第9話 同胞の回想~地球(同一)
文字数 4,369文字
〔 同一 〕とは
宇宙生命体が、他の生命体(例えば人間)と完全に同化すること。
宇宙生命体としての記憶も能力も無くなり、その生命体として生きていく。
その生命体に死期や危険が迫っても合一とは異なり、覚醒せずに死んでいく。
つまり、宇宙生命体から他の生命体に生まれ変わることでもある。
ただ、人間と違って、宇宙生命体は生まれ変わる相手の生命体を選ぶことが出来る。
なお、この話から〔 βの息子 〕を〔 拓馬 〕と呼びます。
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私たちは、5万年前とうとう地球へたどり着いた。
ノアを出発して十億年が経っていた。
私たちがたどり着いたのはヨーロッパだった。
約束の地には遠かったけれど、私たちは歓喜した。
地球は、水も空気も生き物も昔のノアと同じだった。
私たちは、いつまでも泣いた。
そして、旅の途中で死んでいった同胞を思いながらまた泣いた。
地球にたどり着いた同胞は、五十万人を切っていた。
ノアを出発した時の百分の一以下になっていた。
私たちも長い宇宙の旅で変化していた。
私たちは、子孫を残すことができなくなっていた。
それに、地球人と合一しないと生きていけなくなっていた。
でも、それには何の抵抗もなかった。
だって、地球人は、私たちと瓜二つだったから・・・
私たちが、最初に降臨したのは今のスペインだった。
私たちは、人間に合一するために主に地中海を中心としてアフリカ北部、ヨーロッパ南部、中近東に散って行った。
約束の地へ向かいたかったが、合一している人間を繰ることはできない。
ただ、人間の中でまどろんでいるだけなのだ。
それに、同胞たちから離れたくなかった。
私たちは、地中海を中心とした範囲で、人間との合一を繰り返した。
中には、合一した人間がこの地域から離れようとするとき、離脱できずに人間と一緒に行ってしまう同胞もいた。
すると、私たちはその同胞を感知できなくなった。
当然、思念による意思の疎通もできなくなった。
合一したまま離脱できずに死んでしまう同胞も多かった。
地球に着いてから、私たちの能力は予想以上に劣化が進んでいた。
地球人は、それまでの他の星の生命体とは全く異なっていた。
まるで、話に聞いていたご先祖が、肉体を持っていたころの生態ととてもよく似ていた。
私たちは、あっという間に地球人に馴染んでいった。
私たちは、他の星に移動する必要がないので、一人の人間に長く合一するようになった。
年月が経過するほど、人間に深く馴染むだけでなく、いつの間にか彼我の境まで曖昧に感じるようにさえなっていた。
最初から、人間以外の動物などに合一する気は全くなかったし、一人の人間に長く合一していると、人間の生死が私たちの生死のようにさえ感じるようになっていった。
そのため、長く合一している人間に同一 してしまう同胞が出てきた。
人間に同一すると、私たちの意識はなくなる。
超能力と言える私たちの能力もなくなる。
つまり、宇宙生命体としての記憶も力もなくなり、人間として生きていくことになるのだ。
それでも、同胞は次々と人間に同一していった。
地球人に馴染んだからという理由だけではない。
合一している時間の方が、覚醒している時間より圧倒的に長くなってしまったのだ。
それに比例するように、私たちの能力はさらに劣化していった。
地球に着いたころから、五十万の同胞が皆互いを感知し、思念で意思の疎通ができるのは、地中海を中心とした範囲に限られていたが、4万年ほど経つと、それさえできる同胞の数は急激に減っていった。
同胞の数が減少したのではなく、いくつものグループに分かれていったのだ。
互いに感知して意思疎通ができる同胞は、同じグループに属している者に限られるようになっていった。
同胞のグループは、合一している人間の集団と重なっていた。
大勢の人間の集団と集団が接近したときは、以前のように同胞同士が感知し、意思疎通もできるのだが、複数の人間の集団が接近するときは、戦いになるときがほとんどだった。
