75. 《 パラレルの日 》 2023/5/31

文字数 917文字




昭和45年(1970年)1月 お正月休刊明けの四国新聞社会面記事。
【大学生三名死亡、作業中の事故か?】
「K社薬品移送船タンク内にて清掃作業中の三名が意識不明で倒れているのを社員Sさんが発見、揮発性薬剤を使用した清掃中にもかかわらずタンク内換気が不十分であったための事故とみられている。なお三人はW大学生で地元高校出身の同級生、帰省中のアルバイトだった。
三人は高校・大学を通じていつも一緒にいるほどの親しい仲間だったと家族は語っていた。」
・・・・・・・・・・
三人とはOとM、そしてぼく。
事故は実際に起きた、もしあの時Sさんの救出活動が遅れていたら、新聞記事のような悲惨な状況になっていたかもしれない、ぼくは意識を失う寸前だった。

「いやそうではない」という声が聞こえてきた、
あの時ぼくの一つの人生は終わり、その後綿々と続いてるもう一つの今の人生は別次元のもの。宇宙の始まりの不思議を思い起こせば、時間軸変異など特別珍しいことでもない。
呟く声でパラレル・ワールド啓示を受け取ったのは、三人が4年ぶりに再会を果たした会食の席でのことだった。

はじめて三人が出逢ったのは高校一年生の時、入学式後 指定された1年13組の教室に遅れて最後に入室したのがぼくら三人だった。
大学時代は西門近くの喫茶店「芝生」が三人の秘密基地だった、休みで帰省中には夜毎飲み歩いた、互いの家を行き来してそれぞれの家族とも親しくなった。
社会人になり結婚し家庭を持ち、年を重ねてもなんとか時間を作って会うことにしていた。

珍しく今回四年ぶりの再会になったのは、あのコロナのせいだった。
この四年、ぼくは腰・歯・耳・目にガタがくるなど加齢による責苦にいささかウンザリしていた一方、OもMも相変わらず元気で人生にしっかり前向きだった。
数時間に及ぶ積もる話の中で、半世紀以上前の薬品タンク事件の話になった時、
ぼくの裡なる宇宙に十方微塵の宇宙からメッセージが届いた
・・・・みんな あの時死んでしまったんだよ・・・・・

パラレルワールドで一度死んでしまえば、この時間軸ではきっと元気で長生きすることだろう。
あちらの世界の新聞記事を想像して 三人の長寿を願う 今日である。
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