第98話 暴漢~制裁
文字数 1,931文字
鳥居の前で一瞬躊躇するかのように佇んだ女性の街灯に照らされた容姿は、遠目にも一際美しい若い女性だと分かった。
境内の手水舎で水を飲んだ後、大阪へ帰ろうとしていた四人の男たちは、互いに顔を見合わせると黙って頷き合った。
彼らは、獣に堕ち、濁った光を目にぎらつかせていた。
四人は、手水舎と杜の木々に素早く身を潜めた。
息を詰めて待っていると、その女性は何かを振り切るように境内へ一歩を踏み出した。
四人は、この若く美しい女性の荷物を強盗し、女性は強姦するつもりだった。
もし、抵抗するなら殺してもいい。
明日、中国行きの飛行機に乗って逃げてしまえばいい。
日本と日本人に対する復讐だ。
やってやる。
この四人には、罪の意識は驚くほど無かった。
それでも、悪辣卑劣な暴漢と云う犯罪者になろうとしている四人の心臓の鼓動は、早鐘のように鳴った。
女性が、手水舎まで後3メートルほどに近づいた時、四人は一斉に飛び出し、明子に飛び掛かったのだった。
二人が明子の上半身と下半身を拘束し、残りの二人は荷物を素早く奪い、杜の中へ引きずり込もうとした。
その時、四人は異常な気配に気が付いた。
本殿の方から黒い人影が、まるで弾丸のような速さで駆けて来たのだ。
咄嗟に四人は、一人だけが明子を拘束したまま、他の三人がその人影に応戦すべく対峙した。
だが、態勢を十分に取る前に黒い人影は、四人の目前に迫った直後、その拳が四人を襲った。
どすどすと云う鈍い音が何度か聞こえた後、四人の暴漢は、境内の石畳の上に口から血を流して倒れていた。
明子は、恐怖で声も出せず、その場に蹲 ったままだったが、黒い人影が父である弥一郎だと気づくと、
「・お父さん・・」
と、辛うじて弥一郎に呼びかけた。
と、同時に弥一郎と明子の前に立つ薄っすらと白く輝く人の姿を弥一郎に目で伝えるべく顔を向けた。
弥一郎は、分かっているというように頷き、無言で明子に手を差し伸べた。
この場には、この時、弥一郎、明子、そして四人の暴漢の他に、さらに屈強そうな四人の男たちが駆けつけていた。
彼らは、榊直が明子のボディーガードとして付けた日本総合警備保障会社の警護官と呼ばれる要人警護のプロフェショナルであった。
明子は、榊直の指示により数ヶ月前から特別警護対象者として警護されていた。
さらに、二日前の拓馬とのデートの日から警護体制は、それまで以上の厳重なものになっていた。
ただ、明子にそのことは知らされていなかったため、ある程度明子とは距離を取って警護せざるを得なかったのだ。
そのため、明子が、鳥居の前で逡巡している時も少し離れた所から見守るしかなかった。
明子が鳥居を潜ったため急いで接近したのだが、彼らが神社の前に来た時、明子が襲われたのだ。
もちろん彼らは、明子を助けるため全力で駆けつけたのだが、彼らより弥一郎が一足早く駆けつけ、暴漢たちを打ちのめしたのだった。
弥一郎が駆けつけ、暴漢たちを倒すまでわずか数秒しか経っていなかった。
彼ら警護官たちは、弥一郎とは顔見知りであった。
山崎邸の近くにある日本総合警備保障会社の練武場で弥一郎と手合わせをしたこともあった。
だが、この夜の弥一郎の動きは驚愕すべきもので全く別人の様であった。
しかし、彼らは、今でも100才になる直と手合わせをすることがあるのだが、まるで赤子の手を捻 るようにあしらわれるのだ。
そのため、弥一郎は今まで手加減をしていたのだろう、やはり山崎家の人々は特別なのだろうと思った。
弥一郎が、襲撃者に対して応戦しなくてはいけない状況は、実際には起きないだろう。
常に警護官によって守られている人物なのだ。
だから、今まであえて実力を示すことは無かったのだろうと彼らは理解した。
彼らは、弥一郎と明子に自分たちの不手際を心から謝った。
だが、弥一郎は、恐怖心を与えないため明子に気付かれないよう警護するように頼んだのは自分であり、こちらこそ申し訳なかったと謝ったのだった。
それから、弥一郎は、
「外国人のようだ。事前の手筈どおり連絡をお願いします。また、警察には、娘はショックが大きく気が動転しているので今夜は休ませたい、事情聴取には明日応じます、とも伝えてください」
と、頼むと、警護官が一人付き添って、弥一郎と明子は一緒に丸の家へ帰って行った。
弥一郎と明子には見えていた白く輝く人物は、弥一郎が暴漢たちを打擲 し、明子が無事なのを確認すると安堵の色を見せたようだったが、すぐに消えていた。
