117. 《 アンチ・デジタル化の日 》 3024/3/20

文字数 3,109文字



国民健康保険証書、いわゆる 保険証を紛失した。
2024年1月29日、数日間 耳の下に痛みを感じたので耳鼻咽喉科で診てもらった、耳関連には異常が無いとのことだが帯状疱疹前兆かもしれないとアドバイスを受けて、翌1月30日海老名市の基幹総合病院を受診したところ皮膚科は休診日だとあっさり断られてしまった。
仕方がないので午後遅くご近所の皮膚科クリニックに帯状疱疹かもしれない、と問い合わせたところ経験豊富とのことで急遽そちらに向かった。

ここから保険証紛失の経緯になるのだが、このところ脳の液状化のせいもあって記憶は定かでない。
総合病院では診察を断られたものの担当看護師さんが現れて親切にも症状を確認し今後のアドバイスをくれた、その退出の際に「保健証はお返ししましたっけ?」と聞かれ確認した記憶がある。
皮膚科クリニックでは最初に保険証を出した(と思った)、2時間以上待っていた時に「お薬手帳」を求められたがその際に保険証を返された(と思った)。その後「すいません、保険証を確認したいのですが・・」と訊かれて、バッグや洋服のポケットを捜したが保険証は消えていた。
後からゆっくり探そうと思い、「マイナンバーーカードでもいいですか?」と返事したものの、マイナンバーカードを保険証として使うのは初めて。どきどきしながら小さな機械(カードリーダー)にカードを置きまずは暗証番号を入力する(顔認証でもいいらしい)。
カードリーダーから薬剤情報の閲覧・特定検診情報の閲覧の同意確認を求められるのでひとつひとつ丁寧に「同意する」をタッチする。
マイナンバー保険証初体験の印象は「面倒くさい、時間がかかる」という芳しくないものだった。

近ごろのクリニックは予約制のため当日飛び入りなのでしっかりと待たされる、その間にバッグやポケットを何度も見直したが、保健証は見つからない。そんな修羅場を周りの患者さんたちが興味津々で眺めるなか、看護師さんが心配そうな顔で現れる、「見つかりませんか?」

診察の結果、帯状疱疹だと診断され薬を貰って帰宅した。
帰宅してすぐバッグの中身をすべて取り出して探査するも保険証は出てこない、コート、ズボンのポケットの奥にもない。
ここからの推論としては、クリニックの時点で保険証はすでになかった・・・出したと思ったのも一度返されたと思ったのも夢の中のことだった。
次の日、念のため車の中も精査した、シートの下まで覗き込んだが車にも保険証は落ちていなかった。
推理の結論としては総合病院から駐車場まで、もしくはクリニックの駐車場から受付までの間に落としたことに絞られる。
総合病院、クリニックに電話で確認したが落とし物の届けはないとのことだった。

保険証を紛失したが、そのおかげでマイナンバーカードの使い方を習った。
ちょうど紙の保険証が2024年12月2日で廃止になるのに先行してマイナンバー保険証に移行するのもいいかなと思った。
定期通院している整形外科クリニックでもマイナンバー保険証に対応している。
その他の必要に応じてお世話になっている病院(歯科医、眼科)は診察の際に確認すればいいと思ったが、意外とマイナンバー保険証に対応していない病院も多いらしい。
そういえば、個人クリニックでカード決済が可能になったのもつい最近のこと、医療機関のデジタル化の遅れは身近に感じてはいた。
念のため市役所に問い合わせしたところ、保険証の再発行はすぐにできますとのことだった、いつでもできるという安心感とペーパーへの逆行阻止という義信から再発行はペンディングにしたままだった。

海老名市では特定健康診査という制度がある。
70歳以上になると、ベーシックな検査(身長・体重・血圧、尿検査、血液検査、心電図検査、肺X線)に加えて胃カメラ、大腸内視鏡、前立腺検査 等々も自分の選んだ医療機関で無料で受けることができる。
毎年誕生月2月に受診しているので今年も同様に申し込む、日時も決まり当日持参する保険証はマイナンバーカードでいいですよね・・・と確認したところ受け入れられない旨告げられた。

申し込んだ医療機関は、前述の地域基幹総合病院系列の検査に特化した大規模な施設、近年開設さればかりで最新設備完備なのに、マイナンバー保険証は受け入れられないという。

仕方なく市役所で再交付の手続きを済ませた。

最新の検査医療機関がマイナンバー保険証を拒否する理由はなんとなく想像できる。
毎日多数の一年ぶりの患者が、あらかじめ10分刻みの決められた予約で現れる、例の暗証番号、各種データ閲覧同意の作業を、患者ひとりひとりが(医療スタッフでなく)実行する時間とトラブルは医療機関幹部にとっては悪夢に思えるだろう、患者の多くは高齢者であることを考慮するとなおさら・・・悪夢というのは受付渋滞、登録サポート業務、苦情処理、そして人員増加による効率低減、つまりは利益減ということである。

ところでデジタル化の真の目的を本当に理解しているのだろうか、お役所も政府も、そして国民も?
ざっくりした統計ではあるが2020年時点で日本のデジタル競争力は世界27位、電子取引、デジタル行政サービス普及率は一桁(!)にとどまっている。
こんな状態をして、日本は世界から大きな遅れを取っていると嘆く憂国者がいるかもしれないが、果たしてそれで済むことなのだろうか?
いつの時代も急激な変革が副作用を生じさせることが多かったことは歴史の事実であることを今一度学ぶ必要がある。AIに代表されるデジタルトランスフォーメーションは、ユートピアへの道とは限らないし、その反対の道に陥ることもある。
「すべての関係者にとって何が最も使いやすいか」から設計することを忘れてはいないだろうか?

そこで本件について、今やデジタル化の象徴にもなっている生成AIさんご本人にストレートに質問してみた。
「マイナンバー保険証の問題点は何でしょうか?」
次のような解答があった:
【マイナンバーカードで保険証を表示するには、確かに個人の承諾が必要です。これは、個人番号や医療情報などの個人情報の保護のために行われている措置です。承諾の方法は、マイナンバーカードの暗証番号を入力するか、カードに搭載された指紋認証機能を利用するかのいずれかです。承諾の手間や時間がかかると感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、個人情報の漏洩や不正利用を防ぐためには必要なことだと考えられます。マイナンバーカードの利用には、安全性と利便性のバランスが重要ですね。】

残念ながら模範的回答に見せかけた内容の薄い代物だった。
国民の使い勝手と企業側の利益優先と行政の方針に横たわる断絶などはAIには決し理解できないということが明らかになった。
当該デジタル化にしろ、地球温暖化対策にしろ、人権擁護にしろ、移民受け入れにしろ、富の格差是正にしろ、優先されるのは経済だ。
経済成長に利しない政策は葬り去られるか、うやむやのままに放置されていく。
医療分野のデジタル化推進は医療機関、患者の利益などにはお構いなし、まずは形を整えるだけという無節操な現状に気づいてしまった。

いつまで経済を発展させることが人間らしい生き方に優先されるのだろうか。
「新しい資本主義」ともっともらしい看板だけを掲げ、やったふりをする指導者に経済優先政策を変換させる気持などこれっぽっちもなさそうだ。
もっとも母体が裏金・脱税で火の玉のように燃え上がっている現状では、せいぜい我が身大事しか考えられないことだろう、いまさら嘆くことでもないけれど。

高齢者がコンセプトなきデジタル化に代表される政治不在に右往左往する 今日である。
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