第58話 闇の守護者~殺戮
文字数 4,163文字
インドシナでは、当初、直 は敵の占領地に潜入し、敵部隊の動向を探っていた。
だが、敵の侵攻は速く、何度も直は不審者として捕縛された。
その度に、彼は逃亡を図り成功した。
敵のキャンプ地へ連行される道すがら、至る処にジャングルがあり、隙を見てはジャングルに飛び込むのだ。
当然、敵兵は、ジャングルに向けて、機関銃で機銃掃射をするのだが、直に当たることは一度も無かった。
機銃掃射をする場合、どうしても弾丸は思ったより上へ行ってしまう。
彼は、ジャングルに飛び込むと、数歩進んだだけで、地面に伏せたまま24時間以上、身じろぎもしないで時間が経つのを待つのだった。
仮令 、敵兵の姿が見えなくなっても、一歩も動くことは無かった。
そうしないと、再度発見される確率が高いのだ。
だが、敵兵は機銃掃射はするが、決してジャングルの中には入って来なかった。
もし、ジャングルの中に入ってくれば、攻守交替、餌食になるのは彼らなのだ。
戦局は急速に悪化し、もはや敵の動向を探る余裕も無くなった頃、直に後方の日本軍に合流するよう命令が下りた。
司令部に出頭した直は、新たな命令を受けた。
直は、日本軍の虎の子である戦車隊の隊長として、敵の侵攻を食い止めるために、再び前線へと出撃した。
直が、戦車隊の隊長に任命されたのは、豊橋陸軍予備士官学校で、砲兵科を優秀な成績で卒業していたこともあるが、戦地でも直が配属されると、戦死者が極端に減少することが、司令部や兵士たちの間でも知られていたからだ。
直が指揮を取ると分かれば、兵たちの士気が上がることが容易に予想されたし、司令部も彼に大きな期待をしたのだった。
だが、彼には、もう一つの命令が下りていた。
もし、戦車隊での交戦が不能になった場合は、歩兵によるゲリラ戦に転換し、徹底抗戦せよとの命令だった。
直が指揮する戦車隊は、歪 なものであった。
大尉となっていた直を初め、中尉が8名、少尉が25名、計34名の将校と兵が140名であった。
将校34名は、全て陸軍中野学校の出身者たちだった。
陸軍は、戦局の悪化に伴い、ゲリラ戦を想定し、多くの中野学校出身者をインドシナ半島に配置していたのだ。
直の指揮する戦車隊は、戦車砲を持つ戦車が30輌、よく戦車と間違われるが、自走榴弾砲が4門であった。
この他にも装甲戦闘車両10輌、輸送目的の装甲車10輌であり、配置できるものを全て配置したという状況だった。
直の部隊は、よく奮戦し、前線は、一時的に膠着したほどだった。
米軍も、この突出して精強な戦車隊に、本腰で臨まざるを得なかった。
大量の物資と兵員を投入し、大掛かりな掃討戦が始まった。
直は、自身も含めて将校全員が、戦車または自走榴弾砲に搭乗し、直の指揮の下、各地で善戦していたが、とうとう砲弾も底をつき始め、苦戦を強いられるようになった。
ゲリラ戦への転換も、もうすぐだろうと思われた頃、事件は起きた。
直が、南方の島に配属されていた頃、鈴木勘四郎という戦友がいた。
彼は中野学校の同期であり、直とはよく気が合い、よく行動を共にしていた。
食糧が不足していたため、二人はよくマンゴーの樹の下で背中合わせに座り、顔を上にあげ、口を開けて完熟したマンゴーが落ちてくるのを待っていた。
マンゴーは、熟して樹から離れた時が最も美味しい。
しかし、すぐに腐ってしまうので、落ちて来たマンゴーを受け止めて食べるのだ。
もちろん、落ちて来たマンゴーは二人で分けるのだが、分けてもらった方は、数少ない貴重な支給品であるタバコを一本、マンゴーを分けてくれた相手に後で渡すのだった。
土佐にいた頃から、直には彼を慕う者が多かったが、特別親しくしている者が多くいる訳では無かった。
ところが、この鈴木勘四郎は、陸軍中野学校時代から互いに気心が知れ合う数少ない直の大事な友であり、戦友であった。
