第108話  二度目の歴史~山崎にて

文字数 2,094文字

---- 二条天皇を無事に清盛の元へ送り届けた直後 ----

 拓馬たちは、最初に目覚めた場所にいた。
 そこは、盆地である京の都を囲むように連なる山々の一つから盆地の中へポツンと離れてあるような小高い丘の上であった。
 丘には、葉を落とした白木蓮の木が立っていた。

「懐かしかったわ・・・この時代でも三千年前に私がいたグループのリーダーの輝核に会えるなんて・・彼がカド族の(ミカド)となってからのことは分からないけど、彼らも同一して記憶を失くしても約束の地を目指したのでしょうね」
「そうだね・・でもやはり記憶は無いみたいだったね」
「そうね、でも明治天皇や、昭和天皇それに令和の今上陛下の中に同一していた輝核と少しも違わない。彼は記憶を失くしても、ミカドの使命だけは忘れず輝核として残ったのだと思う。きっと日本に来てからも(ミカド)として、日本の平和と民の安寧を護るために輝核として生き続けているのだと思うわ」
「日本が国難に遭ったり混乱したとき、転換点にあるとき、必ず素晴らしい器の天皇が現れ、彼はその天皇に同一して日本を導いてきたんだろうね・・・僕たちにも彼とは違う使命があるのかもしれないね・・・」

「拓馬、これからどうする?」
「この時代と場所に肉の身を持って転生したというのが、僕たちが分かっていることだ・・それにここは、元いた世界だ。並行世界(パラレルワールド)なんかじゃない」
「そうね」
「僕たちは、前の歴史で宇宙生命体として生き、最後に人の歴史に大きな干渉をした後、ここへ飛ばされた・・僕たちにも理解できない大いなる意志が働いているとしか思えない・・」

 それから、二人は、それぞれの考えを述べ、いくつかの結論と予想に達した。
 それは、
 1.歴史は、あくまでこの世界に生きるこの時代の人間が作るものだということ。
 2.宇宙生命体として小さな干渉は出来ても大きな干渉は出来ない。ただ、宇宙生命体としての干渉がどこまで許されるのかははっきりしない。
 3.だが、肉の身を持ちながら能力も消えずに転生したということは、人間としてなら、ある程度能力を使って歴史に干渉しても良いということではないか。
 4.この時代に転生したということは、この時代からやり直すことが求められているのではないか。
 そのうえで二人は、未来の予知を試みたりもしたが、漠然とならかなり先まで予知できるのだが、はっきりと予知できるのは北鮮、中国、ロシアが侵攻して来るまでだった。
 そのことから、
 5.北鮮・中・露三国の侵攻までは、やり直しが認められているのではないか。その後のことは、やり直しの結果次第では、さらに延びるのではないか。
 というものだった。

 それから、二人は、この時代の人間として生きる以上、取敢えず住まいや身分を決めなければいけないということになった。

 住まいは、この白木蓮の丘の麓にこじんまりとした庵を建てた。
 小さな庵であったが、その雅な様子は、都の長者か公家の隠れ家的な別邸というような趣のあるものであった。
 拓馬は、公家か長者の落胤、栞はその母という設定にしたのだった。

 また、この丘は、京を囲んで連なる山々の先から京都盆地へ一つだけポツンと離れていたため、所の地名は、

の丘、それが転じて山先さらに「山崎」と言われていた。

 突然現れた拓馬たちと庵であったが、所の人々は何の違和感も感じることなく、以前から都の尊い母子が、丘の麓に庵を営み住んでいるという認識であった。

 拓馬と栞は、庭に菜園を作り自給自足をすることにした。
 また、栞は、野山で山菜を採り、拓馬は、猪や鹿、鳥などを狩ったり魚を獲ったりもした。
 能力で現代の食事を実体化し、現出することが出来るので必要ないのだが、これからもこの時代の人々に違和感を持たせずに自然な形で溶け込むためであった。
 庶民にとって食べていくということは最も重要なことであり、文字どおり死活問題であるのだが、二人にとっては、土とともに生きる自給自足は新鮮な感動があった。

 獣肉食については、仏教伝来以降、平安時代の貴族の間には獣肉食の禁忌があったが、全く食べないということではなく、獣肉食をする武士の台頭もあり、禁忌は薄まっていた。
 それに、この時代の貴族がひ弱ということではないが、武力を失っていくことは確かであり、子孫はいずれ武士として天皇を護ることが必要との考えから、貴族から武士化していくことが望ましいと考えたからでもあった。
 それ以上に、獣肉食は庶民にとってはご馳走であり、狩ってきた獣を村人に分け与えたり、村人たちと一緒に食したりして人々と交流し、山崎での生活に馴染んでいったのだった。

 やがて、栞は、村人の怪我や病気を不自然にならないように治したり、拓馬は子どもたちに読み書きや棒切れで剣術を教えたりして、村人たちから、拓馬は殿様、栞は母君様と呼ばれるようになった。
 このような二人の噂はすぐに広まっても不思議ではないのだが、村を越えて二人のことが細々と広まったのは精々山崎一円までだった。

 二人のことが広く知られるようになるのは、数年後、近隣の土豪、地侍との争いが勃発した頃からだった。
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