第95話 運命の女性~デート 秘密の告白
文字数 3,282文字
明子は、拓馬に言われた通り目を瞑り、数秒後、拓馬が緊張した声で目を開けるよう促した。
言われるまま目を開けた明子は、一瞬足がすくんでしまった。
眼下に光り輝く東京の夜景が広がっていたからだ。
明子は、空に浮いているのだろうかと思ったのだが、落ち着いて見ると、眼前は全面のガラスだと分かった。
明子は、今、タワーマンションの一室にいて眼下に広がる夜景を眺めているのだと理解するしかなかった。
振りむくと、拓馬が明子を心配そうに見ていた。
拓馬の後ろには、広々とした部屋が広がり、ピアノも置かれていた。
ゆったりとしたソファーがあり、品の良い調度品が並び、適度な照明が部屋を照らしていた。
私は、夢でも見ているのではないだろうか、一体どうしてしまったのだろうと、明子は助けを求めるように拓馬を見た。
「・・あきさん、驚かせてすみません・・あなたには全て話すつもりで、ここにお誘いしたのです・・僕の話を聞いていただけませんか・・・」
明子は、じっと拓馬を見つめた後、躊躇なく、
「はい、お願いします」
と答えた。
「まず、会ってほしい人がいます・・・」
そして、小さな声で、
「母さん、入って・・」
玄関のドアが開き、失礼しますねと言いながら、栞が入って来た。
亡くなっているはずの栞の姿を見た明子の驚きは言うまでもなかった。
だが、怖さは全くと言って良いほど無かった。
それどころか、栞を見た明子は、なつかしさと嬉しさが込み上げてくるのが、自分でも不思議だった。
栞は、拓馬に呼ばれて出来るだけ自然に部屋に入ったのだが、内心は不安で一杯だった。
明子に対しては、拓馬だけでなく、栞も能力を使って明子の内心を覗くようなことはしないと決めていた。
拓馬が好きになって、一生の伴侶となるかもしれない明子には、あくまでも人として相対していこうと思ったのだ。
だが、普通の人間ならこのような事態になったとき平静でいられる方が少ないだろう。
場合によっては、明子が半狂乱となるかもしれない。
そのときは、記憶を操作して何事もなかったかのように自宅まで帰すしかないと拓馬とも事前に話し合っていたのだった。
ところが、明子は不思議そうに、しかし、嬉しそうに、
「お母さんですか?」
と何のためらいも無く尋ねたのだった。
明子の予想外の反応と質問に、却って栞の方が、一瞬固まってしまったのだが、その後の会話は、信じられないほどスムーズに進んだ。
10億年以上前、栞たちの先祖が住んでいた惑星が、世界大戦で絶滅の危機に瀕した時、二組の夫婦の科学者が、DNAを活性化して精神生命体ともいえる宇宙生命体に進化したこと。
数世代を経て同胞と呼び合う宇宙生命体は、5千万人にまでになったこと。
二組の夫婦は、それぞれαとβと呼ばれ、栞はαの最後の娘であり、拓馬はβの最後の息子であったこと。
宇宙生命体の寿命は永遠と思われていたのだが、αとβに最期の時が来たこと。
αとβが亡くなると、同胞は、それまでの惑星の環境維持を止めたこと。
5千万人の同胞と共に、月のような荒廃した姿に戻ってしまった故郷の星を後にして、太古からの約束の星、約束の地と言われていた地球を目指したこと。
10億年かけて地球のスペインにたどり着いたのは、5万年前だったこと。
だが、その時、同胞は50万人を切っており、子孫を作ることも出来なくなっていたこと。
能力も劣化し、人間の中で眠るように合一して生きるしかなかったこと。
同胞は、人間に合一して生きていたが、やがて、ほとんどの同胞が人間と同化し、人間として生まれ変わる同一をし、宇宙生命体として残ったのは栞と拓馬だけになったこと。
二人は、力を合わせて奇跡的に、約束の地である日本に3千年前にやって来たこと。
しかし、その後二人は離れ離れになり、めぐりあうことがなく3千年近く経ったこと。