人の好い勘四郎は、中野学校の教官からは、スパイには向かないと何度も叱責されていたが、直は、そんな勘四郎が好きだったのだ。
直が、司令部壕の設営をしている兵たちの即刻退去を真剣に進言した時、勘四郎は、設営隊の隊長として兵を指揮していた。
あの時、直の進言が無かったら、設営隊は全滅していたかもしれなかった。
勘四郎は、時に触れてはその時のことを思い出し、いつか直に恩返しがしたいと思っていた。
運良くというか、直と一緒にインドシナへの異動となり、この度の戦車隊編成においても、直の部下となって戦うことになったのだった。
事件が起きた時、直は、5輌の戦車と1門の自走榴弾砲を率いて、本拠地を離れ遠征していた。
留守は、最古参の中尉である勘四郎に任せていた。
次第に前線が近くなってきた味方の集落に、何か不穏な気配を感じていた直は、勘四郎には、決して本拠地を離れるなと念を押して戦闘地へ向かった。
何か嫌な予感がしたのだが、もはや余裕のある作戦行動が出来る状況では無かったのだ。
苦しい戦いだったが、どうにか作戦を終え、本拠地への帰途、直のもとへ緊急の伝令があった。
勘四郎が出撃し、戦死したと云うのだ。
留守を守っていた勘四郎は、本拠地の防御を厳にしていた。
敵の進軍は、この頃では予想より早くなっていた。
また、敵の斥候部隊は、強力な威力偵察であり、直の部隊と遭遇すると、そのまま戦闘に突入するのだ。
直たちからすれば、もはや偵察ではなく、敵の進軍であった。
留守を守って防御に徹した陣地構築をしていた勘四郎に、直が不穏な気配を感じていた集落から救援の要請があった。
救援を求めてきたのは、集落の若い夫婦であった。
10名ほどの敵の兵隊が小銃で攻めてきた、村が焼かれ、村人が捕らわれている、抵抗する者は殺されたというものだった。
その若夫婦は、直たちの部隊に食糧を運んで来てくれたりと、隊の者たちとも顔見知りであった。
勘四郎は、直から、あの村には気を付けるよう言われていたが、顔見知りの若夫婦の必死の懇願に、勘四郎は、直の言葉が気になりつつも、急遽、救援隊を編成し、出撃することにした。
小銃で武装し十分な銃弾を装備した勘四郎と30名の兵たちが、集落に近づいた時、突然若夫婦は、隊から逃げるように走り出し離れていった。
(しまった‼)
勘四郎は、ただちに兵たちに迎撃の態勢を取るよう命令したが、その時は既に敵に挟み撃ちになっていたのだ。
待ち伏せを受けた場所はやや開けており迎撃には不利であったが、周囲にはどうにか身を隠す木々があったので、勘四郎たちは、機を見て散会し銃撃による白兵戦に持ち込んだ。
敵味方とも永遠に続くかと思われるような銃撃戦も味方の銃弾が尽き、圧倒的に多い敵の攻撃が優勢となっていった。
一時間後、辺りには味方の死体と硝煙の臭いと血の海が広がっていた。
これを、後方から身じろぎもせずに唇を噛みながら見届けた者がいた。
後方から追尾して、もし救援隊に何かあったら、榊隊長に連絡するよう勘四郎から命令を受けていた兵であった。
その兵は、肺が潰れ、心臓が破裂するのではないかと思われるほど走った。
隊に戻り、軍用バイクに乗り換え、直の下へ走り、事の一部始終を伝えたのだった。
直は、顔面蒼白となり、感情の抜け落ちた振るえる声で、兵たちに本拠地へのただちの帰還を命じた。
本拠地へ戻ると、基地に残っていた隊員たちは、既に戦闘準備を終え、待機していた。
残った全ての戦車、自走榴弾砲には砲弾が充填され、残存している火器、弾薬、砲弾が全て準備されていた。
戦車、自走砲、装甲車に搭乗した榊戦車隊が、件 の集落を双眼鏡で視認出来る場所に到着した時、集落は普段と変わらぬ様子で、子供たちが戸外で遊んでいた。
直は、それをじっと見つめた後、
「撃てー!」
と命令を発した。
直は、出撃の前、敵が潜伏している場所を正確に予測し、敵が潜んでいると思われる集落と、いくつもの叢林に一斉砲撃をしたのだ。
