第100話  72年ぶりの蔵入り~指示

文字数 2,612文字

 祝第100話!(ささやかなお祝いの独り言)
 今回は、仕方なく人名がやたら多く出ます。
 「主な登場人物(第二幕)」に載せています。
 山崎本家筋は「山崎家略家系図」にも載せています。
 しかし、今回は、人物が多すぎるうえに名前も似ているので筆者も覚えられません。
 一人一人事前の想定書を確認しながら書いています。
 あまり気にされず、読み進められるようにお願いします。

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 ----昨年(2019年)12月半ばのある日----
 
 その日の朝、以降四日間の五菱重工の会長である山崎弥太郎と社長の豊川良一のスケジュールが全てキャンセルされた。
 さらに、この間は、会長と社長への直接の連絡は出来なくなったのだ。
 五菱重工だけでなく、五菱商事、五菱銀行、五菱電機、五菱化学という五菱グループの主要五社が同様であった。
 各社ともこのような事態での十分な危機管理体制は整えているが、師走の業務繁忙の時期に五菱グループの最重要人物たちと四日間も連絡が付かない事態は異例のことであった。

 同じことが、榊直の榊グループでも起こっていた。
 対象となる企業は、日本総合警備保障会社、日本宇宙通信の二社であった。

 発端は、前日の深夜であった。
 
 
 ----榊直の屋敷----
 
 山崎邸の近くに日本総合警備保障会社の練武場があるが、その一角には榊直の屋敷がある。
 この夜、榊直はベッドに横たわっていたが、目が醒めており、なかなか寝付けなかった。
 齢百才の直は、年が明ければ百一才となる。
 戦後の焼け跡から日本の復興に共に命を懸けた戦友とも言える者たちは、皆すでに亡くなっていた。
 
 (・・共に思い出を語る人間が一人もいない、とはなんと寂しいことだ・・・百才でお役御免だと思っていたが、まだのようだ・・・・・・)
 
 ⦅清丸(きよまる)・・待たせたわね、ごめんなさい・・・⦆

 (⁉・・母君様⁈、そうだ母君様! 母君様ですよね!)


 ----土佐山崎本家----
 
 同時刻ではあるが、榊直には少し遅れて、土佐の山崎本家当主の直正の枕元にも母君様と呼ばれた女性が立った。
 直正は、直の弟で今は亡くなっている直道の嫡男であり、直の甥である。
 20分後、直正は、指名された者のうち主だった者へ電話を入れた。
 電話を受けた者は、さらに数名の者に連絡をした。
 その数名がさらに残りの者全員に連絡をし、指名は完了した。
 翌日、指名された13人が、羽田発高知行きの飛行機に数便に別れて搭乗した。
 
 13人の内訳は、
 榊直、榊直巳(直の嫡男 日本総合警備保障総本部長)、榊直哉(直の孫 日本宇宙通信社長)
 山崎弥太郎(五菱グループ代表 五菱重工会長)、山崎弥一郎(弥太郎の嫡男 五菱商事社長)
 山崎四天王
 豊川良一(五菱重工社長)、豊川良介(良一の嫡男 五菱電機常務)
 荘田平蔵(五菱化学社長 平吾の父)、荘田平吾(五菱商事副社長)
 近藤廉司(五菱電機社長)、近藤廉吾(五菱銀行常務 廉司の嫡男)
 末延道夫(五菱銀行頭取 元五菱商事社長)、末延道信(五菱化学常務 道夫の嫡男)

 13人を迎えるのは、
 山崎直正(山崎本家当主、山崎ホールディングス代表)、山崎直樹(山崎貿易社長 直正の嫡男)の2名である。
 
 山崎本家の使用人たちは、当主による突然の蔵入りの指示に夜を徹して準備をした。
 山崎本家では、使用人の採用条件が非常に厳しく、代々に亘って雇用されている家の者が多くを占める。
 彼らは、数年の試用期間を経た後、人柄や勤務態度に問題が無いと認められると、初めて正雇用となる。
 
 正雇用決定の最終段階で当主立ち合いの下、大番頭から初めて「蔵入り」についての説明が、新規の正雇用予定者になされる。
 その際、正雇用予定者は、これから聞く事は、家族を含め決して口外しないことを誓約するのである。
 説明が終わると、当主と使用人が全員揃って、会社の入社式に当たる正雇用式が行われる。
 
 ところが、山崎本家の最重要事項として伝えられる蔵入りだが、最後の蔵入りは、昭和22年(1947年)直が戦地から帰還した年であり、それから72年が経過した令和元年(2019年)現在では、直以外で蔵入りを経験した者は誰もいない。
 そのため、当主の直正は自ら過去の記録を再点検し、夜を徹して遺漏の無いように準備したのだった。

 今回の蔵入りは、過去のものとは違っていた。
 記録には、通常の記録とは別に当主だけが見ることを許される記録がある。
 直正は、その記録も見直した。
 それには蔵入りを告げられる際は、山崎本家の当主の枕元に男性の始祖様が現れると記されていた。
 ところが、今回枕元に現れたのは女性であった。
 さらに女性からは、今回の蔵入りの際も実際に姿を見せると云う事が告げられた。
 女性は、直正の枕元に立った時、姿を見せ、名も名乗ったが、当主の直正は蔵入りをした事が無く、四人の姿絵を見たことは無い。
 そのため、女性の名は初めて聞くものであり、初めて見る姿であった。
 直正にとって記録に残っているこれまでの蔵入りとは様子が違い、驚くことばかりであった。
 
 女性は⦅私のことは直に聞くがよい⦆と最後に告げて消えた。
 
 直正は、深夜にも拘わらず、すぐに東京の直に確認を取ると、嫡男の直樹にも連絡を取った。
 次に、女性に指示されたとおり、弥太郎それに直の嫡男直巳に電話を入れ、それぞれがさらに指示された人間への連絡を依頼すると、大番頭と主だった使用人を呼び、急遽駆けつけた直樹も加えて蔵入りの準備を始めたのだった。
 その夜、直正は一睡も出来なかった。

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