第120話  蔵入りの最後 2

文字数 1,048文字

「直、何か言いたいのですね。言っていいですよ」

 指図者と参集者が会話をするのも初めてのことであった。

「母君様、母君様の過分な(ねぎら)いのお言葉、誠にありがとうございます。誰にも言えぬ苦労が報われた思いでございます。
 ただ、今のお言葉は私がもう引退をするかのような印象を受けました。榊清丸の生まれ変わりであり、山崎一門に身を置く私、不肖榊直は、先達と同じく死ぬその時まで一門の使命に生きる覚悟でございます。
 日本国の国難に際し、私たちはこれからどのようにすればよいのか、始祖様の真の覚醒の為如何様にすればよいのかお教えください。
 身命を賭して最後のご奉公を致したく存じます」

「ありがとう、直、いつまでも苦労を掛けすみません。最後の仕上げまでもう少しです。もうしばらく力を貸してください。
 国難に際して行うべきは、貴方たちの今までの働きでほぼ十分です。詳しくは始祖様が真に覚醒後改めてお話があります。
 今現在、喫緊の課題は始祖様の覚醒です。
 このことについて皆はどうすべきかおおよそは既に分かっていると思いますが、改めてお話しします。
 これまでも始祖様と私は何度か転生し、覚醒してきましたが、その都度、始祖様、私、直、そして明子さんの四人が揃うことが必要でした。
 さらに私、直、始祖様の三人には何らかの代償が必要でした。今世においても私は、事故で亡くなり、直についても長い間人知れぬ苦労を強いることとなりました。始祖様についても幼くして両親を亡くし、不遇の境涯でした。
 私たち三人はそれでよいとしても、問題は明子さんです。彼女は真正の人間です。彼女には苦難が降りかからないはずですが、決してそうとも言い切れないのです。
 彼女を早く始祖様に合わせる必要があります。二人がめぐり合い始祖様が覚醒すればよいのですが、そうならない場合は何か起こる可能性があります。
 弥一郎、貴方に異存がなければ二人の出会いに尽力してください。
 二人が出会っても始祖様が覚醒しないときは、それまで以上に明子さんの警護に気を付けてください。直、お願いします」

「「はっ」」

「それでは、今回の蔵入りは終了します。長時間お疲れさまでした。ヒーリングで皆の疲労は取っていますが、十分に休んで明日からの活動に備えてください。次回の蔵入りは、始祖様の覚醒後ただちに行われるでしょう。その時また会いましょう」

 72年ぶりの異例づくめの蔵入りはこうして終了した。
 参集者は皆、興奮と喜びに満たされ、使命を果たすための今後の活動に思いを馳せるのだった。
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