25.《 酒と薔薇の日 》  2022/7/6

文字数 1,366文字




昔から一人酒が好きだ。
団体行動が苦手で、格好良く言えば「群れない」主義、ワイワイ騒音の中での酒は嫌いだった。
それ以上に、酒本来の味をじっくりと嗜む姿をアイデンティティとしてきた人生だった。
そうはいっても勤め人時代は接待と称する営業が必須だったバブル景気の頃、毎夜全力で酒を飲んでこれたのは、生来 肝臓機能が頑丈だったこともあるだろう、この点は両親に感謝している。
接待が終わって一人でくつろいでカクテルを味わう習慣がついたのもこの頃からだった。
出張先ホテルのバーラウンジでは、余計な会話を強要されることなくカクテルの妙味を堪能した。
バブル景気が弾け飛び散った後は、経費節約至上命で接待は極端に少なくなったが、折に触れ一人酒を続けた。それは故郷へのお墓詣りの折だったり、バカンスの宵だったり、プライベートで酒を嗜む機会を維持してきた。

並行してトライアルしてきたのがカクテルを自分で作ること、今や定年後サンデー毎日の日々鬱積を慰むものになった。
シェーカー、ミキシングカップ、メジャーカップ、ブレンダー、ストレーナーを揃えた。
自分のためだけのホームバーという設定が出来上がったわけである、お得意カクテルメニュをちょっとだけ披露すると・・・

■サウダージ
「探偵はバーにいる(東直己)」シリーズで、名無し探偵が「ケラーオオハタ」飲んでいたのがサウダージ。
タンカレージンとティオペペを3対1でシェイクし、オールドファッショングラスに、氷とアンゴスチュラ・ビターズ一振り。
映画化された時(主演大泉洋)にバーテンダー役で出演したという本間さんのお店(バー一慶)に行って本物の味を確かめたことがある。
小ぶりなグラスが印象的だった(マイレシピは基本的に大盛り・ダブルなのである)、
ちなみにお店は当然札幌にある。

■マティーニ
前述のサウダージは名無し探偵シリーズの作家東直己さん発想によるマティーニ変形、マティーニより強烈なカクテルを志向した結果だと聞いている。
マティーニも強いカクテルだ、ベースはジンあるいはウォッカ、僕はジンが好きなのでここでもタンカレーを使う、
ジンの種類はあまたあるがテイストとコストを調べた結果タンカレーに落ち着いた。
シェイクせずステアーにする、落ち着いたジンとベルモットの融合が好きなので、ちなみに007ボンド氏はウォッカベースでシェイクする。
レモンピールを作ると中身ばかりが余ってしまうので最近はレモン切り身で我慢している、さほどレモン香は重要ではない。
夏の夕方、涼しい風が入るダイニングルームで用具一式とお酒のボトルを並べるだけで幸せになれる。
ステンレスのミキシングボールと攪拌棒がカシャカシャと鳴る、ストレーナーの先から注ぐマティーニがグラスを曇らせ始める。
もう少し眺めてから口をつけようとちょっとだけ我慢する、
そんな一時が愛おしい、酒飲みの極致だ。

カクテルを作り酔っぱらう、酒と薔薇の日がいつまで続くのだろうか?
2月に98歳で亡くなった父は僕ほど酒は飲まなかったが、それでも90歳前までは毎晩ビールを
嗜んでいた。その後自ら酒類を避けていたのは、おそらくは身体の不自由を自覚して酔うことを警戒していたからだろうと思っている。

とすれば、まだあと10年くらいはこの生活を続けられるのかな?
酒と薔薇の日は、「充実した今日である」の証。
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