だが、警護官たちには何も見えておらず、何の違和感も感じることは無かった。
弥一郎も明子も白く輝く人物のことは黙ったまま丸の家に帰ったのだった。
境内の手水舎で水を飲んだ後、大阪へ帰ろうとしていた四人の男たちは、互いに顔を見合わせると黙って頷き合った。
彼らは、獣に堕ち、濁った光を目にぎらつかせていた。
四人は、手水舎と杜の木々に素早く身を潜めた。
息を詰めて待っていると、その女性は何かを振り切るように境内へ一歩を踏み出した。
四人は、この若く美しい女性の荷物を強盗し、女性は強姦するつもりだった。
もし、抵抗するなら殺してもいい。
明日、中国行きの飛行機に乗って逃げてしまえばいい。
日本と日本人に対する復讐だ。
やってやる。
この四人には、罪の意識は驚くほど無かった。
それでも、悪辣卑劣な暴漢と云う犯罪者になろうとしている四人の心臓の鼓動は、早鐘のように鳴った。
女性が、手水舎まで後3メートルほどに近づいた時、四人は一斉に飛び出し、明子に飛び掛かったのだった。
二人が明子の上半身と下半身を拘束し、残りの二人は荷物を素早く奪い、杜の中へ引きずり込もうとした。
その時、四人は異常な気配に気が付いた。
本殿の方から黒い人影が、まるで弾丸のような速さで駆けて来たのだ。
咄嗟に四人は、一人だけが明子を拘束したまま、他の三人がその人影に応戦すべく対峙した。
だが、態勢を十分に取る前に黒い人影は、四人の目前に迫った直後、その拳が四人を襲った。
どすどすと云う鈍い音が何度か聞こえた後、四人の暴漢は、境内の石畳の上に口から血を流して倒れていた。
明子は、恐怖で声も出せず、その場に
「・お父さん・・」
と、辛うじて弥一郎に呼びかけた。
と、同時に弥一郎と明子の前に立つ薄っすらと白く輝く人の姿を弥一郎に目で伝えるべく顔を向けた。
弥一郎は、分かっているというように頷き、無言で明子に手を差し伸べた。
この場には、この時、弥一郎、明子、そして四人の暴漢の他に、さらに屈強そうな四人の男たちが駆けつけていた。
彼らは、榊直が明子のボディーガードとして付けた日本総合警備保障会社の警護官と呼ばれる要人警護のプロフェショナルであった。
明子は、榊直の指示により数ヶ月前から特別警護対象者として警護されていた。
さらに、二日前の拓馬とのデートの日から警護体制は、それまで以上の厳重なものになっていた。
ただ、明子にそのことは知らされていなかったため、ある程度明子とは距離を取って警護せざるを得なかったのだ。
そのため、明子が、鳥居の前で逡巡している時も少し離れた所から見守るしかなかった。
明子が鳥居を潜ったため急いで接近したのだが、彼らが神社の前に来た時、明子が襲われたのだ。
もちろん彼らは、明子を助けるため全力で駆けつけたのだが、彼らより弥一郎が一足早く駆けつけ、暴漢たちを打ちのめしたのだった。
弥一郎が駆けつけ、暴漢たちを倒すまでわずか数秒しか経っていなかった。
彼ら警護官たちは、弥一郎とは顔見知りであった。
山崎邸の近くにある日本総合警備保障会社の練武場で弥一郎と手合わせをしたこともあった。
だが、この夜の弥一郎の動きは驚愕すべきもので全く別人の様であった。
しかし、彼らは、今でも100才になる直と手合わせをすることがあるのだが、まるで赤子の手を
そのため、弥一郎は今まで手加減をしていたのだろう、やはり山崎家の人々は特別なのだろうと思った。
弥一郎が、襲撃者に対して応戦しなくてはいけない状況は、実際には起きないだろう。
常に警護官によって守られている人物なのだ。
だから、今まであえて実力を示すことは無かったのだろうと彼らは理解した。
彼らは、弥一郎と明子に自分たちの不手際を心から謝った。
だが、弥一郎は、恐怖心を与えないため明子に気付かれないよう警護するように頼んだのは自分であり、こちらこそ申し訳なかったと謝ったのだった。
それから、弥一郎は、
「外国人のようだ。事前の手筈どおり連絡をお願いします。また、警察には、娘はショックが大きく気が動転しているので今夜は休ませたい、事情聴取には明日応じます、とも伝えてください」
と、頼むと、警護官が一人付き添って、弥一郎と明子は一緒に丸の家へ帰って行った。
弥一郎と明子には見えていた白く輝く人物は、弥一郎が暴漢たちを
だが、警護官たちには何も見えておらず、何の違和感も感じることは無かった。
弥一郎も明子も白く輝く人物のことは黙ったまま丸の家に帰ったのだった。