31.《 ちっちゃな佳き日 》 2022/8/10

文字数 1,505文字



三代目ビーグルファミリーが我が家にやってきて一年が過ぎた、本人(COCO)も1歳4か月になった。
僕ら高齢夫婦にとっては、犬と共に生活するのも最後の機会になるだろうことは覚悟している。
今まで(初代、二代目)の経験から得た教訓をCOCOに注ぎ込んで育てているのだが、どうしても可愛がり過剰になりがちだ。だから、やんちゃな女の子になったしまった。

そんな可愛い娘のためには毎日2回の散歩は可能な限り欠かすことはない。
それに加えて食餌量も平均的推奨からは少なめに調整して食べさせているので、健康診断の折には「痩せている」評価をいただいている。
ビーグル犬種は特に食に意地汚い、なんでも大量に食べたがる、それもがつがつと急いで吸引するように呑みこむ。
養育責任者としては、もっともっと食べて喜んでもらいたいという思いと、肥満で病気になりやすくなることへの心配が交錯する、悩ましい。
ここは過去の失敗からの教訓で、心を鬼にしてドッグフードだけ、それも少なめに食べさせることにしている。前述のとおり、いくら大量に食事を与えたところで本人は決して満足はしないのも、もう一つの理由だ。

COCOは生まれつきの優れた運動能力と軽量身体をフル活用してダイニングテーブル(70㎝)に一瞬で飛び乗り、その高さからひらりと飛び降り着地する、その様はまるで猫のようである。
そして散歩が大好きだ(犬は大概散歩大好きだが)、特に内犬は家の中で拘束さられていて脱走もままならないからだろう。

そう、毎日2回の散歩のお話に戻ろう。
猛暑の夏場は、朝早くと夕方涼しい時間帯を見計らって二回散歩している。
朝は妻が、夕方は僕が担当する、それぞれ夕食と朝食の担当なので手隙の者が散歩に連れていく。
約一年間の散歩同行の結果、お供する我々も足腰劣化防止・運動不足解消になり妻に至っては、持っているジーンズがみなブカブカになったと嘆いている。

今朝のこと、朝の散歩から戻ってきた妻が嬉しそうに散歩の様子を報告してくれる。
散歩レポートは二人の約束事になっていて、何匹のワンちゃんにあった・・、おっきなラブラドルにビビった・・、柴と鼻と鼻をクンクンした・・、などと報告し合うのだが、嬉しいことがあるのは珍しい。
「あら、ちゃんと育てていますね、スリムでいいね」と言われたという。
スリムなことに若干後ろめたい思をしていた僕らにとっては、この言葉は有難い、僕もそれを聞いて嬉しくなった。

夕方の散歩に出かけた、今度は僕の担当である。
定例コースのちょうど真ん中あたりで、草刈り道具一式をカートで押しながら向こうから女性がやってくる、僕より少し高齢のようだ。
すれ違う時、立ち止まった「あら、可愛いわね 何歳?」
散歩中遭遇した折によく訊かれる質問だ、 「はい 1歳ちょっとです」。
「きちんとスリムに育ててますね、立派ね」
スリムというキーワードに僕は今朝の妻との会話をすぐ思い出した。
この女性は、けさCOCOと遭遇した人に違いない、報告にあった容姿や草刈りボランティア道具も一致する。
散歩範囲はたかだか1㎞以内だから、同じ人に会うこともあるだろう。
でも、この女性はCOCOを朝方会ったビーグルと同じだとは認識していないようだ。
一方僕はこの方が朝COCO に会った人だと確信している。
僕はその真相を明かすことなくお褒めの言葉に礼を言ってその場を去った。
きっとその女性は家に帰って家族にこんな話をすると思ったから・・・
「今日はスリムなビーグル二匹に会ったの、珍しいでしょう、何か良いことがあるわよ、きっと」

COCOは一日に二度も同じ人から褒められた、
きっと良いことが起きるに違いないと思った今日である。
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