私たちは、同胞同士で戦うことは全くなかった。
このような、戦いばかりの状況に大勢の同胞が失望した。
このまま、永遠ともいえる時間を、人間の戦いを見ながら宇宙生命体として生きていく意味を、見出せない同胞も増えていった。
それでも、もはや地球で生きていくしかないのだ。
この苦しみから逃れるためには、皮肉なことだが、人間に同一して記憶を失くすしかない。
こうして、多くの同胞が人間になることを選択した。
十億年をかけて、命がけでたどり着いた地球は、楽園ではなく人間の戦場だった。
ほとんどの同胞は、宇宙生命体として生きていくことに疲れてしまっていた。
子孫ができなくなっていたことも大きかった。
同胞が同一した人間は、宇宙生命体としての記憶や能力は持たなかったが、人間としては、皆非常に優れた資質を持っていた。
その資質は、同一した人間の子孫にも継承されることが多かった。
そして、彼らはその優秀さで人間のテリトリーの長となり、次第に力を付け、国を興 すまでになっていった。
これを見ていた同胞たちも、次々と人間に同一していった。
自分たちの手で新しい国を作り、争いの無い、人々が手を取り合って生きていく世界を作りたいという理想を持っていたのだ。
だけど、皮肉なことに彼らの平和主義や理想は、人間の子孫たちには、資質として不完全にしか継承されなかった。
それでも、同胞は次々と人間に同一していった。
とうとう最後に残ったのは、私と拓馬の二人だけになる日が来た。
地球にたどり着いて、4万7千年が経っていた。
その間、私と拓馬は、ヨーロッパや中近東を中心に人間との合一を繰り返していたが、人間と同一した同胞たちは、この地域から離れていく者も多かった。
しかし、その後、彼らがどうなったかは、もう分からなかった。
私たちは、好き好んでヨーロッパや中近東に留まっていたのではない。
拓馬と私が合一していたのは、それぞれ別のグループだったけれど、なぜか私たちだけは、どんなに離れていても互いに感知し、思念による意思の疎通ができていたのだ。
だから、片方を置き去りにして、この地域から離れることができなかった。
私が、当時属していた同胞のグループは、カド族と呼ばれていた部族の人間たちに合一していた。
そのころのカド族は、中近東にあって大きな勢力と繁栄を誇っていたイスラエル王国を支える10部族の中で最も大きい部族だった。
彼らが仕えるイスラエル王国の王は、二代目の王ダビデだったが、彼は、私たちの同胞が同一した人間だった。
私はある日、グループのリーダーからの呼びかけで、まどろみから目を覚ました。
リーダーによると、我々のグループは、すでにリーダーと私を除く全員が、カド族の人間と同一してしまったということだった。
リーダーは、カド族の長に合一していたので、
「・・自分も長に同一しないと、部族を率いていくのはむずかしいだろう・・・自分は、カド族の長に同一しようと思う。お前は、これからどうする?」
というものだったけれど、私は、宇宙生命体として残ると答え、リーダーに別れを告げた。
リーダーは、私との別れを惜しんだ後、カド族の長に同一をした。
リーダーは、カド族の長の呼称である〔 ミカド 〕となった。
私は、それを見届けて、改めて地中海を囲むこの地域の同胞を感知しようと試みた。
同胞がグループ別に分かれて、他のグループの同胞とは互いに感知できなくなっていたけど、私と拓馬だけは、他のグループの同胞でも感知することができていた。
感知できた同胞は、拓馬だけだった。
地中海を囲むこの地域で、純然たる宇宙生命体としての同胞は、私と拓馬の二人だけになった。
私たちは思念で相談し、合流して約束の地を目指すことにした。
約束の地は、同胞全員が、最後まで目指すことを忘れることができなかった地だ。
しかし、地球に到達後は、常に人間との合一を繰り返さないと、私たちの生存は難しくなっていた。
地球を目指していたころのように、エネルギーの充填が済めば、好きな所へ飛び立つということができなくなっていたのだ。
ひょっとすると、失敗して死ぬかもしれない。
でも、純然たる宇宙生命体は、もう私たちしかいない。