敵はいくつもの叢林に布陣していたため、戦場は広範に及んでいた。
そのため、戦車同士の戦いだけでなく、兵による白兵戦も行われ、あちこちで散発的に戦闘が続いた。
だが、直の的確な先制攻撃が功を奏し、やがて敵戦車は全てが戦闘不能となった。
後は、蹂躙、いや殺戮 だった。
この時、直の精神状態は、もはや普通ではなかった。
視界に入った人間はもちろん、隠れている敵兵も集落の人間も全て殺した。
二時間後、全ての戦闘が終わり、制圧した集落の中は、硝煙と血の臭いで噎 せ返るようだった。
軍靴 の底には血糊がべったりと着き、まるで血の海を歩いているようだった。
直は、この時、初めて血に酔った。
「隊長‼、鈴木中尉です‼、息があります‼」
我に返った直は、声のする方へ走った。
そこには、勘四郎が倒れていた。
重傷の勘四郎は夥 しい出血と、それに拷問のような跡さえあり、誰が見ても手遅れだと分かった。
「勘四郎!死ぬな!死ぬな!」
直は、勘四郎を抱き上げ絶叫した。
苦痛にゆがんだような直の顔は、涙でくしゃくしゃだった。
「へへっ、お前の言う通りだったよ」
「もう何も言うな!衛生兵!衛生兵!」
「本当は、あの時(司令部壕を設営していた時)死んでいたんだ・・おまけを生かせてもらった・・・」
「勘四郎!勘四郎!・・・」
勘四郎は、息を引き取った。
勘四郎の体の下では、集落の子どもが死んでいた。
勘四郎は、子どもを庇うように倒れていたのだ。
裏切られ、拷問され、自分の部隊も全滅させられたのに、勘四郎は、集落の子どもを助けようとしたのだ。
直は、この日最も死なせたくない、いや、死なせてはいけない掛け替えのない友であり戦友を失った。
改めて見回せば、辺りには男も女も集落の全ての住民が死んでいた。
あの若夫婦も、折り重なるように死んでいた。
老人も小さな子どもも赤ちゃんも、全て死んでいた。
直が命令を下して、一人残らず砲撃と射撃で殺したのだ。
直も、銃身が熱くなって持てなくなるまで撃った。
・・集落一面の血の海の中で倒れている数多 の無残な死体・・・
この時の光景は、今でもはっきりと目に浮かぶ。
この頃、直が毎夜魘 される夢は、この時の光景だった。
だが、敵の侵攻は速く、何度も直は不審者として捕縛された。
その度に、彼は逃亡を図り成功した。
敵のキャンプ地へ連行される道すがら、至る処にジャングルがあり、隙を見てはジャングルに飛び込むのだ。
当然、敵兵は、ジャングルに向けて、機関銃で機銃掃射をするのだが、直に当たることは一度も無かった。
機銃掃射をする場合、どうしても弾丸は思ったより上へ行ってしまう。
彼は、ジャングルに飛び込むと、数歩進んだだけで、地面に伏せたまま24時間以上、身じろぎもしないで時間が経つのを待つのだった。
そうしないと、再度発見される確率が高いのだ。
だが、敵兵は機銃掃射はするが、決してジャングルの中には入って来なかった。
もし、ジャングルの中に入ってくれば、攻守交替、餌食になるのは彼らなのだ。
戦局は急速に悪化し、もはや敵の動向を探る余裕も無くなった頃、直に後方の日本軍に合流するよう命令が下りた。
司令部に出頭した直は、新たな命令を受けた。
直は、日本軍の虎の子である戦車隊の隊長として、敵の侵攻を食い止めるために、再び前線へと出撃した。
直が、戦車隊の隊長に任命されたのは、豊橋陸軍予備士官学校で、砲兵科を優秀な成績で卒業していたこともあるが、戦地でも直が配属されると、戦死者が極端に減少することが、司令部や兵士たちの間でも知られていたからだ。
直が指揮を取ると分かれば、兵たちの士気が上がることが容易に予想されたし、司令部も彼に大きな期待をしたのだった。
だが、彼には、もう一つの命令が下りていた。
もし、戦車隊での交戦が不能になった場合は、歩兵によるゲリラ戦に転換し、徹底抗戦せよとの命令だった。
