85. 《 キョロキョロする日 》 2023/8/9

文字数 992文字



父のジョ-クが懐かしい、皮肉が得意だった父。
「右確認、左良し、もう一度右・・おい キョロキョロするな」
自分はSP経験もある警官なのに運転免許を取らなかった父はいつも助手席に陣取り、運転する母を取り仕切っていた。
白手袋の手を窓から差し出して左の車を制したかと思えば、警笛を吹いて周囲に注意を促すので、乗ってる家族は結構恥ずかしい。
前述のジョークは信号のない交差点での運転手への注意喚起のセリフだった。
同じようなやり取りを後年漫才でも聞いたことがあるが、父から聞いた時のインパクトには到底及ばなかった。

右を見て左も見て、まっすぐ行くなり引き返すなり、どちらかに曲がるなりすることは大切だ、キョロキョロするべきなのである。
ここからは政治のお話である。
今や 右・左の古典的政治対立構図は崩れ去り影響力も失している。
その代わりとして 人口減、福祉、差別、教育、環境、軍備それらを裏付ける予算(税金)などキョロキョロしなければいけない課題が多いのに、真っすぐ前しかみない人が多い。
明治憲法に先祖返りし家を中心とした国体を目指す憲法改正論者、平和憲法に固執し改正を一文字たりとも認めない教条主義護憲論者が非キョロキョロの代表だ、その信念が揺るがない点はご同慶の至りだが政治の機能不全を担っていることには気づいていない。

一方で全く政治に関心を持たない、交差点に進入することなくキョロキョロしない国民が約半数近く存在する。キョロキョロ権を捨て去った彼らは地上の交差点に進む代わりに、地下の穴倉に籠って息をひそめようとする。
日本がどこに向かって進んでいくか気にしない、地下にいるからミギもヒダリも真っ暗闇だし、当然前方も見えてはこない。毎日を楽しく生き抜くことを最優先し無駄なキョロキョロはしないと信じる彼ら、文字通り闇雲に蠢くだけだ。
太平洋戦争敗戦から78年、戦争責任の追及検証することなく一方ではキョロキョロしなかった報いがいまに下り、またまた過ちを繰り返すことだろう。

地上に出てキョロキョロしてみよう。
気になるものを見つけたらよ~く見つめてみよう、そっと遠くからでもいいから。
右みて、左みて、それから自分の意思で進もう。
どっちに行ってもいい、斜めも後ずさりもあるかもしれない。

目を瞑っていても、世の中はちっともよくならないことに気づいてほしい。
・・・老いの繰り言にもいささか疲れ果てた 今日である。
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