52年ほど前、栞は拓馬との再会を諦め、胎児の栞と同一し、人間として生を享 けたこと。
栞は、成人し、結婚して拓馬を産んだのだが、23年前、拓馬が5才の時、親子三人で海水浴に行く途中、対向車線を越えて来た大型自動車と衝突した。
その時、栞は、覚醒するはずが無いのに宇宙生命体として覚醒し、拓馬を助けたこと。
栞が覚醒した時、拓馬もβの息子が同一していることが分かったのだが、それから23年間、栞は拓馬の中で合一して眠っていたこと。
ところが、昨年の6月、拓馬が、山崎弥一郎の息龍馬君を助けようとして事故に遭った時、栞は再び覚醒して拓馬と龍馬君を助け、それ以来、常時覚醒するようになったこと。
そればかりか、拓馬も人間である山科拓馬でありながら、宇宙生命体としても覚醒し、宇宙生命体としての記憶と能力に目覚めたこと。
ただし、肉体を持つ拓馬の能力は、栞と比べるとかなり低いが、少しずつ復活していること。
このタワーマンションのような部屋も能力によって作り出したものであること。
さらに、宇宙生命体は、想念と意志であり、想念は、思ったことを現実化する能力であり、意志は生きる意志であること。
栞の姿も、生前のそれを想念の現実化で実物そのままに再現していること。
また、宇宙生命体になる前、肉体を持っていた頃の先祖の姿形は、人間とそっくりであったこと。
拓馬と栞は、今までのことを明子にゆっくりと語り、明子は、一語一語咀嚼するように二人の話の一つ一つに頷きながら聴いたのだった。
また、拓馬も栞も人間として生きていく覚悟であり、能力は人に対して最小限しか使わないことを伝えて一応の説明を終えたのだった。
明子は、今、自分は信じられないものを見、気が遠くなりそうな話を聞いているのにそれを全て受け入れようとしている自分が不思議であったが、何の不安も無く、拓馬たちと一心同体となるような嬉しい気持ちの方が大きく優っていた。
これから拓馬さんは、人が成し得ないようなことに取り組んでいかなければならないのだろう、それが拓馬さんの使命なのだろう、もし、私が望まれているのなら、私は、全身全霊で拓馬さんを支えていこう、そう秘かに、しかし、強く決心したのだった。
拓馬と明子それに栞は、話が終わるとしばらく東京の夜景を楽しんだのだが、弥一郎が心配しているだろうと、明子を自宅まで送ることにした。
もちろん明子の自宅までの車中は、豪華な高級乗用車であり、明子は、驚き、年相応にはしゃいだのだった。
拓馬も拓馬ナビは使わずにゆっくり走らせたのだが、あっと言う間に着いてしまい、残念に思ったのだった。
明子は、自宅に到着すると、すぐに弥一郎に帰宅したことを電話した。
弥一郎への報告は、差し障りの無い範囲でのみだったが、弥一郎は、明子の幸せそうな声を聴くとほっと胸を撫で下ろしたのだった。
弥一郎は、帰宅していた父の弥太郎に明子が自宅に戻ったこと、幸せそうな声であったことを報告した。
二人は頷き合うと、身だしなみを整え、それから二人揃って何処かへ出かけたのだった。
_________________________________________________________________________
αの娘の呼び名は、栞との同一以前は、「αの娘」とのみ呼ぶのが正しいのですが、便宜上、栞と同一以前のαの娘も「栞」と呼んでいます。
「βの息子」も同様に「拓馬」と呼んでいます。
なお、おさらいになりますが、αの娘は、栞がまだ胎児の時、その胎児と同一し、栞として生まれ変わったのです。
βの息子は、拓馬が栞の胎内にいる時か、5才の時の交通事故以前に拓馬と同一し、拓馬として生まれ変わったのです。
ですから、αの娘とβの息子は、元々は親子ではなかったのですが、βの息子が拓馬と同一し、拓馬として生まれ変わった時から親子になったのです。
分かりにくいかもしれませんが、そのようなものだとご理解をお願いします。
