第85話 運命の女性~明子
文字数 1,925文字
ここで、現在の拓馬に戻り、本題の方も少し進めておきたいと思います。
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2019年12月
師走になった。
拓馬は、11月末の建墓の時は、社長就任後の慌ただしさが、一段落したと思っていたのだが、12月に入ると再び、文字通り走り廻るような忙しさになった。
年末も押し詰まり大晦日 も近い今日は、五菱商事国内商事部門本部ビルに東京メディシンのその後の経過報告に来ていた。
拓馬が、五菱商事国内商事部門本部ビルに入るのは今日が初めてだった。
いつもは、都内にある本社ビルで弥一郎や荘田副社長、それに吉岡国内商事部門本部長と会うのだが、今日は、国内商事部門本部ビルに来てほしいと弥一郎から直接電話があったのだ。
拓馬は、この頃弥一郎からの電話が、非常に丁寧で何か緊張しているような感じがするのを訝 しく思うのだが、あまり詮索はしないことにした。
それどころではない忙しさだったからだ。
今日の経過報告は、特に問題は無いのだが、なぜか拓馬自身緊張しており、本部ビルに入る前、念のため身だしなみをチェックするのだった。
自動ドアが開いてビルの中に入り、受付へ向かおうとしたのだが、受付カウンターの中央に立っている美しい女性に、拓馬はくぎ付けになったのだった。
拓馬には、その女性の周りだけが、まるで輝いているように見えたのだ。
その女性は、美しいだけでなく人を包み込むような優しさとおおらかさ、それに明るさを拓馬は感じた。
それだけではない。
拓馬は、あの女性こそずっと探し求めていた、
(運命の女性 に違いない。自分はあの女性に会うために生きてきたのだ)
と、確信したのだった。
それは、このような気持ちになることが実際にあるんだなと不思議に思いながら、いや、実際自分は今運命の女性に会ったんだという確信であり、湧き上がる喜びであり、感動だった。
拓馬は、その女性から目が離せなかった。
拓馬は、とっさに女性の胸に付いているネームプレートを確認した。
常人であれば、見えるはずのない距離であったが、拓馬にとっては全く問題はなかった。
女性の胸のネームプレートには、
【皆藤 明子 】
と記載されていた。
拓馬が皆藤明子に気付き、名前を確認したのは、自動ドアから中へ1、2歩いた時間だったろう。
その時、奥から弥一郎と荘田副社長、さらに彼らを追うように吉岡本部長、総務部長が拓馬に向かって急ぎ足でやってきた。
それは、まるで駆け足に近いものだった。
弥一郎と荘田副社長は、立ち止まると、深々と拓馬に頭を下げた。
それを見た吉岡本部長と総務部長も慌てて同じように頭を下げたのだった。
これでは、どちらが孫会社か分からないではないか、さすがの拓馬も驚き、狼狽してしまった。
周りの人たちも一体何が起こったのかと驚きの目で見ていたのだが、拓馬は弥一郎にうながされるままエレベータに向かい、中に入ったのだった。
弥一郎たちに案内された部屋は、本部長室だった。
ここでも、弥一郎と荘田副社長が、拓馬に一番の上座と思しき席を勧めたので、拓馬は、さすがにこればかりは辞退したのだった。
東京メディシンの事業の進捗状況の説明は、特に何もなく終わった。
最後に拓馬は、どうしても聞きたいことを尋ねた。
「受付の女性に皆藤明子さんという方がいらっしゃいますが、どの様な方かよろしければ教えていただけないでしょうか」
誰に尋ねるという風でもなく尋ねてみた。
ただ、今日の会議の席には、総務部長が同席していたので、拓馬は、何か彼女の情報を得られればと思ったのだ。
能力を使って彼女のことを知ろうとは思わなかった。
拓馬は、大事な人には、その人に何か危険が生じない限り、能力を使うことは極力避けることにしていたのだ。
それに答えたのは、弥一郎社長だった。
「あの子は、
それから、総務部長に向かって、
「君には黙っていて悪かった。初めからこのことを知っていたのは荘田君だけなんだ。娘が五菱商事に内定したことを知った後、本社の人事部長、そしてここ国内商事部門の吉岡君と人事部長にだけ知らせたんだ。特別扱いはしないようにとの要望付きでね。君も娘に対しては今まで通りでお願いしたい。また、時期が来るまでこのことは他言無用で願いたいのだが、いいかい」
