第49話  東京メディシンの改革~外廻り

文字数 2,900文字

 俺(拓馬)は、末田・沼田の泥沼コンビの悪巧みを知って、二か月以内に改革することを決心した。
 百万人力の母さんの協力を得て早速、活動することにした。

 俺と母さんは、手分けして動くことにした。 俺については、先ず、自由に動ける環境作りだ。
 俺は、末田・沼田派の係長の荒木と主任の大鶴を連れて、主な病院や薬局を廻ることにした。
 課長就任の挨拶と、面識が無い荒木と大鶴を紹介し、俺が抜けた後の担当の割り振りの参考にするためと云う理由で同行を命じた。


 最初に、金須木(かなすぎ)泌尿器科医院を訪れた。
 この医院の診療科目は、泌尿器科、腎臓外科、人工透析科の3科だ。
 スタッフは30名、医師4名、病床25床だ。
 連携医療機関も地元の大学病院の他、幾つかの総合病院と連携している。
 実質的には個人経営の医療法人であるが、かなりの規模を有している。

 俺は、受付に行って院長に会いたいと告げると、直ぐに院長に伝えられ、院長室へと通された。
 手慣れた様子で院長室に入り、挨拶の後、この度、課長に任命されたので担当から外れることと、これまでの礼を述べ、荒木と大鶴を簡単に紹介した。
 院長は、しきりに残念がったが、俺が昇進したことをとても喜んでくれた。
 俺は、さらに、

 「そう言えば、超音波診断装置の具合はどうですか。確か、B社の製品をお使いでしたね」

 「?・・!! そうだ、そうだった。君からA社の方がいいと言われたのに、恩師の薦めで断りにくくてB社にしたんだが、故障が多くてね、困っているんだ・・・」

 「B社の製品は、最も重要な臓器の血流を測定する精密さにやや難があるようですね。中に含まれる媒体の純度が低いのではないかと云う噂があります。あくまで噂ですが・・ その点、A社の製品は、そういった不具合は聞いた事がありません・・」

 「だが、恩師がねぇ・・・」

 「・・馬加田(まかだ)先生なら、B社を信用したのが間違いだったと仰ったと聞いていますが、今ごろは教え子の皆さんに、ご連絡をされているのではないでしょうか・・・」

 「・・そうだろうか? あの先生とB社は・・・」 

 その時、当の馬加田から金須木に電話が入った。
 しばらく電話口で話していた金須木が、

 「君の言ったとおりだよ。「もうすぐ買い替えの時期だろう、僕に遠慮は要らない。患者のことを第一に考えなかった自分の不明を恥じる」とまで仰ったよ!」

 「それは良かったですね。それでは弊社の取り扱いで(おろ)してもよろしいでしょうか」

 「もちろんだよ。よろしく頼むよ。アッハッハッハ」

 それから俺は、超音波診断装置の周辺機器やさらに関連機器の追加注文を受けた。
 受注の話が終わった後、サラファインS(透析液の水質浄化に必要な弱酸性次亜水)のことなど、金須木院長の興味があることを、しばらく話して院長室を辞した。

 荒木
 (・・一体何なんだ? ・・あの尊大で出入りの業者とは口も利かないと言われていた金須木先生が・・それに途中から英語とドイツ語か? ・・専門用語ばかりで何も分からなかった・・・山科は、いや、山科課長は高卒じゃなかったのか? ・・それに、いつの間にか医療機器の商談まで・・一体何なんだ?!・・)

 大鶴
 (・・何を話しているのか、まるっきり分からなかった。それに確か医療機器の注文も取ったんだよな。ぼーっとして聞いていたけど、超音波診断装置が3台と関連機器も幾つか注文してたよな・・数千万円になるんじゃないか?! ・・営業に廻ってる連中は、こんなことをしているのか?・・じゃあ俺は、主任なんてしているけど本当にいいのか? ・・いやいや、山科課長が特別なんだ。そうに違いない・・・)

 拓馬
 (お前たちの思っているとおりだよ。あの院長には今日初めて会ったよ。ふふっ・・・それにしても馬加田先生の突然の心変わりには、今までズブズブだったB社も面食らうだろうな。多分これからB社との間で揉めることになるだろうが、馬加田さん頑張れよ!)


 次に、俺たちは大手の薬局チェーン店の一つに行き、従業員店長と話をした。
 この店長は、独立を考えているのだが、開業のノウハウが無く、誰に相談したら良いのか悩んでいた。
 (ということが、俺には分かる)

 ここで俺はさり気なく、店長ほどの経験があれば、独立も出来るのではないかと水を向けてみた。
 すると、店長は、荒木や大鶴が側にいるにも関わらず、(せき)を切ったように相談を始めた。
 俺は、概略の流れを説明したうえ、詳しくは書類に手順を書いて、また持ってくると約束をした。
 (書類を作ろうと思えば、今すぐにでも出来るのだがな・・・)

 この店長は、やがて一大ドラッグストアチェーンを展開し、大成功をする。
 その時のコネ作りのためだ。
 労力を惜しむつもりは無い。
 (ある程度、他人のことはよく分かることがあるんだが、自分自身のことや自分に近い人のことはあまり分からないんだな・・全く何と言えばいいのか・・・)

 荒木・大鶴
 (・・薬局の開業まで精通しているのか・・それにあの店長は、まるで親友のように課長を信頼しているようだった・・・)


 それから、ある総合病院を訪れた。
 ここには、東南アジアからの介護助手が多く働いている。
 俺は、廊下で会った若い女性の介護助手に声をかけた。

 「やぁ、ミア、元気かい?」

 「?・・! あら、山科さん、ありがとう。元気よ。今日もお仕事?」

 「ああ、君たちに負けないように頑張っているよ」

 荒木「課長、今のは?」

 「ああ、ミャンマー語だ。彼女は、ミャンマー人の介護助手なんだ」

 「「・・・・」」

 そんな調子で、ベトナム人、インドネシア人、タイ人、フィリピン人と次々に挨拶をして廻った。

 荒木「・・課長、言葉、全部、分かるん、ですか?・・・」

 拓馬
 (おいおい、日本語が片言になっているぞ)
 「いやぁ、ちょっとした挨拶程度だよ。あの子たちは、遠く離れた日本に一人でやって来て頑張っているんだ。応援したくなるじゃないか。それにあの子たちの頑張りで患者さんが喜んでくれれば、病院の評判も良くなって、患者さんが増えれば、結果的に俺たちの薬も、もっと売れるだろう」

 「「・・・・」」

 この後も数か所を廻って、荒木と大鶴を連れた挨拶廻りは終わった。

 荒木
 (末田社長と沼田常務の話とは全然違うじゃないか。
 ・・山崎弥太郎氏に取り入って昇進の圧力があった、あいつは全くの無能だ、いずれ(くび)にしてお前を課長にしてやるだと・・・
 とんでもない! 山崎代表は、課長の能力を見抜かれたんだ。無能なのは社長と常務じゃないのか? 俺は、山科課長の底知れない能力が恐ろしい。
 ・・ひょっとしたら馘になるのは社長と常務かもしれない・・・
 少なくとも、山崎代表が認めておられるのは、山科課長に違いない。
 ・・末田社長と沼田常務とは距離を置かないと、選択を間違うことになるかもしれない・・)

 大鶴
 (すごい! すごすぎる・・ 
 ・・末田社長と沼田常務じゃ勝てないんじゃないか・・・
 俺は決めた! これからは課長に付いて行くぞ)

 この日から、荒木と大鶴の二人は、拓馬の忠実な部下となった。
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