13.  《 お金の切れ目の日 》 2022/4/13

文字数 1,934文字




「金の切れ目は縁の切れ目」という言い回しがある。
羽振りのよかった頃は恋人や友人たちがいつも周りにたくさんいたのに、お金が無くなったら(失業したり事業に失敗したりで)そんな連中がさっといなくなるということだと思っている、特に男女関係においてはどちらの立場でもこの手のトラブルは多いらしい。
幸か不幸か、人生でお金に関して苦労しなかった時など一度もなく、当然のことながら僕のお金に群がる人たちなどには夢のなかでも会ったことはなかった。

昭和25年(1950年)2月生まれの僕は、団塊の世代のしんがりとして生きていく中で大勢の同世代と競合する場面が多かった半面、大勢ならではの奇妙な安心感がどの時期にも漂っていた、
言葉にすれば「・・・とはいっても何とかなるさ」。
同学年生が1000人以上だった中学校では朝礼が全校で開くことができず学年単位だったが、おかげで怖い上級生にも会うことなく気楽な毎朝だった。
高校にいた時も、一度大学入試に失敗したがもう一年受験勉強させてもらった(多くの浪人救済のための特別学級が用意された)。
就職の時、希望した職場には振られたが複数社から入社内定をもらったのは3年生の時、学生も多かったが求人も多かった。
勤め人初年度は5万円に届かない給料だったが、共稼ぎのたくさんの仲間がいたので、当たり前のようにお金に縁がなかったことは苦にならなかった。
バブル時代は、それがはじけるまで毎年の給料倍増に驚き喜びしてはいたが、僕は金食い虫スポーツ・トライアスロンに熱中し、この時期でもお金に縁は薄かった。
とはいっても、転職6回とはいえ勤め人を続けている限りお金の切れ目に直面することはなかった。

以前のエピソードでも触れたことがあるが、勤め人には定年があり、そこから先は年金以外の収入がぷっつりと途絶えてしまう。
「年金」という響きから悠々自適な生活を想像する向きが多いようだし、実際僕も年金があれば老後は何とかなると思っていた、
そう、あの団塊世代の決め台詞 「・・・とはいっても何とかなるさ」である。
年金額をつぶさに知ることになるのは受給直前だった、無論もっと早くにその金額を知る方法はあったがのだろうが、日本のお役所はその手のことは積極的に案内してはくれない、
これは日本のお役所全般に言える美しい習慣なのだろうか?

近年、「定年後2000万円必須論(?)」が賑やかな話題になりサラリーマンの老後対策に一石を投じたものだが、僕の時代にこんな親切な警告はなかった。
「団塊世代、みんんで渡れば怖くない」ということで能天気なまま僕が定年に突入したのは、給料3分の1低減理不尽待遇に耐えながら5年間延長勤務した後、65歳の時だった。
そこには壮大なお金の切れ目が待っていた。

せっかくだからこれから年金生活を控えている諸後輩のご参考までに僕の年金実態をお教えしておくと・・・
厚生年金が15万円、企業年金が5万円、計20万が1か月あたりの年金、ここから所得税、地方税、国民健康保険料が天引きされる、勤め人時代と同様に。
国民年金の妻は5万円、同様に諸税が天引きされるので、我が家のディスポーザブルインカムはおよそ月20万円、これが「年金」の実態だ。
幸いなことに扶養義務のある家族は三代目ビーグルCOCOだけ、ドッグフッドとちっちゃな洋服とおもちゃで済みそうだ。
かように、年金生活者とは吹けば飛ぶような、か弱くて薄っぺらい存在感の年寄りたちなのである。40年以上もの年月、毎月年金を積み立ててきたのであって、今その支払い分を取り戻しているところなのだから、高齢者優遇などとの非難は的外れであり、支給額是正も含めて日本国の福祉政策の大変革を諸後輩にはお願いしたい。

ちょっと横道に外れてしまったが、
正統派年金生活者(年金だけで生きている大多数の高齢者)になると・・・・
国民健康保険のきかない高度医療が受けられない、
手厚い介護が必要になっても上質な有料施設には入れない、
大好きなものを諦める、または手放すことになる、
外出しないようになる(外出するとお金を使う)、
人と会わないようになる(飲食するとお金を使う)、
その結果 心と身体に歪みが出てくる、じわじわと。

年金生活は人生最後に潜んでいる落とし穴のような「おかねの切れ目」時代だと、いまでは肌で実感している、そこにつながるのが「縁の切れ目」。
家族、親しい友人、趣味、イベントとの「縁」が途切れていく、そして消える。

そんなお金の切れ目とかけ離れたところにあるものを探し求めた結果、
僕は「今日である」に辿り着いた。
毎日を意義あるものにするのにお金が不可欠だという一見当たり前のプロパガンダに負けないためにも
充実した「今日である」を目指す毎日である。
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