直が指揮する戦車隊は、
大尉となっていた直を初め、中尉が8名、少尉が25名、計34名の将校と兵が140名であった。
将校34名は、全て陸軍中野学校の出身者たちだった。
陸軍は、戦局の悪化に伴い、ゲリラ戦を想定し、多くの中野学校出身者をインドシナ半島に配置していたのだ。
直の指揮する戦車隊は、戦車砲を持つ戦車が30輌、よく戦車と間違われるが、自走榴弾砲が4門であった。
この他にも装甲戦闘車両10輌、輸送目的の装甲車10輌であり、配置できるものを全て配置したという状況だった。
直の部隊は、よく奮戦し、前線は、一時的に膠着したほどだった。
米軍も、この突出して精強な戦車隊に、本腰で臨まざるを得なかった。
大量の物資と兵員を投入し、大掛かりな掃討戦が始まった。
直は、自身も含めて将校全員が、戦車または自走榴弾砲に搭乗し、直の指揮の下、各地で善戦していたが、とうとう砲弾も底をつき始め、苦戦を強いられるようになった。
ゲリラ戦への転換も、もうすぐだろうと思われた頃、事件は起きた。
直が、南方の島に配属されていた頃、鈴木勘四郎という戦友がいた。
彼は中野学校の同期であり、直とはよく気が合い、よく行動を共にしていた。
食糧が不足していたため、二人はよくマンゴーの樹の下で背中合わせに座り、顔を上にあげ、口を開けて完熟したマンゴーが落ちてくるのを待っていた。
マンゴーは、熟して樹から離れた時が最も美味しい。
しかし、すぐに腐ってしまうので、落ちて来たマンゴーを受け止めて食べるのだ。
もちろん、落ちて来たマンゴーは二人で分けるのだが、分けてもらった方は、数少ない貴重な支給品であるタバコを一本、マンゴーを分けてくれた相手に後で渡すのだった。
土佐にいた頃から、直には彼を慕う者が多かったが、特別親しくしている者が多くいる訳では無かった。
ところが、この鈴木勘四郎は、陸軍中野学校時代から互いに気心が知れ合う数少ない直の大事な友であり、戦友であった。
人の好い勘四郎は、中野学校の教官からは、スパイには向かないと何度も叱責されていたが、直は、そんな勘四郎が好きだったのだ。
直が、司令部壕の設営をしている兵たちの即刻退去を真剣に進言した時、勘四郎は、設営隊の隊長として兵を指揮していた。
あの時、直の進言が無かったら、設営隊は全滅していたかもしれなかった。
勘四郎は、時に触れてはその時のことを思い出し、いつか直に恩返しがしたいと思っていた。
運良くというか、直と一緒にインドシナへの異動となり、この度の戦車隊編成においても、直の部下となって戦うことになったのだった。
事件が起きた時、直は、5輌の戦車と1門の自走榴弾砲を率いて、本拠地を離れ遠征していた。
留守は、最古参の中尉である勘四郎に任せていた。
次第に前線が近くなってきた味方の集落に、何か不穏な気配を感じていた直は、勘四郎には、決して本拠地を離れるなと念を押して戦闘地へ向かった。
何か嫌な予感がしたのだが、もはや余裕のある作戦行動が出来る状況では無かったのだ。
苦しい戦いだったが、どうにか作戦を終え、本拠地への帰途、直のもとへ緊急の伝令があった。
勘四郎が出撃し、戦死したと云うのだ。
留守を守っていた勘四郎は、本拠地の防御を厳にしていた。
敵の進軍は、この頃では予想より早くなっていた。
また、敵の斥候部隊は、強力な威力偵察であり、直の部隊と遭遇すると、そのまま戦闘に突入するのだ。
直たちからすれば、もはや偵察ではなく、敵の進軍であった。
留守を守って防御に徹した陣地構築をしていた勘四郎に、直が不穏な気配を感じていた集落から救援の要請があった。
救援を求めてきたのは、集落の若い夫婦であった。
10名ほどの敵の兵隊が小銃で攻めてきた、村が焼かれ、村人が捕らわれている、抵抗する者は殺されたというものだった。