「もちろんでございます! 決して他言は致しません!」
総務部長は、大きな声で答えると、口を真一文字に結び、固まったままだった。
拓馬は、口を開けたまま固まっていた。
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2019年12月
師走になった。
拓馬は、11月末の建墓の時は、社長就任後の慌ただしさが、一段落したと思っていたのだが、12月に入ると再び、文字通り走り廻るような忙しさになった。
年末も押し詰まり
拓馬が、五菱商事国内商事部門本部ビルに入るのは今日が初めてだった。
いつもは、都内にある本社ビルで弥一郎や荘田副社長、それに吉岡国内商事部門本部長と会うのだが、今日は、国内商事部門本部ビルに来てほしいと弥一郎から直接電話があったのだ。
拓馬は、この頃弥一郎からの電話が、非常に丁寧で何か緊張しているような感じがするのを
それどころではない忙しさだったからだ。
今日の経過報告は、特に問題は無いのだが、なぜか拓馬自身緊張しており、本部ビルに入る前、念のため身だしなみをチェックするのだった。
自動ドアが開いてビルの中に入り、受付へ向かおうとしたのだが、受付カウンターの中央に立っている美しい女性に、拓馬はくぎ付けになったのだった。
拓馬には、その女性の周りだけが、まるで輝いているように見えたのだ。
その女性は、美しいだけでなく人を包み込むような優しさとおおらかさ、それに明るさを拓馬は感じた。
それだけではない。
拓馬は、あの女性こそずっと探し求めていた、
(運命の
と、確信したのだった。
それは、このような気持ちになることが実際にあるんだなと不思議に思いながら、いや、実際自分は今運命の女性に会ったんだという確信であり、湧き上がる喜びであり、感動だった。
拓馬は、その女性から目が離せなかった。
拓馬は、とっさに女性の胸に付いているネームプレートを確認した。
常人であれば、見えるはずのない距離であったが、拓馬にとっては全く問題はなかった。
女性の胸のネームプレートには、
【
と記載されていた。
拓馬が皆藤明子に気付き、名前を確認したのは、自動ドアから中へ1、2歩いた時間だったろう。
その時、奥から弥一郎と荘田副社長、さらに彼らを追うように吉岡本部長、総務部長が拓馬に向かって急ぎ足でやってきた。
それは、まるで駆け足に近いものだった。
弥一郎と荘田副社長は、立ち止まると、深々と拓馬に頭を下げた。
それを見た吉岡本部長と総務部長も慌てて同じように頭を下げたのだった。
これでは、どちらが孫会社か分からないではないか、さすがの拓馬も驚き、狼狽してしまった。
周りの人たちも一体何が起こったのかと驚きの目で見ていたのだが、拓馬は弥一郎にうながされるままエレベータに向かい、中に入ったのだった。
弥一郎たちに案内された部屋は、本部長室だった。
ここでも、弥一郎と荘田副社長が、拓馬に一番の上座と思しき席を勧めたので、拓馬は、さすがにこればかりは辞退したのだった。
東京メディシンの事業の進捗状況の説明は、特に何もなく終わった。
最後に拓馬は、どうしても聞きたいことを尋ねた。
「受付の女性に皆藤明子さんという方がいらっしゃいますが、どの様な方かよろしければ教えていただけないでしょうか」
誰に尋ねるという風でもなく尋ねてみた。
ただ、今日の会議の席には、総務部長が同席していたので、拓馬は、何か彼女の情報を得られればと思ったのだ。
能力を使って彼女のことを知ろうとは思わなかった。
拓馬は、大事な人には、その人に何か危険が生じない限り、能力を使うことは極力避けることにしていたのだ。
それに答えたのは、弥一郎社長だった。
「あの子は、
私の娘
です」それから、総務部長に向かって、
「君には黙っていて悪かった。初めからこのことを知っていたのは荘田君だけなんだ。娘が五菱商事に内定したことを知った後、本社の人事部長、そしてここ国内商事部門の吉岡君と人事部長にだけ知らせたんだ。特別扱いはしないようにとの要望付きでね。君も娘に対しては今まで通りでお願いしたい。また、時期が来るまでこのことは他言無用で願いたいのだが、いいかい」
「もちろんでございます! 決して他言は致しません!」
総務部長は、大きな声で答えると、口を真一文字に結び、固まったままだった。
拓馬は、口を開けたまま固まっていた。