第4話から第10話までの同胞(αの娘=栞)の回想は、今後の物語の展開にも関連があります。
言われるまま目を開けた明子は、一瞬足がすくんでしまった。
眼下に光り輝く東京の夜景が広がっていたからだ。
明子は、空に浮いているのだろうかと思ったのだが、落ち着いて見ると、眼前は全面のガラスだと分かった。
明子は、今、タワーマンションの一室にいて眼下に広がる夜景を眺めているのだと理解するしかなかった。
振りむくと、拓馬が明子を心配そうに見ていた。
拓馬の後ろには、広々とした部屋が広がり、ピアノも置かれていた。
ゆったりとしたソファーがあり、品の良い調度品が並び、適度な照明が部屋を照らしていた。
私は、夢でも見ているのではないだろうか、一体どうしてしまったのだろうと、明子は助けを求めるように拓馬を見た。
「・・あきさん、驚かせてすみません・・あなたには全て話すつもりで、ここにお誘いしたのです・・僕の話を聞いていただけませんか・・・」
明子は、じっと拓馬を見つめた後、躊躇なく、
「はい、お願いします」
と答えた。
「まず、会ってほしい人がいます・・・」
そして、小さな声で、
「母さん、入って・・」
玄関のドアが開き、失礼しますねと言いながら、栞が入って来た。
亡くなっているはずの栞の姿を見た明子の驚きは言うまでもなかった。
だが、怖さは全くと言って良いほど無かった。
それどころか、栞を見た明子は、なつかしさと嬉しさが込み上げてくるのが、自分でも不思議だった。
栞は、拓馬に呼ばれて出来るだけ自然に部屋に入ったのだが、内心は不安で一杯だった。
明子に対しては、拓馬だけでなく、栞も能力を使って明子の内心を覗くようなことはしないと決めていた。
拓馬が好きになって、一生の伴侶となるかもしれない明子には、あくまでも人として相対していこうと思ったのだ。
だが、普通の人間ならこのような事態になったとき平静でいられる方が少ないだろう。
場合によっては、明子が半狂乱となるかもしれない。
そのときは、記憶を操作して何事もなかったかのように自宅まで帰すしかないと拓馬とも事前に話し合っていたのだった。
ところが、明子は不思議そうに、しかし、嬉しそうに、
「お母さんですか?」
と何のためらいも無く尋ねたのだった。
明子の予想外の反応と質問に、却って栞の方が、一瞬固まってしまったのだが、その後の会話は、信じられないほどスムーズに進んだ。
10億年以上前、栞たちの先祖が住んでいた惑星が、世界大戦で絶滅の危機に瀕した時、二組の夫婦の科学者が、DNAを活性化して精神生命体ともいえる宇宙生命体に進化したこと。
数世代を経て同胞と呼び合う宇宙生命体は、5千万人にまでになったこと。
二組の夫婦は、それぞれαとβと呼ばれ、栞はαの最後の娘であり、拓馬はβの最後の息子であったこと。
宇宙生命体の寿命は永遠と思われていたのだが、αとβに最期の時が来たこと。
αとβが亡くなると、同胞は、それまでの惑星の環境維持を止めたこと。
5千万人の同胞と共に、月のような荒廃した姿に戻ってしまった故郷の星を後にして、太古からの約束の星、約束の地と言われていた地球を目指したこと。
10億年かけて地球のスペインにたどり着いたのは、5万年前だったこと。
だが、その時、同胞は50万人を切っており、子孫を作ることも出来なくなっていたこと。
能力も劣化し、人間の中で眠るように合一して生きるしかなかったこと。
同胞は、人間に合一して生きていたが、やがて、ほとんどの同胞が人間と同化し、人間として生まれ変わる同一をし、宇宙生命体として残ったのは栞と拓馬だけになったこと。
二人は、力を合わせて奇跡的に、約束の地である日本に3千年前にやって来たこと。
しかし、その後二人は離れ離れになり、めぐりあうことがなく3千年近く経ったこと。
52年ほど前、栞は拓馬との再会を諦め、胎児の栞と同一し、人間として生を