せめて私たちだけでも、この最後の目的を叶えようと誓った。
私たちは、最後の力を振り絞って合流した。
人間の体を離れての行動だったから必死だった。
約束の地を目指すためには、少なくとも地球に着いたころの力が必要だ。
私たちは、思い切って互いに合一することにした。
しかし、宇宙生命体同士の合一は、危険が大きいと言われていた。
過去にも、どうしても他の生命体との合一に間に合わなくて、宇宙生命体同士で合一した例はあったが、互いにエネルギーを奪い合い、共に自滅することが多かった。
中には、成功することもあったが、効果が持続する時間はまちまちだった。
また、互いに意識を失くし、回復できない事例もあったのだ。
だから、宇宙生命体同士の合一は、あくまでも緊急の応急措置として考えられていた。
私たちは、運が良かったのだろう。
結果は、何とか成功したのだった。
私たちは光の玉となって、かろうじて意識を保ちながら、力を合わせて東を目指した。
そして、たどり着いたのが日本列島
日本が約束の地だったのだ。
三千年前のことだった。
でも、エネルギーを使い果たしていた私たちは、すぐに人間と合一しなければならなかった。
私たちは、未来予知能力を使い、将来、夫婦になる二人の子どもを見つけて、それぞれに合一した。
私たちが合一した子どもたちは、成長し大人になり、恋愛をして結婚した。
子どもを産んで育て、お互いに年を取ってやがて死んでいく。
あんなに長く合一したのは初めてだった。
感動した。
私が合一した女の子は、お婆さんになって死期が近づいていた。
私は、お婆さんの中にぎりぎりまで留まって名残りを惜しんだ。
お婆さんから離脱した私は、拓馬に呼びかけたけれど、お爺さんの中でまどろむ拓馬は覚醒しなかった。
私の呼びかけの力も、拓馬の感知の力も弱まっていた。
私は、仕方なく他の人間に合一することにした。
あれから三千年近く、人間と合一しながら拓馬を探し続けたけれど、見つけることができなかった。
私たちは、互いの感知能力だけでなく、未来の予知能力も劣化していた。
宇宙生命体が、他の生命体(例えば人間)と完全に同化すること。
宇宙生命体としての記憶も能力も無くなり、その生命体として生きていく。
その生命体に死期や危険が迫っても合一とは異なり、覚醒せずに死んでいく。
つまり、宇宙生命体から他の生命体に生まれ変わることでもある。
ただ、人間と違って、宇宙生命体は生まれ変わる相手の生命体を選ぶことが出来る。
なお、この話から〔 βの息子 〕を〔 拓馬 〕と呼びます。
____________________________________________________________________________________
私たちは、5万年前とうとう地球へたどり着いた。
ノアを出発して十億年が経っていた。
私たちがたどり着いたのはヨーロッパだった。
約束の地には遠かったけれど、私たちは歓喜した。
地球は、水も空気も生き物も昔のノアと同じだった。
私たちは、いつまでも泣いた。
そして、旅の途中で死んでいった同胞を思いながらまた泣いた。
地球にたどり着いた同胞は、五十万人を切っていた。
ノアを出発した時の百分の一以下になっていた。
私たちも長い宇宙の旅で変化していた。
私たちは、子孫を残すことができなくなっていた。
それに、地球人と合一しないと生きていけなくなっていた。
でも、それには何の抵抗もなかった。
だって、地球人は、私たちと瓜二つだったから・・・
私たちが、最初に降臨したのは今のスペインだった。
私たちは、人間に合一するために主に地中海を中心としてアフリカ北部、ヨーロッパ南部、中近東に散って行った。
約束の地へ向かいたかったが、合一している人間を繰ることはできない。
ただ、人間の中でまどろんでいるだけなのだ。
それに、同胞たちから離れたくなかった。
私たちは、地中海を中心とした範囲で、人間との合一を繰り返した。
中には、合一した人間がこの地域から離れようとするとき、離脱できずに人間と一緒に行ってしまう同胞もいた。
