69. 《 自問自答の日 》 2023/4/19

文字数 1,351文字



「ご自分の生年月日を教えてください」
「(きっぱりと)大正12年3月31日です」
「では、今何歳ですか?」
「え~と、 70歳かな?」

「ところで、今は季節でいうといつごろでしょうか?」
「そうだねぇ、冬かな」

父が95歳過ぎのころ、介護認定問診での一コマだった、6月の蒸し暑い日だった。

介護認定レベルには要支援(1~2)から要介護(1~5)までの七段階が設定されていて、それぞれに対応する介護が用意されている。
例えれば、介護3ないし4でないと原則として特別養護老人ホームには入所できない。
介護認定度によって受けることのできるサービスその料金も異なっている、よく考えられている制度だと思っている。

父は介護保険制度の恩恵で、デイサービスに通い、足腰が弱まるとデイサービス送迎を利用し、3日~7日のショートステイを活用し、最後は特養施設に入所し我が家ではできない細やかな専門的介護を受け、看取りに至るまでお世話になった。
特養介護生活はコロナパンデミックの最中だったので面会の頻度は極少だったが、入所した時点で一人息子の僕を認識できないほど認知症が進行していたので、最悪の事態を覚悟し後悔することもなかった。

父を見送り、さて次は自分の番になると思い、家族からもそう思われているとうすうすは感じているが、まだ早いと思っていた。
平均健康寿命を超えたとはいえ、まだ73歳なのだから・・・と思っていた。

3月のある朝、目覚めると不快な感情が頭いっぱいに広がっている。
最近のルーティンとして、4:30頃に目を覚まして1時間弱のストレッチをこなした後、朝ごはんの支度にとりかかることにしている。寝起き直後のストレッチをやり終えないことには体が潤滑に動いてくれないので、半ば寝ぼけていても黙々とこなす。

ストレッチのメニューNO. 1、「うつぶせ状態脚回転」ができない、というより何をしていいかわからなくなった。
(どうやら相当寝ぼけているようだけど、自分もいい年齢なのだから気を付けなければいけないよね‥‥)と思った。
いい年といえば、ところで何歳になったんだっけ? つい最近誕生日だったよな、もう60歳になったんだっけ?
自分の齢がわからない、パニックになった。
冷静になろうと努める。
1950年生まれだから、今年から引き算すればいいだけだよね・・・・その今年が何年なのかが出てこない。
そのまま小一時間僕は布団の上で悶々と過ごした。
気を取り直して、朝食の準備に取り掛かったがなんとも手際が悪かった、材料の準備、調理手順、盛り付け、すべてがちぐはぐだった。料理は頭の回転と体力が必須だということを再認識してしまった。
朝食時には頭のもやもやも少しづつ晴れてきたようで自分の齢も思い出したが、何か気懸かりなことが脳内をクルクルと巡りつつも、何が気懸かりなのかが整理できず、余計にイライラしている状態が続いた。

頭の中のニンチネジが緩んだか、抜け落ちたかは定かでないが、何かが起きつつあることは間違いない。医療機関で診てもらっても、例によって「加齢」のせいになるだろうと予想すると余計気が重くなる。実際に加齢が進んでいることに間違いはないわけであるから。

毎朝、目が覚めると、
「お年は幾つ?」
「今日は何年何月何日?」
と自分に問いただしている 今日である。
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