52. 《 怒りの日 》 2022/12/21

文字数 1,244文字



人は年を重ねるにしたがって穏やかになるものだと言われる。
性格に角があるかどうか知らないが、角が取れて丸くなるらしい。
僕自身は生きる上で理論整然が大切だと思い「是か非か」に従って生きてきたが、48歳で癌手術を受けたことをきっかけに、周りに厳しく接することを控えるようにしてきた。
その理由が、笑えるほど自己的なのはさすがナルシストならでは・・・自分の葬儀に大勢来てほしいというだけ、正直といえば正直だけど。

幸いにも癌の転移・再発もなく「人に優しく」という反省の色も薄れ消えかけたころ、コントロールできない怒りに襲われるようになった。
悲惨な戦禍、政治無策による貧困、理不尽な災害に対しての正義の怒りのようなものではなく、それは逆にスケールの小さい怒りだ。
日常の一コマで、見聞きした言葉や文章に激しく反応してしまう、それも一瞬にして怒りの炎になる。
その例を以下に挙げてみるものの、我ながら大人げないと思うと同時に不可解なものばかりだ:
●知人に無料映画鑑賞会を勧められて・・・好みの作品しか観ない、大きなお世話だと怒る
●妻に家事の方法が間違っていると指摘されて・・・言い方が失礼だと怒る
●農家のあぜ道に入るなと制止されて・・・泥棒扱いにするなと怒る
●車庫入れでボディをこすって・・・たまたま目撃していた人に惑わされたからその人に怒る
●コードバンシューズのしわ伸ばしが上手くいかない・・・いい加減な情報をネットにアップするなと怒る
怒りの相手を(心の中ではあるが)口汚く罵って怒りを鎮め、そのあとそんなに怒ったその理由が思い出せなくて呆然とする。
「近頃の高齢者はキレやすい」という新聞記事も目にした、やはりこのような怒り衝動は加齢によるある種の疾患なのか?

怒り衝動が治まらない。
その極致ともいえるのが、我が家のビーグル犬(COCO)に八つ当たりしてしまうことだ。
1歳8か月のCOCOはヤンチャ盛りで、油断するとダイニングテーブルに飛び乗り食べ物に迫る。
ビーグル犬には自分の排泄物を食べる性向があり、こちらも油断すると完食してしまう。
躾け(トレーニング)である程度矯正したのだが、猟犬のDNAは早々簡単に修正されることもない。
COCOの無作法に接し、例の怒りが瞬発してCOCOを厳しく叱ってしまう、実際に口汚く罵る。
そしてたくさん反省する。
動物には責任のない行為、言葉を変えると人間である僕に責任がある結果に怒ることは、すなわち自分を責めていることに他ならない。
いやいや、ことは動物相手だけの話ではない。
知人、妻、農家、通行人、SNS情報への怒りも実際は自分の落ち度を認めたくない我儘、責任転嫁でしかない。
怒りの矛先が自分自身だとすれば、怒りを鎮めるには自分を許すことしかない。
自分がいかに未熟なものであることを認める・・・ナルシストには辛い状況が見えてきた。
不完全な自分を認め、そんな自分を許すには大きな力が必要だ。
「人は皆難病人」「他力に頼る」の教えを今一度自分のものにしなければと思う 今日である。
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