すると、私たちはその同胞を感知できなくなった。
当然、思念による意思の疎通もできなくなった。
合一したまま離脱できずに死んでしまう同胞も多かった。
地球に着いてから、私たちの能力は予想以上に劣化が進んでいた。
地球人は、それまでの他の星の生命体とは全く異なっていた。
まるで、話に聞いていたご先祖が、肉体を持っていたころの生態ととてもよく似ていた。
私たちは、あっという間に地球人に馴染んでいった。
私たちは、他の星に移動する必要がないので、一人の人間に長く合一するようになった。
年月が経過するほど、人間に深く馴染むだけでなく、いつの間にか彼我の境まで曖昧に感じるようにさえなっていた。
最初から、人間以外の動物などに合一する気は全くなかったし、一人の人間に長く合一していると、人間の生死が私たちの生死のようにさえ感じるようになっていった。
そのため、長く合一している人間に
人間に同一すると、私たちの意識はなくなる。
超能力と言える私たちの能力もなくなる。
つまり、宇宙生命体としての記憶も力もなくなり、人間として生きていくことになるのだ。
それでも、同胞は次々と人間に同一していった。
地球人に馴染んだからという理由だけではない。
合一している時間の方が、覚醒している時間より圧倒的に長くなってしまったのだ。
それに比例するように、私たちの能力はさらに劣化していった。
地球に着いたころから、五十万の同胞が皆互いを感知し、思念で意思の疎通ができるのは、地中海を中心とした範囲に限られていたが、4万年ほど経つと、それさえできる同胞の数は急激に減っていった。
同胞の数が減少したのではなく、いくつものグループに分かれていったのだ。
互いに感知して意思疎通ができる同胞は、同じグループに属している者に限られるようになっていった。
同胞のグループは、合一している人間の集団と重なっていた。
大勢の人間の集団と集団が接近したときは、以前のように同胞同士が感知し、意思疎通もできるのだが、複数の人間の集団が接近するときは、戦いになるときがほとんどだった。
私たちは、同胞同士で戦うことは全くなかった。
このような、戦いばかりの状況に大勢の同胞が失望した。
このまま、永遠ともいえる時間を、人間の戦いを見ながら宇宙生命体として生きていく意味を、見出せない同胞も増えていった。
それでも、もはや地球で生きていくしかないのだ。
この苦しみから逃れるためには、皮肉なことだが、人間に同一して記憶を失くすしかない。
こうして、多くの同胞が人間になることを選択した。
十億年をかけて、命がけでたどり着いた地球は、楽園ではなく人間の戦場だった。
ほとんどの同胞は、宇宙生命体として生きていくことに疲れてしまっていた。
子孫ができなくなっていたことも大きかった。
同胞が同一した人間は、宇宙生命体としての記憶や能力は持たなかったが、人間としては、皆非常に優れた資質を持っていた。
その資質は、同一した人間の子孫にも継承されることが多かった。
そして、彼らはその優秀さで人間のテリトリーの長となり、次第に力を付け、国を
これを見ていた同胞たちも、次々と人間に同一していった。
自分たちの手で新しい国を作り、争いの無い、人々が手を取り合って生きていく世界を作りたいという理想を持っていたのだ。
だけど、皮肉なことに彼らの平和主義や理想は、人間の子孫たちには、資質として不完全にしか継承されなかった。
それでも、同胞は次々と人間に同一していった。
とうとう最後に残ったのは、私と拓馬の二人だけになる日が来た。
地球にたどり着いて、4万7千年が経っていた。
その間、私と拓馬は、ヨーロッパや中近東を中心に人間との合一を繰り返していたが、人間と同一した同胞たちは、この地域から離れていく者も多かった。
しかし、その後、彼らがどうなったかは、もう分からなかった。
私たちは、好き好んでヨーロッパや中近東に留まっていたのではない。
拓馬と私が合一していたのは、それぞれ別のグループだったけれど、なぜか私たちだけは、どんなに離れていても互いに感知し、思念による意思の疎通ができていたのだ。
