第21話 投資
文字数 2,030文字
霊園に200万円を支払って、現在の貯金は139万円になった。
二月 前、思いがけず課長に昇進し、年収は100万円アップした。
60才で定年退職した中島課長が退職の年の年収は700万円だったので、俺もこれから32年かけて毎年10万円ぐらいずつ増えていくのだろうかとその時は思った。
今までの俺だったらそれでもいい。
だが、これから大きな変化が起きる。
俺が起こす。
大きな金が必要だ。
俺は、コンビニで新聞を買って、同じくコンビニで買ったアイスを舐めながら、新聞の株式欄を眺めている。
いくつもの銘柄(会社)の株価が光って見える。
俺は、その中で手持ちの100万円で買える銘柄に更に絞る。
光って見える銘柄は、ぐんと少なくなって見やすくなった。
俺には、それらの会社の株価が上がるのが手に取るように分かる。
いつどれくらいまで上がるのか、下がるのはいつか。
俺は、証券会社が並ぶ通りで100万円を懐に入れて、人待ち顔を装いながら立っていた。
俺の住んでいる市は人口31万人ぐらいで、戦前は軍都と商業、それにかなり大きい工場もある人口7~8万人の町だった。
戦後は、商業と戦前からの工場、そして東京のベッドタウンとして発展した。
だが、開発できる土地は限られており、人口は頭打ちとなっている。
しかし、富裕層が多いのか、商業の街だからか、市のメインストリートには各銀行や各証券会社の支店が立ち並んでいる。
俺は、それぞれの証券会社の内部や、そこで働く人たちに意識を集中していた。
そして、ある証券会社に注目した。
俺は、業界で最大手のガリバー証券と言われる野々村証券の店舗に入った。
店舗内は静かで、男性の老人が一人座って壁の株価ボードを眺めていた。
銀行とは雰囲気が違うなと思いながら、受付のカウンターに行ったが、誰もいないのでカウンターの上にあった呼び出し用のベルと思われるボタンを押した。
出て来た30代と思われる女性に俺は尋ねた。
「初めて株を買いたいのですが、担当を新採の沢口礼子さんにお願いできますか」
女性は、ちょっとだけ怪訝な顔をしたが、すぐに沢口礼子を呼ぶため戻っていった。
沢口礼子は大学卒業後、野々村証券に入社、新採研修を終えて最近この支店に配属されたばかりだ。
容姿はとても良い。
それでいて親しみやすい雰囲気だ。
それだけではない。
彼女の投資に関する才能は並外れている。
是非とも欲しい人材だ。
将来、きっと俺の事業の役に立ってくれるだろう。
「いらっしゃいませ、沢口礼子と申します。本日は野々村証券にお越しいただきありがとうございます」
「初めまして、山科拓馬といいます。株は初めてなのでよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。新採なのに担当にご指名いただき驚いています。私の名前もご存知のようですが、何処かでお会いしたのでしょうか?」
「はい。あなたが新採研修を受けていた時だと思いますが、異業種訪問で同じ系列の野々村銀行に行かれたことがありませんか。銀行の駐車場で、あなたが銀行員と話していたのを車の中で偶々 聞いていたのですが、あなたの受け答えや質問の的確さ、着眼点の良さに感心して思わずあなたの名札を見てしまったのです。そして、あなたがこの店舗に入っていくのを見かけたことがあるので、今日思い切って来てみたんです。以前から株を一度してみたかったものですから」
「まあ、少しも気が付きませんでした。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「それに、あなたには少し山形訛りがあるように感じました。実は去年、米沢の〔上杉まつり 〕を観に行ったんですよ」
「本当ですか。実は私、米沢出身なんです。〔 上杉まつり 〕は毎年観ています。今年は研修で行けなかったのが残念でした」
「そうですか。それは残念でしたね。川中島合戦の再現は迫力があって見ものですからね」
(沢口さん、ごめんなさい。あなたはどうしても欲しい人材だから、あなたの記憶を覗きました。ごめんなさい)
俺は心の中で謝った。
彼女は、すっかり打ち解けてくれ、その後の相談もスムーズに進んだ。
彼女は俺だけでなく、どのお客に対しても親身になって相談に乗る人だ。
1億円以下の客はごみ扱いだと聞いたことがあるので、予算は100万円だと言った時、少し心配だったが、彼女は俺を軽んじるような素振りは全く見せなかった。
それが表面だけでないことはよく分かった。
俺には購入する予定の銘柄が3社あり、全て同じ業種だった。
俺は、希望する業種のみを挙げ、会社名は彼女の意見を聞くことにした。
彼女は、何社か候補を挙げたが、その中の一つが俺の中の候補と同じだったので、その会社の株を買った。
