21.《 お水の日 》  2022/6/8

文字数 1,544文字




「お水」と言っても、(み)にアクセントがくる水商売のほうではなくて、水仕事のことである。

因みに、なぜ水商売というのか? かって母から聞いたことがある。
両親が焼き鳥屋 「鳥の東太」を営んでいたころのことだったと記憶している。
父は香川県警奉職後かねてから念願の飲食業を始めた、母は父に付き合わされた形だった、「ゆっくり旅行がしたいのに」とよく文句を言っていたものだ。
地方都市、高松の歓楽街のど真ん中にオープンしたお店は評判を呼んで大繁盛した。
後輩の警察官が安心して飲んで騒ぐことができる店であることはすなわち怪しげなお客はその雰囲気を察して近寄らなかった、おかげで一般のお客もそれを知って足しげく通ってくれた。
県警本部長までがお忍びで来店し、父を模範的退職者であると称賛したと聞いた、天下り先が一つ余ったからだろう、きっと。

そんな繁盛しているお店でも、ピタっと人流が途絶えることがあるという、まるで水がせき止められて流れてこないように・・・。
逆に、お店が満員の時に限ってお客が大勢現れる、もう少し時間をずらせてもらえないものかと思うほど、それはまるで水が押し寄せてくるように・・・。
お客商売のむつかしさをわかりやすく説明してくれる母の「水商売」解説であった。

閑話休題、
ゴールデンウィークの一日、サンデー毎日者には有難みがもはや理解できない一日、それでも五月晴れの好天にじっとしているのも勿体ない、
重い腰を上げる「さて今日は水仕事をこなすぞ」と。

一つ目は「車」、洗車である。
ガレージの向かいが横銀さんの駐車場なので入出庫に邪魔にならないようにと、休日にしか洗車はしない。
コロナパンデミックやら、父の特養入所生活やらでこの二年間遠出する機会のないまま、しかし日常の買い物、通院には欠かせない ドライブ・マイ・カー。
お世話になっている車にはきちんとお礼をする、いつも綺麗にピカピカにする。

二つ目は「COCO」の入浴である。
ビーグル家族犬も三代目になると、また内犬二代目にもなると、入浴テクニックも磨き抜かれてくる。
車と違うのは相手が生き物であること、じっとはしてくれないのでサポートが必要になる、妻との共同作業でも難度に関してはクロスワード解読を抜いて断トツ一位となるCOCO入浴である。
まず、入浴の前に散歩、ブラッシング。
孫たちがまだ小さい時使っていたベビーバスタブが再度お勤めに復帰、僕の水仕事に欠かせない定年延長雇用となった。
散歩から帰宅すると、この時に限って手足(COCOの)を拭くことなくバスタブに直行する。
シャワー(40℃)をかけながら短い毛を丹念にほぐして水洗いする、その後シャンプーを泡立たせ体全体に塗り込み、両手でもみ洗いする・・・そう、これは入浴というより洗濯なのである。

初代ゴルビーは外犬だったのでこのような手厚いサービスは受けたことはなかった、そのうちに彼はお風呂嫌いになっていた。
二代目小夏は、我慢してこの洗濯に付き合ってくれたが、洗い終わるや否やバスタブから飛び出ていった。
三代目は我が家に来た直後からお風呂に入れたこともあって今では平気の平左だ、洗っている途中であくびを漏らし時折居眠りしている。
入浴後の濡れた毛のふき取り・乾燥はそれでもちょっとだけ抵抗するが、ペットショップを覗いて無断習得した技・・・高いテーブルに立たせて動きを封じた格好でドライヤーとタオルで強制的にふき取ると、覚悟したようにおとなしくなる。
COCOの白い胸毛はより白くフサフサと、背中の鬣もソフトにつるつるに、抱きしめるといい匂いがする。
我が家の癒しを一身に受け持ってくれるCOCOにはきちんとお礼をする、いつも綺麗にピカピカに。

夕刻から腰の痛みを覚えるのは、「今日がお水の日である」証だった。
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