その若夫婦は、直たちの部隊に食糧を運んで来てくれたりと、隊の者たちとも顔見知りであった。
勘四郎は、直から、あの村には気を付けるよう言われていたが、顔見知りの若夫婦の必死の懇願に、勘四郎は、直の言葉が気になりつつも、急遽、救援隊を編成し、出撃することにした。
小銃で武装し十分な銃弾を装備した勘四郎と30名の兵たちが、集落に近づいた時、突然若夫婦は、隊から逃げるように走り出し離れていった。
(しまった‼)
勘四郎は、ただちに兵たちに迎撃の態勢を取るよう命令したが、その時は既に敵に挟み撃ちになっていたのだ。
待ち伏せを受けた場所はやや開けており迎撃には不利であったが、周囲にはどうにか身を隠す木々があったので、勘四郎たちは、機を見て散会し銃撃による白兵戦に持ち込んだ。
敵味方とも永遠に続くかと思われるような銃撃戦も味方の銃弾が尽き、圧倒的に多い敵の攻撃が優勢となっていった。
一時間後、辺りには味方の死体と硝煙の臭いと血の海が広がっていた。
これを、後方から身じろぎもせずに唇を噛みながら見届けた者がいた。
後方から追尾して、もし救援隊に何かあったら、榊隊長に連絡するよう勘四郎から命令を受けていた兵であった。
その兵は、肺が潰れ、心臓が破裂するのではないかと思われるほど走った。
隊に戻り、軍用バイクに乗り換え、直の下へ走り、事の一部始終を伝えたのだった。
直は、顔面蒼白となり、感情の抜け落ちた振るえる声で、兵たちに本拠地へのただちの帰還を命じた。
本拠地へ戻ると、基地に残っていた隊員たちは、既に戦闘準備を終え、待機していた。
残った全ての戦車、自走榴弾砲には砲弾が充填され、残存している火器、弾薬、砲弾が全て準備されていた。
戦車、自走砲、装甲車に搭乗した榊戦車隊が、
直は、それをじっと見つめた後、
「撃てー!」
と命令を発した。
直は、出撃の前、敵が潜伏している場所を正確に予測し、敵が潜んでいると思われる集落と、いくつもの叢林に一斉砲撃をしたのだ。
敵はいくつもの叢林に布陣していたため、戦場は広範に及んでいた。
そのため、戦車同士の戦いだけでなく、兵による白兵戦も行われ、あちこちで散発的に戦闘が続いた。
だが、直の的確な先制攻撃が功を奏し、やがて敵戦車は全てが戦闘不能となった。
後は、蹂躙、いや
この時、直の精神状態は、もはや普通ではなかった。
視界に入った人間はもちろん、隠れている敵兵も集落の人間も全て殺した。
二時間後、全ての戦闘が終わり、制圧した集落の中は、硝煙と血の臭いで
直は、この時、初めて血に酔った。
「隊長‼、鈴木中尉です‼、息があります‼」
我に返った直は、声のする方へ走った。
そこには、勘四郎が倒れていた。
重傷の勘四郎は
「勘四郎!死ぬな!死ぬな!」
直は、勘四郎を抱き上げ絶叫した。
苦痛にゆがんだような直の顔は、涙でくしゃくしゃだった。
「へへっ、お前の言う通りだったよ」
「もう何も言うな!衛生兵!衛生兵!」
「本当は、あの時(司令部壕を設営していた時)死んでいたんだ・・おまけを生かせてもらった・・・」
「勘四郎!勘四郎!・・・」
勘四郎は、息を引き取った。
勘四郎の体の下では、集落の子どもが死んでいた。
勘四郎は、子どもを庇うように倒れていたのだ。
裏切られ、拷問され、自分の部隊も全滅させられたのに、勘四郎は、集落の子どもを助けようとしたのだ。
直は、この日最も死なせたくない、いや、死なせてはいけない掛け替えのない友であり戦友を失った。
改めて見回せば、辺りには男も女も集落の全ての住民が死んでいた。
あの若夫婦も、折り重なるように死んでいた。
老人も小さな子どもも赤ちゃんも、全て死んでいた。
直が命令を下して、一人残らず砲撃と射撃で殺したのだ。
直も、銃身が熱くなって持てなくなるまで撃った。
・・集落一面の血の海の中で倒れている
この時の光景は、今でもはっきりと目に浮かぶ。
この頃、直が毎夜