100. 《 穴をかっぽじく日 》  2023/11/ 22

文字数 2,523文字



人間の身体にはいろんな穴がある。
大腸につながるお尻の穴を、かっぽじったという話をご紹介する。
企業健康組合の成人病検査という厚生援助が勤め人時代毎年実施されていた(今も変わらないとは思うが)。その中に胃レントゲン検査というのがあった(今はあるのか不明だが)、検査の前にバリウムという造影剤を飲む。50年前のバリウムは濃厚ねっとり、それを大カップで飲み切ってからぐるぐる回るレントゲンベッド遊泳中に胃が撮影される。
問題は、そのあとのこと。
固まらないうちに下剤で流し去る手筈にはなっているのだが、それに失敗したときが悲惨だった。バリウムの塊りをウンウン言いながら踏ん張り出す始末になる。
どうしても塊りが出なくて、マッチ棒で穴をかっぽじった先輩がいた、その気持ちはよくわかるが、危険なのでよい子は真似をしてはいけない。

下品な前振りから始まってしまい申し訳ない、実は今回テーマ「かっぽじく穴」とは耳の穴である。
大阪でよく聞く 「こりゃ、われ~ちゃんと 耳の穴かっぽじいてよーきいとれ」の耳の穴である。・・・というと地域差別になるのでこれまた訂正削除し深くお詫びする次第だ。
申し上げたいことは、近年自分の耳の穴を頻繁にかっぽじいているということ、何かをしっかり聞きたいという想いからの行動だということ。

何かとは、家族が話しかける内容であり、市役所からの一斉マイク放送であり、TVのスポーツ実況・・・・ぼくにとって大切な情報だ。
よく聞き取れない兆候は数年前からあった、この一年で悪化したので耳鼻科で診てもらったが経年症なので効果的治療法はないとのことだった。
ならば 補聴器を装着するか否か・・・・で、かなりの時間悩みぬいた。
補聴器がきわめて高価な機器であるにもかかわらず効果が期待できないという噂を聞きつけて迷い迷ったのである。
結局 補聴器ではなくお値段手頃な集音器という類の製品にたどり着いた。
以来約一年間使っているが、結局集音器の限界を悟ることになった。
スマホにアプリを入れ、好みの集音パターンをチョイスできる、例えば「声をシャープ」、「女性の声」、「ミュージック」など細やかに設計されているのではあるが、現実7名が集う夕食時に6人の声とTVの音と、キッチンの作業音、外部の騒音、が集合するとぼくの耳の穴はカオス状態になる。
だからといって感度をげると聞き取りにくい、イライラして機器を外してしまうと、まさにつんぼ桟敷(差別語陳謝)に置かれる。
諦めて会話に入ろうとしないといつか認知症になると脅されているので、イチかバチかで返答する、ほぼ外れて余計に落ち込む。
家族はぼくの症状を知っているので根気強く付き合って何回も同じ言葉を繰り返してくれる、ありがたいものだ。
ときおり、「あぁ こりゃダメだ」のような家族の表情を見ることもあるが、挫けることなく笑顔でやり過ごすように努力している。
これからも当分 家族の暖かい眼差し包まれてボケをかまし続けることになるようだ。

本当に困ったことはシネマのセリフが明確に聞こえないこと、ぼくのライフワークであるシネマ鑑賞の致命的障害となっている。
録音が拙いとか、シネコンのスピーカが壊れているとか、俳優の活舌が悪いケースも稀にあるが、ほぼ ぼくの耳の穴に責任がある。
シネマは総合芸術である、つまり音楽を含めた音響、アフレコ台詞を愛で愉しむのが肝要なのだが、集音器を使うとそのバランスが崩れることに気づいた、例えれば集音器がサウンドバスターズになって無味乾燥味気ない音の世界になってしまう。
だから、字幕付きの海外作品の時は集音器は使わない、そして字幕のない邦画の時は片耳だけ集音器をつけて、音響と台詞両方を享受しようと欲張っている、集音レベルやアプリパターンを試行錯誤した結果、集音器でもそれなりにベストに近いものが確立された。

それでも、愛しいシネマをパーフェクトに鑑賞できているとは思っていない、あくまでも次善の対策でしかない。
すでにTVドラマは日本語付き機能があるのだからいっそ、邦画も海外シネマと同じように字幕を付けてくれるといいのにと思っている。
いまや高齢者団塊世代の数的優位を笠に着て、シネコン業界、製作会社に歎願書を提出しようと思ったが、その前に念のため生成AIにも確認してみた、最近困った時は生成AIにご意見をうかがうことにしているから。
以下がその解答:
【最近では、耳が不自由な方や日本語の聞き取りに自信がない方向けに、日本映画の音声はそのままで台詞や効果音などが字幕表示される上映が行われています。例えば、シネマシティNEWS3では、邦画日本語字幕版情報を掲載しています。】

日本語字幕付き邦画があることを初めて知った、AIが言うシネマシティは最新音響設備が自慢のシネマコンプレックスだ。
早速 馴染みのシネコンをチェックしてみると、現時点(10月22日)で1本だけではあるが「日本語字幕付き」のシネマが上映されていた。
《「アナログ」13:00上映》がそれだ。高齢者向け作品でかつ高齢者鑑賞時間帯での提供だろうと邪推する、シネコン機能の有効活用だ。

ただし、邦画すべてにがこのような字幕付き版があるわけではない。
字幕を邦画に入れるのに何か問題があるのだろうか? スクリーン上の文字が煩わしいのは海外シネマも同様だ。すでにTVドラマでは日本語字幕付きを選択できるようになっている。
シネコンでも選択できるといいのだがシステム上不可能だろう。
逆に 海外シネマに近年吹替版が用意されるようになった、多様性を大切にするシネコンならば、邦画も字幕版を全作用意し、高齢者タイムゾーンに配置して欲しい。
海外シネマと同じように意訳、短縮された字幕でも歓迎する、上映前に耳をかっぽじくような哀れな準備をしないで済むのならばそのくらいは我慢できる。

シネマ産業がこのような対応が取れなかったときには TVによるシネマ配信サービスに間違いなく敗退することだろう。一度衰退したシネマがシネコンで復活したように、いま更なるマーケティングが望まれていることに間違いない。

我が身の経年不具合を棚に置いて、シネマの未来を懸念して憂さ晴らしする 今日である。
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