101. 《 BEFORE / AFTER  股関節の日 》2023/11/29

文字数 3,128文字



「 せんせい ねんのため そのくすりの なまえは なんていうんですか ?」
『え~、 じょい○○ というんですよ』
「いやー としよりのあぶらよごれ にも ききそうですねえ」
『それは ジョイフルでしょ これはジョイクル』

ぼくの 老人ボケネタはいつものことなのでドクターも軽く往なしてくれるのだが、患者の身としては不安解消必死のダジャレなのである。
というぼくは 診察室にセットされたベッドの上にあおむけに寝て、カーテンが閉められた状況にいる。

「変形股関節症にも、お膝と同じように注射ができるようになりました、どうしますか?」
と訊かれたのは数週間前のこと、二週に一度の変形膝症治療のためのヒアルロン注射で通院したときのことだった。
その時答えたのはは、「まだなんとかジョギングできるので、少し様子をみさせてください、ちなみに どんなお薬ですか?」
この新注射治療の概略はこんな感じだった;
●膝注射のヒアルロン酸に鎮痛剤エッセンスを加えたもの
●股関節に打つので長めの針になる(!!)
●0.4%の副反応が認められているので注射後30分は観察待機すること
●月に一度の使用制限がある(ちなみに膝注射は週一)
●保険適用なのと、月一回制限なので膝注射と同じくらい、多大な家計負担にはならない
●当クリニックでは20名弱の患者さんが治療を受けている、効果は今のところまばら(効く人も効かない人もいるらしい)

その時、まだジョギングができると答えたのは事実だが、股関節の慢性的な不具合を敢えて無視してのジョグではあった。それでもジョグ、本当にゆっくりのジョグを始めると股関節がだんだん無感覚になり、代わりに膝に負担を感じるようになる。
走り終えて、股関節・膝を重点的にクールダウンストレッチすると、気分だけは満足する・・・その繰り返しだった。
シャワーを浴び、膝・股関節・腰中にロキソニンテープを貼り付け、冷却鎮痛する。
ジョグの日は、膝が痛み、翌日は股関節に力が入りにくい、連日朝からロキソニンテープをベタベタ張り付けるのが日課になった。それも73歳の身なら仕方ないことだけども、いつまでこうやって誤魔化せるのかと、内心ヒヤヒヤしていた。
そんな切羽詰まった状態の折に、ロキソニンテープ以外の変形股関節症に向き合う治療方法が提案されたのである、注射というチョイスが。

36歳から63歳まで、アマチュア・トライアスリートとしてではあるが強度なトレーニングを続けてきたことはいろんな脈絡で書き記してきたが、股関節の変形はアスリート人生のダメージ集大成として最後に現れた故障だった、無論加齢の影響も大きかったに違いないが。
二年前からアスリートとしての人生を強制終了し、トレーニングとしてではなく走る喜びのためだけのFREE JOGに変更した。
おかげで直近のレントゲン検査では股関節も膝も変形は進行していないことが確認された、喜んでいいのか微妙なところだけども。
しかし、これからも股関節は日々消耗する、最近ジョグ後の回復すら満足といえない状態になった・・・いつも股関節が疼く、引っかかる。

ここまでがBEFOREのお話である。

この治療薬剤 製品名は「ジョイクル関節注30㎎」 (ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム)、2021年小野薬品工業から販売開始された。 
ジョイクルって、もしやジョイ(楽しみ)がクル(来る)というダジャレネーミングではないかとチェックしたら大当たり、さすが大阪のメーカーさんだけあってわかりやすいうえに、股関節変形による不快・痛みを取り除けるならば間違いなくQOLが向上するという意味深いネーミングだ。

場面は最初に戻る・・・・ ドクターからの説明を何回か聞いたのち決意したジョイクル治療開始のシーン、
『ズボンを下ろしてください』、カーテンがひかれた狭いベッドの上で身をよじらせてズボンを下げる。
看護師さんがバスタオルを渡してくれたので、パンツも下げる・・・股関節に注射するのだからパンツ下げも覚悟の上だった。
『いや、パンツはいいですから・・』、慌ててパンツをもとの位置に戻す。
超音波エコーで股関節膣を確認したあと、脚の付け根から10㎝以上離れたところを消毒する???
「そこに うつんですか?」
『そう、ここからだから ながい はり になります』
『では・・・ちくっとしますよ』
注射は長い人生で何度も経験しているのでちょっとくらいの痛い注射は平気だ(ちなみに一番痛かった注射はアキレス腱へのもの)。
チクリの後そっと針が股間に進むのが感じられる(寝た状態なので目視することはできない)。
『これからくすりがはいります、おもいかんじになるかも・・』
ズンッ という感じで薬が関節膣に入り込むのが分かった、この注入の瞬間はある種の感動を禁じ得ない、きっと良くなるという願望感動を。
以前脊柱管狭窄で酷い痛み緩和のためお願いしたブロック注射を思い出す、ズンッという感じがしてそのあと痛みが和らいだことも。
注射そのものは手慣れたドクターの領域だ、さてその効果を知る前に副反応対応のため待合室での待機となった。ブロック注射の時は事前に点滴をセットしたのに比べるとあっさりとしている、きっと副反応は稀なのだろう。
待機すること30分無事何事も起きず、会計を済ませクリニックを辞去する、玄関から車に向かうほんの5mの道のりで、股関節がガクンと揺れた。
しかし これはジョグの後に起きる症状のひとつだ。
というのは、せっかくの新しい治療に挑戦するので評価もきちんとしておこうと思った、その一つとして注射の直前にジョグしたのだった。
注射を境にして、前後のジョグの感覚とその後の疲労、痛みなどの影響を調べてみようとしたわけだ。
それにしても いつものジョグあとよりも足取りが重い、股関節も膝も痛む、原因はルーティンのロキソニンテープが貼りついていないから。
むろん、テープが注射の邪魔になるだろうという忖度からの確信的スキップだったが、そのことをすっかり忘れていた。でも股関節への直接薬剤注入は、直前ジョグからくる筋肉痛には無関係に違いないと推論し、帰宅してすぐロキソニンテープを貼り付けた。

ここからは AFTERのお話になる:

翌朝、控えめに言っても劇的な変化をみた。
あの股関節に居座っていたなんとも表現のしようのない不快感、引っ掛かりを感じなくなっていた。
階段の昇り降りの時も、シネコンと駐車場往復の時も、すっきり爽やかな足取りを取ることができた。前日ジョグの微かな筋肉痛はあるが、あれほど悩まされた股関節変形の悩ましい感覚はなかった。
愛犬との散歩も股関節のことを想うとついつい消極的になる自分を鼓舞して、出掛けていたこれまでだったが、散歩においても足が軽やか前に振り出されるようになった。
その要因を具体的に表現すると、腿上げが容易くなったことだろう、まさに 股関節は運動の要であると再認識した。

注射から中3日、ジョグしてみた。
前述のとおり 股上げが回復したのでぼくの本来のフット・フォワード走が戻ってきた。
股関節が痛いと、振り出した脚を足前部で捉えてキックできず、ソロリと踏み込んで後ろに引くだけだった。
速さには全く頓着しないフリージョグだが、記録を見ると30秒以上/km早くなっていた。
何よりうれしかったのは、ジョグしながら股関節に神経を配る必要がもしかして今後なくなるのかな・・・という希望が灯ったことだった。

そうはいっても、いつまでもジョグできるわけではない。
どこかで終わりがくるだろう、と覚悟する一方、でもそんな日を迎えたくないと駄々をこねる自分もいる。
人間は強欲、でも可愛いものだと自分を労う 今日である。
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