32.《 振出しに戻る日 》 2022/8/17

文字数 1,211文字



我が家、正確に言うと我が家屋はそろそろ築30年になる。
東日本大震災にも遭遇したが幸いにも海老名市は震度4弱だったおかげで家屋に損傷はなかった、もっとも次の地震にはどうなるか心配だが?
歳月に伴う家屋劣化はまるで僕の身体と同じ、あちこちが故障している。
いたるところを修理・リフォームしているのも、僕がいろんな部位を治療・手術してもらうのと同じだ。
さて、どっちが先に崩壊するのだろうか?

家屋は妻の両親を介護するために新築したものだ、一階は段差なし、トイレはスライドドア、バストイレは補助手摺付きのユニバーサルデザイン、
間取りは5LDK、想定収容人数は7名、最初から部屋稼働率は100%だった。
両親をここから見送り、子供がここから出て独立し、現住人三人(夫婦、娘)になっている。
僕は、しかし勤め人時代ウィークエンドも休日もトライアスロン・トレーニングで家にいることは稀、いやいやウィークデイすら朝ラン、帰宅前のジム・プールと、家にいるのは眠るときだけだった。
65歳で働き止めしたとき、がらんとした家の中を見回して初めて「マイ・ホーム」を実感した。
一つの部屋を趣味のためのワークショップスペースにした、長年ジムで培った筋トレノウハウをここに注いだ。
また別の部屋に一人籠りきって勤め人時代からの夢だった小説を構想し執筆した。
その後5年間、高齢の父を介護するため本来の介護部屋を使用したがその父も半年前に亡くなった。
また以前の定員7人に満たない空き部屋状況に戻った。
このまま、僕も妻も老いさらばえて二階に上がれなくなり、親たちのように1階の介護部屋に収まることになるのかな・・・と思っていた。
それはいつ来るのか? その時どう対応するのか? 身体や頭がしっかりしているのはいつまでだろうか?・・・などとちょっと悩んでいた。

突然、訳あって息子家族が我が家に戻ってくることになった、総勢4人で。

案ずるより産むがやすし、わが家は高齢者ハウスから一気に若返る、十代の孫たち主体の家に様変わりする。今まで勝手気儘に家の中を移動していた愉しみはなくなるけれど、にぎやかになる、活気が出てくることになる。もちろん人数が増えた分だけ今までの家事が倍増以上になる、例えば炊飯器が一合炊きから一升炊きになるように。

それでもこれが最後のご奉公と思えば身も引き締まる想いになる。
孫たちの立場とすれば、高齢者の生きざまに日々刻々と接することは、きっと将来役立つものになるだろうし、何より家族が一緒に暮らすことが重要なのだと信じている。
そんな理想的な成り行きを今から勝手に想像している。

総勢7名の家が今一度スタートラインに並ぶ。
ジジババ・親・子供たちそれぞれが代替わりした新メンバーになった、時の経過をしみじみ悟る今日である。

さて、どんな成り行きになることか?  
何事もやってみなくては何を得ることになるかわからない。
予期せぬ「今日である」、これだから人生は面白い。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み