栞は、成人し、結婚して拓馬を産んだのだが、23年前、拓馬が5才の時、親子三人で海水浴に行く途中、対向車線を越えて来た大型自動車と衝突した。
その時、栞は、覚醒するはずが無いのに宇宙生命体として覚醒し、拓馬を助けたこと。
栞が覚醒した時、拓馬もβの息子が同一していることが分かったのだが、それから23年間、栞は拓馬の中で合一して眠っていたこと。
ところが、昨年の6月、拓馬が、山崎弥一郎の息龍馬君を助けようとして事故に遭った時、栞は再び覚醒して拓馬と龍馬君を助け、それ以来、常時覚醒するようになったこと。
そればかりか、拓馬も人間である山科拓馬でありながら、宇宙生命体としても覚醒し、宇宙生命体としての記憶と能力に目覚めたこと。
ただし、肉体を持つ拓馬の能力は、栞と比べるとかなり低いが、少しずつ復活していること。
このタワーマンションのような部屋も能力によって作り出したものであること。
さらに、宇宙生命体は、想念と意志であり、想念は、思ったことを現実化する能力であり、意志は生きる意志であること。
栞の姿も、生前のそれを想念の現実化で実物そのままに再現していること。
また、宇宙生命体になる前、肉体を持っていた頃の先祖の姿形は、人間とそっくりであったこと。
拓馬と栞は、今までのことを明子にゆっくりと語り、明子は、一語一語咀嚼するように二人の話の一つ一つに頷きながら聴いたのだった。
また、拓馬も栞も人間として生きていく覚悟であり、能力は人に対して最小限しか使わないことを伝えて一応の説明を終えたのだった。
明子は、今、自分は信じられないものを見、気が遠くなりそうな話を聞いているのにそれを全て受け入れようとしている自分が不思議であったが、何の不安も無く、拓馬たちと一心同体となるような嬉しい気持ちの方が大きく優っていた。
これから拓馬さんは、人が成し得ないようなことに取り組んでいかなければならないのだろう、それが拓馬さんの使命なのだろう、もし、私が望まれているのなら、私は、全身全霊で拓馬さんを支えていこう、そう秘かに、しかし、強く決心したのだった。
拓馬と明子それに栞は、話が終わるとしばらく東京の夜景を楽しんだのだが、弥一郎が心配しているだろうと、明子を自宅まで送ることにした。
もちろん明子の自宅までの車中は、豪華な高級乗用車であり、明子は、驚き、年相応にはしゃいだのだった。
拓馬も拓馬ナビは使わずにゆっくり走らせたのだが、あっと言う間に着いてしまい、残念に思ったのだった。
明子は、自宅に到着すると、すぐに弥一郎に帰宅したことを電話した。
弥一郎への報告は、差し障りの無い範囲でのみだったが、弥一郎は、明子の幸せそうな声を聴くとほっと胸を撫で下ろしたのだった。
弥一郎は、帰宅していた父の弥太郎に明子が自宅に戻ったこと、幸せそうな声であったことを報告した。
二人は頷き合うと、身だしなみを整え、それから二人揃って何処かへ出かけたのだった。
_________________________________________________________________________
αの娘の呼び名は、栞との同一以前は、「αの娘」とのみ呼ぶのが正しいのですが、便宜上、栞と同一以前のαの娘も「栞」と呼んでいます。
「βの息子」も同様に「拓馬」と呼んでいます。
なお、おさらいになりますが、αの娘は、栞がまだ胎児の時、その胎児と同一し、栞として生まれ変わったのです。
βの息子は、拓馬が栞の胎内にいる時か、5才の時の交通事故以前に拓馬と同一し、拓馬として生まれ変わったのです。
ですから、αの娘とβの息子は、元々は親子ではなかったのですが、βの息子が拓馬と同一し、拓馬として生まれ変わった時から親子になったのです。
分かりにくいかもしれませんが、そのようなものだとご理解をお願いします。
第4話から第10話までの同胞(αの娘=栞)の回想は、今後の物語の展開にも関連があります。