第25話  東京メディシンの改革~始動

文字数 1,216文字

 課長に昇進した日、俺はぐったりして帰宅した。
 社長室を出てから、3名の社外取締役に始まって社員の殆どに挨拶して廻る羽目になったからだ。

 家では、母さんが鼻歌まじりで料理を作っていた。
 母さんは、物質化の能力で瞬時に料理を作ることも出来るが、物質化するのは食材だけで後は普通に料理を作る。
 今日は、俺の好きな肉料理がメインの豪華な夕食だな。
 ふむっ、これは、肉もA5ランクだな。

 「ただいまー」

 「おかえりー 課長昇進おめでとー」

 「ありが・・ 母さん!! 覗いてたのか?」

 「弥太郎さんや弥一郎さんたちの考えも分かったわよ」

 「母さん、どうしてそんなことを・・・」

 母さんは、真剣な顔をして話し出した。

 「今朝、あなたが出て行く時、見えたの。課長昇進の辞令書が・・・」

 母さんは、嬉しさより不安に襲われたそうだ。
 これは、ひょっとすると拓馬が罠に嵌められているんじゃないかと。
 それはそうだろう。
 平社員が、いきなり課長になるなど、そんなことは普通起きるはずがない。

 母さんは、すぐに実体化を解いて精神生命体となり俺の会社へ飛んだそうだ。
 そこで、末田と沼田の考えが分かり、俺と同じように弥太郎氏の意図も知る必要があると考えた母さんは、そのまま五菱重工へと飛んだそうだ。

 五菱重工へ飛んだ母さんは、弥太郎氏だけでなく芋づる式に五菱重工社長の豊川氏、五菱商事社長の弥一郎氏、同社副社長の荘田氏、そして、竹田製薬工業社長の竹田氏、同社副社長の森山氏を初めとして、殆どの関係者を次々と廻ったそうだ。

 母さんは、10年前、東京メディシンの旧親会社が、今の親会社の竹田製薬工業に買収された経緯や、それまでの竹田製薬工業の歴史まで詳しく話してくれた。

 ----- もっとも、大勢の人たちの膨大な記憶だったので言葉ではなく、思念で一瞬の間に伝えてくれたのだが -----

 「そうだったのか・・・ 母さん、ありがとう、とても助かったよ」

 「よかったー 喜んでくれて。あなたがどう思うか、ちょっとだけ心配だったの」

 「俺は、主義主張に凝り固まった人間じゃないよ。それに母さんが人の心を読むときは、俺のことを心配してか、何か理由があるときだから怒ることなんてないよ。それに今回は、必ず2ヶ月以内に結果を出さないといけないんだ。時間が無い」

 母さんは、今回の件では俺と一緒に働く気満々だった。
 俺も母さんが協力してくれるなら、百人力いや百万人力以上だ。
 俺たちは、母さんの料理に舌鼓を打ちながら、今度は、言葉を出して今後のことを夜遅くまで打合せした。

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 いよいよ東京メディシンの改革が始まりますが、その前にどうしてこうなったのか、親会社である竹田製薬工業についても語らねばなりません。
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