感」は続いている。
ウクライナに戦争を仕掛けるロシア、核使用をちらつかせながら旧態然武器を消耗する、誰が儲かっているのか。

どこまでも「いやな予感」がする。
コロナウィルス(COVID19)の時代が4年目になる2023年、ワクチン接種が続く一方で未だに絶対的治療薬が開発されない。

既視感のような「いやな予感」もしている。
SDGs(持続可能な開発目標)のための17の目標を達成するのは結構なことだが、行き詰った経済成長打開という愚かな側面は、ISO同様 本来の目的を見失い資格・認証のためだけの有名無実になりそうだ。

汚職、戦争、伝染病、経済破綻・・・「いやな予感」ばっかりの 今日である。
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