だから、片方を置き去りにして、この地域から離れることができなかった。
私が、当時属していた同胞のグループは、カド族と呼ばれていた部族の人間たちに合一していた。
そのころのカド族は、中近東にあって大きな勢力と繁栄を誇っていたイスラエル王国を支える10部族の中で最も大きい部族だった。
彼らが仕えるイスラエル王国の王は、二代目の王ダビデだったが、彼は、私たちの同胞が同一した人間だった。
私はある日、グループのリーダーからの呼びかけで、まどろみから目を覚ました。
リーダーによると、我々のグループは、すでにリーダーと私を除く全員が、カド族の人間と同一してしまったということだった。
リーダーは、カド族の長に合一していたので、
「・・自分も長に同一しないと、部族を率いていくのはむずかしいだろう・・・自分は、カド族の長に同一しようと思う。お前は、これからどうする?」
というものだったけれど、私は、宇宙生命体として残ると答え、リーダーに別れを告げた。
リーダーは、私との別れを惜しんだ後、カド族の長に同一をした。
リーダーは、カド族の長の呼称である〔 ミカド 〕となった。
私は、それを見届けて、改めて地中海を囲むこの地域の同胞を感知しようと試みた。
同胞がグループ別に分かれて、他のグループの同胞とは互いに感知できなくなっていたけど、私と拓馬だけは、他のグループの同胞でも感知することができていた。
感知できた同胞は、拓馬だけだった。
地中海を囲むこの地域で、純然たる宇宙生命体としての同胞は、私と拓馬の二人だけになった。
私たちは思念で相談し、合流して約束の地を目指すことにした。
約束の地は、同胞全員が、最後まで目指すことを忘れることができなかった地だ。
しかし、地球に到達後は、常に人間との合一を繰り返さないと、私たちの生存は難しくなっていた。
地球を目指していたころのように、エネルギーの充填が済めば、好きな所へ飛び立つということができなくなっていたのだ。
ひょっとすると、失敗して死ぬかもしれない。
でも、純然たる宇宙生命体は、もう私たちしかいない。
せめて私たちだけでも、この最後の目的を叶えようと誓った。
私たちは、最後の力を振り絞って合流した。
人間の体を離れての行動だったから必死だった。
約束の地を目指すためには、少なくとも地球に着いたころの力が必要だ。
私たちは、思い切って互いに合一することにした。
しかし、宇宙生命体同士の合一は、危険が大きいと言われていた。
過去にも、どうしても他の生命体との合一に間に合わなくて、宇宙生命体同士で合一した例はあったが、互いにエネルギーを奪い合い、共に自滅することが多かった。
中には、成功することもあったが、効果が持続する時間はまちまちだった。
また、互いに意識を失くし、回復できない事例もあったのだ。
だから、宇宙生命体同士の合一は、あくまでも緊急の応急措置として考えられていた。
私たちは、運が良かったのだろう。
結果は、何とか成功したのだった。
私たちは光の玉となって、かろうじて意識を保ちながら、力を合わせて東を目指した。
そして、たどり着いたのが日本列島
日本が約束の地だったのだ。
三千年前のことだった。
でも、エネルギーを使い果たしていた私たちは、すぐに人間と合一しなければならなかった。
私たちは、未来予知能力を使い、将来、夫婦になる二人の子どもを見つけて、それぞれに合一した。
私たちが合一した子どもたちは、成長し大人になり、恋愛をして結婚した。
子どもを産んで育て、お互いに年を取ってやがて死んでいく。
あんなに長く合一したのは初めてだった。
感動した。
私が合一した女の子は、お婆さんになって死期が近づいていた。
私は、お婆さんの中にぎりぎりまで留まって名残りを惜しんだ。
お婆さんから離脱した私は、拓馬に呼びかけたけれど、お爺さんの中でまどろむ拓馬は覚醒しなかった。
私の呼びかけの力も、拓馬の感知の力も弱まっていた。
私は、仕方なく他の人間に合一することにした。
あれから三千年近く、人間と合一しながら拓馬を探し続けたけれど、見つけることができなかった。
私たちは、互いの感知能力だけでなく、未来の予知能力も劣化していた。