59. 《 地下道を往く日 》 2023/2/8

文字数 2,072文字



僕が43年間住んでいる海老名市の希少な日本記録として「日本初シネマコンプレックス誕生」がある。(詳しくは「サンデー毎日記 第3話」をご参照いただきたい)

1993年に日本初のワーナーマイカルシネマ(現イオンシネマ)、続いてヴァージンシネマ(現TOHOシネマズ)も開設され、海老名は一躍シネコンの町として有名になった、栄光の昔話だとしても今でも誇らしい気持ちになる。
シネコンではウェブ予約ができて、贅沢な環境で(シート、多様スクリーン、音響、アメニティ)、ポイントもたまる・・・こんなシネマ鑑賞はそれまでなかった。

そんなシネコン黄金時代もコロナパンデミックで打ち砕かれた。
シネマ製作がまずストップした、その影響は遅れて2020年から始まり今に継続している。
観るべき上質のシネマが激減したのも当然、そもそもシネマ自体が製作されなかった。
感染対策に留意して作られた作品も不特定多数が集まる劇場ではなくネットTV へ売却された。
2022年度アカデミー作品賞をそのネット放映シネマが獲得したのは象徴的な前代未聞の出来事だった。

話を戻して 一世を風靡した大手シネコンの強みとは何だったのか?
全国のシネマファンが観てくれそうな作品を選択ラインアップし、話題作・人気作には複数のスクリーンをあてがう柔軟性が強い武器だ。
しかし作品数がそしてそれに伴ってマンモスヒット作が減少している今、スクリーン稼働率を維持するのはビジネスとして悩ましいところだろう。
最近では、「トップガン・マーヴェリック」、「すずめの戸締り」がビッグヒットしたものの、観客動員パワーのあるシネマはまだまだ少ない。
その裏側には、ヒットしそうもない作品は名作であろうとラインアップしない(できない)事情が隠れていそうだ。
同一シネコン内でも選択視点を違え異質な作品をラインアップすることもあるがその数は少ない、せっかく地元にシネコンがあるのにわざわざ遠くまで足を運ぶことはしない、少なくとも今の僕は。

ここまで言及してきたシネマ作品とはメジャー配給会社が関わっている作品のことであり、僕が目にしているシネマは、国産(邦画)とハリウッドシネマがほとんどだ。
しかし、世界には広大なシネマ文化が存在している。
かってシネマ先進国だったイタリア、フランスの作品すら最近とんとお目にかかっていない。
北欧、東欧、アジア、南米、アフリカのシネマが大手シネコンの上映スケジュールに上がることはまずない。
儲からないシネマは配給しないのが資本主義の基本だが、これは総合芸術であるシネマを侮辱し製作者・顧客への配慮に欠けるものだ。

そんな陽の目を見ない世界の名作を紹介してくれるのがミニシアターと称される新形態シネコンだ、名画座、単館の進化形態かもしれない。
時折利用するミニシアターがある。
■チネチッタ(川崎):12スクリーンを「ミニ」と呼ぶには抵抗があるがはメジャー作品中心の一方でしっかり世界の名画も公開している。
■キノシネマ(みなとみらい):3スクリーンで自社(キノフィルム)配給作品を中心としたマニアックなラインアップが眩しい。
上記2館の難点は自宅から移動1時間強、決意して出向く必要がある。
(ちなみに当方御用達 TOHO シネマズ海老名には車で10分)

先日、久しぶりのイタリアシネマ「離ればなれになっても(2020)」を観たいと思った。
キノシネマを検討したが時間帯がフィットしない、僕のシネマタイムは9:00~15:00と決めている。他の上映館を検索したところ、なんと隣町厚木に上映予定のミニシアターを発見した。
正式名は「あつぎのえいがかん KIKI」、2019年開業ということは僕がコロナパンデミックでステイホーム始めたころだ、気づかないはずだった。
3スクリーン(154/112/54)の程よいミニシアターである、お目当作は一番大きいスクリーン1で朝一番((9:45~)一週間上映していることが分かった。
当該ミニシアターが入居している「アミュ厚木」ビルは1~4階がショッピングエリア、5~8階が厚木市の公共施設、9階がミニシアターになっている、どうやら厚木市肝入りのコミュニティ施設らしい。

当日朝、勝手知ったる隣町とはいえ初めての場所に向かうので少し早めに家を出る。
バスで海老名駅に(10分)、小田急線で本厚木に(5分)、駅改札からそのまま地下通路(厚木ロードギャラリー)でビルの地下1階に(5分)。
余裕を持っても最短で30分以内にドアトゥドア往復できることが分かった。
雨の日も濡れることなくミニシアターに行けるという地下道は朝早い(9:30頃)こともあって人影はひとつのみ、ギャラリーはまだ整備中の様子だったが、地下道の先を見つめて僕はデジャブにとらわれる。

チネチッタ(川崎)にはJR 川崎駅から似たような地下道を通る、キノシネマ(みなとみらい)にもみなとみらい線を降りて延々と地下道を登っていく・・・・地下道のデジャブだった。

ミニシアターに往くには地下道が似合う、きっと宝物が見つかるような気がする 今日である。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み