2ヶ月後、証券会社に開設した口座の残額は3千万円を超えていた。
もっと稼ぐことも出来たのだが、あまり目立ちたくなかったのと、一番最初の目標は両親の建墓だからそれで十分だった。
60才で定年退職した中島課長が退職の年の年収は700万円だったので、俺もこれから32年かけて毎年10万円ぐらいずつ増えていくのだろうかとその時は思った。
今までの俺だったらそれでもいい。
だが、これから大きな変化が起きる。
俺が起こす。
大きな金が必要だ。
俺は、コンビニで新聞を買って、同じくコンビニで買ったアイスを舐めながら、新聞の株式欄を眺めている。
いくつもの銘柄(会社)の株価が光って見える。
俺は、その中で手持ちの100万円で買える銘柄に更に絞る。
光って見える銘柄は、ぐんと少なくなって見やすくなった。
俺には、それらの会社の株価が上がるのが手に取るように分かる。
いつどれくらいまで上がるのか、下がるのはいつか。
俺は、証券会社が並ぶ通りで100万円を懐に入れて、人待ち顔を装いながら立っていた。
俺の住んでいる市は人口31万人ぐらいで、戦前は軍都と商業、それにかなり大きい工場もある人口7~8万人の町だった。
戦後は、商業と戦前からの工場、そして東京のベッドタウンとして発展した。
だが、開発できる土地は限られており、人口は頭打ちとなっている。
しかし、富裕層が多いのか、商業の街だからか、市のメインストリートには各銀行や各証券会社の支店が立ち並んでいる。
俺は、それぞれの証券会社の内部や、そこで働く人たちに意識を集中していた。
そして、ある証券会社に注目した。
俺は、業界で最大手のガリバー証券と言われる野々村証券の店舗に入った。
店舗内は静かで、男性の老人が一人座って壁の株価ボードを眺めていた。
銀行とは雰囲気が違うなと思いながら、受付のカウンターに行ったが、誰もいないのでカウンターの上にあった呼び出し用のベルと思われるボタンを押した。
出て来た30代と思われる女性に俺は尋ねた。
「初めて株を買いたいのですが、担当を新採の沢口礼子さんにお願いできますか」
女性は、ちょっとだけ怪訝な顔をしたが、すぐに沢口礼子を呼ぶため戻っていった。
沢口礼子は大学卒業後、野々村証券に入社、新採研修を終えて最近この支店に配属されたばかりだ。
容姿はとても良い。
それでいて親しみやすい雰囲気だ。
それだけではない。
彼女の投資に関する才能は並外れている。
是非とも欲しい人材だ。
将来、きっと俺の事業の役に立ってくれるだろう。
「いらっしゃいませ、沢口礼子と申します。本日は野々村証券にお越しいただきありがとうございます」
「初めまして、山科拓馬といいます。株は初めてなのでよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。新採なのに担当にご指名いただき驚いています。私の名前もご存知のようですが、何処かでお会いしたのでしょうか?」
「はい。あなたが新採研修を受けていた時だと思いますが、異業種訪問で同じ系列の野々村銀行に行かれたことがありませんか。銀行の駐車場で、あなたが銀行員と話していたのを車の中で
「まあ、少しも気が付きませんでした。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「それに、あなたには少し山形訛りがあるように感じました。実は去年、米沢の〔上杉まつり 〕を観に行ったんですよ」
「本当ですか。実は私、米沢出身なんです。〔 上杉まつり 〕は毎年観ています。今年は研修で行けなかったのが残念でした」
「そうですか。それは残念でしたね。川中島合戦の再現は迫力があって見ものですからね」
(沢口さん、ごめんなさい。あなたはどうしても欲しい人材だから、あなたの記憶を覗きました。ごめんなさい)
俺は心の中で謝った。
彼女は、すっかり打ち解けてくれ、その後の相談もスムーズに進んだ。
彼女は俺だけでなく、どのお客に対しても親身になって相談に乗る人だ。
1億円以下の客はごみ扱いだと聞いたことがあるので、予算は100万円だと言った時、少し心配だったが、彼女は俺を軽んじるような素振りは全く見せなかった。
それが表面だけでないことはよく分かった。
俺には購入する予定の銘柄が3社あり、全て同じ業種だった。
俺は、希望する業種のみを挙げ、会社名は彼女の意見を聞くことにした。
彼女は、何社か候補を挙げたが、その中の一つが俺の中の候補と同じだったので、その会社の株を買った。
2ヶ月後、証券会社に開設した口座の残額は3千万円を超えていた。
もっと稼ぐことも出来たのだが、あまり目立ちたくなかったのと、一番最初の目標は両親の建墓だからそれで十分だった。