第15話  能力の復活 実体化

文字数 1,256文字

 退院後一月半が経った。
 この一月半の間、身辺には色々あったが、入院していた頃から時間が空いたときは、母さんと能力の訓練もした。

 俺が5才の事故の時、母さんは最初の覚醒をした。
 俺と合一して、俺を安全な場所へ転移させた後は、この前の事故で再び覚醒するまで、ずっと微睡(まどろ)みの中で夢を見ているような状態だったそうだ。
 ところが、俺と龍馬君を助けてからは、意識がはっきりしており、意識のオン、オフが自由に出来るようになったそうだ。

 だが、これについては、俺の意識的、無意識的な気持ちが優先するそうだ。
 つまり、俺が意識的であろうが、無意識的であろうが、見られたくないときは、よほどの危険が迫っていない限り、母さんの意識はオフになるとのことだ。
 これは、まだ母さんが微睡の状態だった頃からだそうで、特に俺が思春期になった頃から顕著になったとのことだった。

 ( つまり、俺がトイレに入っていたり、風呂に入っているときなんかは、母さんは分からないということ? )

 ( そうよ )

 ( ・・そうか・・だけど・・なんだ・・その・・ )

 (・・・あぁ、彼女ができても大丈夫よ。あんなことやこんなこと、要するにあなたが見られたくないものは見えないし、分からないから)

 ( よかったぁ・・ ) ⦅ あんなことやこんなことは、母さんに見られたくないからな・・ ⦆

 ( んっ? 今、何か考えた? )

 ( いや、別に・・・ )

 考えていることも隠せるようだ。
 良かったぁ!
 俺のプライバシーは守られる。

 それにもっと驚いたことがあった。
 俺が退院する数日前、なんと母さんが本格的な実体化に成功したんだ。

 最初は、西洋の神話に出てくるような白い服を着た女性の姿だった。
 ただ、背景が透けて見え、触ろうとすると手がすり抜けた。

 今は、生きている人間と少しも変わらない。
 服や靴、指輪やネックレス、バッグに至るまで現実の物と全く同じだ。

 手を握ると、若い女性の手そのものだった。
 母さんが死んだのは、今の俺と同じ28才の時だ。

 声も出せるようになった。
 思念ではない本当の声だ。

 「 ・・拓馬(たくま)・・・」

 ・・母さんと死に別れた5才の時の声・・きっと死ぬまで忘れないだろう。

 ちなみに俺が、龍馬君を助けようとしてトラックに撥ねられた時、目の前に母さんが現れたが、あれは母さんが、思念で母さんの生前の姿を見せたものだ。
 宇宙生命体同士では認識できるが、実体化したものではない。
 周りの人たちには見えないし、監視カメラに捉えることも出来ない。
 時間にしても数千分の一秒だ。
 俺が、宇宙生命体として覚醒しかかっていたから認識出来たんだそうだ。

 母さんは、退院する頃には、実体化しようとすれば一日中でも出来るように成ったが、夜は俺と合一し、意識をオフにして眠っている。
 夜の間にエネルギーの充填をし、俺が朝起きると、すでに起きていて洗濯や食事の支度までしてくれている。

 母さんと、こうやって一緒に生活できるなんて夢にも思わなかった。

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