27. 《 青春の日 》 2022/7/17

文字数 1,413文字




2022年高校野球全国大会神奈川予選に孫のユウキが出場した。
3年生でサウスポーエース、背番号1をしっかりと目に焼き付けることができた。

小学生から少年野球をはじめ中学では軟式、そして高校では硬式野球部で毎日を過ごした。
少年野球時代から、ユウキにはこう言って激励していた・・・「甲子園に応援に行くから、きっと」。
甲子園までの試合には足を踏み入れないことで厳しい精進を喚起したつもりでいた。
所属する公立高校では野球部活を教育の一環としてとらえているのは数多私立強豪校との大きな違いであるのはもはや常識だが、その結果公立高校では1年2年では重要な公式試合に出ることが叶わない、ベンチ入りすら難しい、結局これまで応援に出かけることもなかった。

3年生の夏、満を持しての予選一回戦先発が決まった。
先の嫌味な激励の言葉を僕はさっさと引き下げて、応援団の中に紛れ込んだ。
予選は一発勝負、負けてしまえばユウキの夏はそこで終了する、彼の野球人生と一緒に。

甲子園とはずいぶんと違う小さな球場で久々にユウキのユニフォーム姿を見た。
マウンドに立つユウキは球場の大きさ、観客の数と関係なく大きく見えた。
溌溂として、真剣で、謙虚だった、立派な野球少年に育っていた。
しかし、前半デッドボールを受けた個所がじわじわと彼の投球パワーを削いでいった。
一回戦にありがちな硬さも加わって試合は混戦にもつれ何とか10対9で勝ったもののベストの投球はできなかった。

中一日の第二回戦、ユウキは休養のため出場機会はなかった。
控えの2年生ピッチャーが1対0で完封した、これで次の登板機会が与えられた。
ただし三回戦はシード校との対戦になる、ここ神奈川県に限らず現在の高校野球は私学が公立を圧倒している。
神奈川県170校の中からベスト8に公立高校が進出すると大きなニュースになるくらいである。三回戦対戦のシード校は、その私学高校だ。

三回戦は戻り梅雨のなか、試合開始が遅れ中断2回という悪条件のため10:00~13:30に至る長丁場に及んだ、7回コールド負けしたにもかかわらず。
チームは三年生を優先して試合に出した、高校生活の輝ける思い出になるようにとの配慮が明らかに伝わってきた。目まぐるしく選手交代が繰り返され、おそらくは三年生は全員何らかの形で試合にかかわったのだろう。
ユウキも1イニングマウンドを任されたがシード校の強力な打線に捕まった、実力の差が明確だった。僕は降り続く雨の中その現実を目の当たりにして応援する言葉も出なかったが、一方で何か爽やかさを感じ取っていた。

それを確信したのが試合後、三年生(チアーもマネージャーも含めた)の写真撮影の時だった。
教師から笑顔を促されてぎこちない微笑みを張り付けていた三年生たちだったが、そこに父兄が加わるとみるみる涙があふれ出てくる。
どれだけ多くのの人々に支えられ応援され、その中で野球を続けられた喜びを心から感謝していた涙だった。
これが「青春」だ。

さて、「玄冬」真っ只中の僕は孫の青春を目を細めてながめている。
自分の青春を思い出しては・・・そんなものあったかな? と訝しんでいる。
ボケのせいで青春の思い出などすっかり忘れ去ったのかな? と不安がってもいる。

青春とは、挑戦すること、失敗してもそこからもう一度も二度も立ち直ること、
だとすれば、玄冬の身だと言って諦めることではない。
まだまだ「青春」に生きることができる、そんな今日である。
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