16.《 勿体ない日 》 2022/5/4

文字数 1,255文字



うちに来て早10か月がたち、1歳になった家族犬COCO、毎日の散歩を楽しみにしている、
三匹とも(僕も妻も人間という動物だから)散歩が大好きだ。
散歩コースは基本パターンを3種類用意している、いずれも今のCOCOの体力を勘案したものだけど、COCOとは逆に付き添う僕たち夫婦はこれから体力が劣化してくるから、この辺りは今後COCOと相談して決める、いまから心配しても仕方がない懸案である。

散歩コース「No.3大通り」はご近所の大きな通りを縦横に散策するコースだ、裏道や路地の静けさはないけれど、車や自転車を気遣うことなく歩道をゆったりと歩き、道筋の家々の様子を観察して勝手な評価して遊ぶことができる・・・
「大きなお家だね」、「もう住んでないのかな」、「空き地だったのにあっと言う間に建ったな」、「これが最近の流行りのデザインなのかね」・・・などと、あまり生産的ではない暇つぶしの会話が続く。
ちなみに「No.1 歴史コース」は歴史公園でお友達犬とマッタリできる、「No. 2ツキジコース」は知り合いの築地さんちをループする裏道中心でCOCOの大好きな匂いがいっぱいある。

ある日の「No.3 大通り」散歩中妻が独り言ちする、
「あ~あ、勿体ない、ここもほったらかしだね」
散歩途中よそ様の庭も覗くことが多い、しっかりと相手のプライバシーを尊重したうえでのことではあるが、最近は塀の類は防犯上却って危険だということで歩道からでもお庭の様子は詳しく見える設計が増えている。
妻が見つめているのは「甘夏」、美しい絵のように甘夏の果実がたわわにぶら下がっている。
歩道にはそこから落ちたのだろう甘夏がゴロンと転がっている、COCOは全く無関心のまま甘夏をよけて歩いている。
ここに来るまでにも数軒庭先に見事な甘夏を見てきた、どこも刈り取ることなくそのまま捨て置かれている。このコース、その都度確認しているから甘夏の運命は手に取るように知っている。

妻の趣味であり得意なのが、ジャムづくり。
冷蔵庫にはお手製のジャムが数種類、数個常に鎮座している。
我が町、海老名市は苺の産地である、地元の農家では粒の小さい苺をお安く提供している、イチゴジャムが出来上がる。
郷里高松の知り合いが毎年送り届けてくれるたくさんの甘夏、ママレードが出来上がる。
ところが、僕らも高齢になったように知り合いも然り、甘夏の収穫ができなくなった、甘夏が来なくなったのが昨年からだった。

そこで妻がつい呟いたのが「あ~あ 勿体ない」の愚痴だった。
庭の甘夏が放置されている、せっかく大きく美味しそうに実ったのに、それも揃いも揃ってご近所に数件。
地元の庭師さんが、ある時期実施した「甘夏キャンペーン」の結果かと思うほど、街角々に甘夏の実が庭から綺麗な黄色の顔を出している。
妻のストレスは高まっていた。
「私がママレードにしてあげるのに、勿体ない」

秘かに僕は作戦を立てている。
来年の今頃、ご近所にチラシを配る作戦だ。
【等価値交換 甘夏 ⇔ ママレード】
一年後の「今日である」が楽しみだ。
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